高校2年生の時に「第15回ホリプロタレントスカウトキャラバン」で3万人以上の応募者の中からグランプリを受賞し、俳優デビューした戸田菜穂さん。連続テレビ小説「ええにょぼ」(NHK)のヒロインとして広く知られ、「テイオーの長い休日」(東海テレビ・フジテレビ系)、「泥濘の食卓」(