俳優の中村ゆりさんが、2026年9月1日に亡くなったと所属事務所が発表した。
2023年1月のインタビュー記事を、哀悼の意を込めて再掲する。
中村さんは一度、がんを患い、寛解した後、検査を受けながら仕事を続けていた。
後編では、その中で語られた人生観や「幸せ」についての考えを伝える。※一部を再構成
念願叶って“素”の自分に近い楽しくお酒を飲む仕事が…
2020年、中村さんは、「今夜はコの字で」(BSテレ東)で連続ドラマ初主演(浅香航大さんとW主演)を果たす。会社の中でうまくやれない後輩男子(浅香)をコの字のカウンターがある大衆居酒屋に連れ出し、昔ながらの居酒屋文化に触れさせながら元気づけていくフードコーディネーターのケイコ先輩を演じた。
毎回、実際にあるコの字の居酒屋が登場し、おいしそうな料理とお酒も見どころに。2022年にはシーズン2も放送された。
―毎回、ものすごくおいしそうにお酒を飲んでおつまみを召し上がっていましたね−
「そういう仕事がしたいとずっと言っていたんですね。『楽しくお酒を飲んだりおいしいものを食べられる仕事が来ないかな』って言っていたら『来たー』みたいな感じだったので、『言霊(ことだま)だ』って思いました。
監督やスタッフさんも前にお仕事をしたことがある方たちで、一緒にお酒を飲んだりして
いたので、私の性格を知っているから、結構素の私を活かしてくださっているという感じがすごくあって。本当にご褒美(ほうび)みたいな仕事だなあって思いました」
―撮影の時にお酒は実際に飲んでいるのですか?−
「あれは自由で、自己判断で飲んでいいんですね。浅香くんもすごい飲む子だし、シーズン1の時には楽しく飲もう!みたいな感じで。
―見ていて楽しいですよね。お酒が飲みたくなりますー
「ありがとうございます。撮影もめちゃめちゃ楽しいです。夜あれを見ると『お腹(なか)空いたー』って思っちゃう(笑)」
―コロナ禍で撮影が大変だったのでは?
「1の撮影はコロナ前だったんです。でも、2の時もひとりも感染者を出さずに撮影を終えられたので良かったです」
戦慄展開の不倫ドラマで包丁を振り回す怖い妻役に…「途中から邪念がなくなっていった」
2021年、中村さんは、戦慄展開の不倫サスペンス「ただ離婚してないだけ」(テレビ東京系)に出演。中村さんは、北山宏光(Kis-My-Ft2)さん演じる主人公・柿野正隆の妻で小学校教師の雪映役。結婚7年目の2人は、正隆の遊び心の浮気がきっかけで血みどろの最悪の事態に…という展開。
―衝撃的な展開でしたが、最初から知らされていたのですか?−
「はい。お話をいただいた時にはもう12話までざっくりしたものができていました。監督が映画監督なので、台本が揃っていないとやりたくないというこだわりがあって、先々の展開も全部聞いていました。原作漫画もあるんですけど、漫画とはちょっと変えているんです。あのドラマは本当に出会えて良かったと思っています」
―中村さんは、可憐な人妻から怖いくらいに強い女に変わっていって…。人は変わるものなんだなということがよくわかるドラマでしたー
「そうですね。すごく強い女性だなって思います。最初は弱々しいけど、子どもを自分の中に宿し、そのことを確実に思い描いた時のあの執念と強さみたいなものは、やっていて面白かったです」
―前半と後半では全く顔つきも変わっていて驚きましたー
「役に取り組む時というのは、こうしようとかああしよう、こう見せたほうがいいかなという感じで組み立てていくじゃないですか。
でも、あの役に関しては、自分の中で途中から邪念がなくなっていったんですね。もうこれしかないみたいなものが全部見つかっていった感じだったので、本当に面白かったです。
監督も湯気が出るんじゃないかというくらい興奮状態で作品に向かっていて、現場が全員そうだったので、あんなに志気の高い現場に出会えたのはとても幸福なことでしたね」
―見ているほうも、手に汗握って見ていましたー
「すごい話ですからね。よくドラマになったなあって思います(笑)」
―ご自分でご覧になっていかがでした?−
「自分では、雪映さんが覚醒してからがすごく好きです(笑)。最初のモヤモヤしている時は、イラッとなるけど、覚醒してからの彼女の強さみたいなのは好きです。あと包丁を振り回してバイオレンスみたいなこともやったので、『どうやって刺してやろうかな』とか。ワクワクしました(笑)」
―包丁を持って追いかけ回しますからね−
「そうなんですよ。私は結構男っぽい作品が好きで、あの作品も結構バイオレンスなので楽しんでいましたね」
―すごい変貌ですよね。最初はさっさと別れちゃえばいいのにと思いましたが−
「そうそう。『この男のどこがいいの?』って思いますけど、あの人があそこまで子どもに執着するというのは、夫への執着もやっぱりすごい愛情深い人だと思うし、ダメな人(男)をサポートしちゃう人なんでしょうね。
でも、あの夫婦関係が、お互いに罪を背負って仲が深まっていくというのが、悲しいけれど物語としては面白いですよね。
北山さんは、若い頃から芸能界で沢山の経験をされてきたと思います。それがいい形で出せる方なので、一緒にお芝居をしていてとても楽しかったです。しかも回を増すごとにどんどん深く、鋭くなっていきましたよね」
―あのドラマの中では、アイドルじゃなかったですものね−
「本当にそうですよね。私は正直、それまでしばらくの間、役者として若干行き詰まっていたというか、自信の持てない時期があったんですね。
でも、仕事が目の前にあるから一生懸命こなしていくという期間がちょっと続いちゃっていたんですけど、『ただ離婚してないだけ』に出会って、また欲が出たというか…。またこういう仕事がしたいなって思うような、改めて向上心に火がついた作品でした」
―途切れることなく、いろいろな作品に出演されていらっしゃいますね−
「そうは言っていただけますけど、やっぱり自信のない時期がポコポコッと出て来るんですよね。すごく忙しくなると、幸福度が減っていく時があるんです。
でも、すごくやりがいのある作品にと出会えると、『これだ、これだ!もっと頑張ろう』っていう気持ちになるんです。『ただ離婚してないだけ』はそういう作品でした」
2022年の後半は、ドラマ「クロサギ」に謎めいた女・早瀬かの子役で出演し、流暢な中国語と美しいチャイナドレス姿も話題に。
「『中国語が堪能な役だよ』って言われたので、本当に必死に練習しました。日本語にはない発音がいっぱいあるから難しかったです。練習あるのみだったんですけど、スタッフさん皆さんが拍手して喜んでくださって、それが励みになりました」
―スタイルも良いのでチャイナドレスも似合って画になっていましたー
「ありがとうございます。実際にはあのようなチャイナドレスを着ている人はいないんですけどね(笑)。楽しかったです」
人気シリーズ映画でミステリアスな美女役に
このインタビュー当時(2023年1月)に映画「嘘八百 なにわ夢の陣」が公開された。この映画は、目利き古美術商・小池則夫(中井貴一)と腕の立つ陶芸家・野田佐輔(佐々木蔵之介)のはずが、くすぶり続ける“骨董コンビ”の活躍を描く人気シリーズ第3弾。
太閤秀吉の縁起モノ「秀吉七品」の中で、唯一所在不明の幻のお宝「鳳凰」という一攫千金のお宝を巡り、騙し合いが…という展開。中村さんは、“TAIKOH”と名乗るカリスマ波動アーティスト(安田章大)の財団を仕切る謎の美女・寧々を演じた。
「『普段やらない役をやらない?』ということだったんですけど、台本をいただいた時に、どんな役なのか理解できなくて、一度監督と話さないと簡単に『やります』とは言えないなと思って、話す時間を作っていただきました。
武正晴監督は、『パッチギ!LOVE&PEACE』のチーフ助監督で、それこそあの時の助監督さんたちは、みんな今、立派な監督になっているんですね。
ありがたいことに皆さん、監督になっても声をかけてくださるんですけど、当時の自分を見られているし、あの厳しい現場にいた人たちだから、いまだに、妙な緊張感が自分の中にあって(笑)。
武さんにも『難しい役ですね』って言ったら、『絶対大丈夫、大丈夫。できる!』って言ってくださって。役の背景とかもいろいろ聞いた中で、キャラクターとして何か作っていかなきゃいけないんじゃないかというのがあったんですけど、武さんは、『寧々の生い立ちみたいなものをしっかりと考えて、リアリティーのある人間として組み立ててほしい。だから異質であっていいんだ』とおっしゃってくださって。
シリーズ第3弾まで続いているというのもあって、何かお正月っぽい明るさとめでたい感がある中に、ハートウォーミングなお話も入っていて、より豊かな映画になったかなと思います」
―劇中の中村さんはミステリアスな雰囲気で、今までのイメージとはまた違いましたー
「そうですね。衣装も結構派手ですしね。関西でお金を持っている女の人はあんな感じなのかなって(笑)。ウィッグも衣装も全部監督の意見で、ウィッグは子どもっぽくならないかなってちょっと心配していたんですけど、メイクさんが大人っぽいメイクをしてくださったのでミステリアスな大人という感じになりました」
―クールビューティーという感じで映えていました。凄みもあってー
「出自がとても複雑でサポートしてくれる体制もなかった中で、一代で成功してあそこまで上り詰めたというのは、やっぱり鉄のような強さがあるんだと思うけど、その一方で脆(もろ)さも片側に絶対あるんだろうなあと思ってやっていました。
波動アーティストと、表向きの印象は怪しげだけど、TAIKOH自身はとても純粋なアーティストじゃないですか。だからサポートする寧々さんとしては、ビジネス面でのしたたかさがないと、あの二人は成功しなかったと思うんですよね」
―撮影はどんな感じだったのですか?−
「15歳まで住んでいた大阪のロケも楽しかったですけど、本当に愉快なおじさんたちが、ずーっと喋りかけてくださって、ものすごく面白かったです(笑)。
初日から中井貴一さんと佐々木蔵之介さんと一緒のシーンから始まって、しかも私の長セリフもあったので、めちゃめちゃ緊張していたんですね。
その時に中井さんが『中村さん、緊張する?』って声をかけてくださって、『めっちゃ緊張します』って言ったら、『僕もいまだに緊張するよ』って、すごい気遣ってくださって。
中井さんは、そういうポイントポイントで、誰にでも気遣ってくださる方なので、『真ん中に立つ方というのは、やっぱり人格者が多いなあ』って思いました。
最後の種明かしみたいなところでは、笹野(高史)さんがずっとふざけているのを中井さんが突っ込んであげていて、それは見ているだけで楽しかったです。私はシリアスなシーンなのに、ずっとふざけているんですよ(笑)。でも、すごく楽しく、いい現場でした」
幸せの形はいろいろ。癒しの存在は愛犬「毎日家に帰るのが楽しみに」
この年、女優生活20年を迎えた中村さん。主演作、話題作出演が続いているが、自分では地道に歩んで来た感じがするという。
―これまでに辞めたいと思ったことはありますか−
「辞めたいと思ったことはないですけど、ちょっと悲観的になったことはあります。誰だってありますよね。生きていると。いろんな幸せの形がある中で、仕事ばかりしていると、『いつまで頑張るんだろうなあ』って考えちゃうことはあります。
でも、どの境遇にいてもそれぞれみんな何か抱えている。どんな人にも。だから悲観的になるよりも、今こうして自分に仕事がちゃんとあって、これだけで食べていけているということの貴重さのほうが、本当にありがたいですし、自分もここまでよく続けてきたなあっていう思いのほうが大きいです」
―ご家族は中村さんのお仕事に関して何かおっしゃっていますか−
「母は一緒に暮らしているんですけど、私の仕事に興味がなくて(笑)。テレビで『ママ、これ私出てんで』って言うと、『ママは韓国ドラマが見たいから変えて』なんて言っています。
でも、仕事に関しては厳しかったんですよ。『あんたこれチャンスやねんから、ちゃんと行きなさい』とか。でも、全然ミーハーじゃないので楽です。メイクさんがきれいにしてくれた写真を見たりすると、『えらいこれ盛れてるなあ』とか言って喜んでいますけど(笑)。
ただ、『パッチギ!LOVE&PEACE』を初めて観た時は、『あんた、もうちょっと目で芝居せなあかんで』って言ってきて、イラッとしました(笑)」
愛犬家としても知られ、現在はポメラニアンの“天”ちゃんと暮らしている中村さん。インスタにもたびたび登場し、愛らしい姿で人気を集めている。
「溺愛しています。小さい頃から動物が大好きで、初めて犬を飼ったのは小学校1年だったんですけど、『飼ってくれないとご飯を食べない』って言って無理矢理。そこから家族全員が動物にハマッて、とても大事にしています」
―天ちゃんが一番癒してくれる存在ですか?−
「はい。毎日家に帰るのが楽しみですからね。大げさかもしれないけど、命を預かっているし、自由のない子たちを勝手に親元から離して、人間のエゴで飼っているわけじゃないですか。だから、とびきり幸せに過ごさせてあげたいと思って溺愛しています。すごく健気な存在ですからね。みんな大事にしてあげてほしいです」
― 2022年はどんな年でした?−
「本当に良いお仕事もたくさんさせていただいてありがたかったです。ただ、年齢なりのホルモンバランスの崩れみたいなものは、リアルにちょっと感じたので、そこはちょっと苦しかったかな。
でも、それも私だけじゃないんだって。年齢の近い女優さんと話した時に、みんな同じだということがわかってからは、サプリメントを試してみたりとか、そういうので乗り越えられたというのもありますし。本当に周りも良い方しかいないし、すごく恵まれていたなあと思います」
−趣味のスキューバダイビングには?−
「沖縄に行く予定だったんですけど、台風と重なっちゃったので、行き先を変えて湖でサップしたりしていました。私には、そういう時間がとても大事なんです。
そういうことが本当に人生の一番の楽しさなので、大人になってからは自分のメンタリティーの維持とかも、きちんと自分ですべきだと思うから、本当に自分が幸福だと思う時間も仕事と同じくらい大事にしたいと思っています」
華奢な身体からは想像できないほど、熱く激しいパワーを秘めた人
中村ゆりさんに取材させていただいたのは、2023年に公開された映画「嘘八百 なにわ夢の陣」の時。
スリムなプロポーションに可憐で儚げな美貌が印象的で、どこから撮っても「画」になる美しい人。ずっと見ていたいと思う人だった。
唯一無二の存在感を放ち、出世作となった映画「パッチギ!LOVE&PEACE」(井筒和幸監督)のオーディションに賭ける思いなど、華奢な身体からは想像できないほど、熱く激しいパワーを秘めた人だった。
昨年は、草なぎ剛さん主演ドラマ「終幕のロンド」(フジテレビ系)も話題になり、今後の活躍が期待されていただけに残念でならない。
病と闘いながら多くの映画、ドラマに出演してきた中村ゆりさん。スクリーンの中でこれからも貴女は輝き続けます。
長い間、お疲れさまでした。(津島令子)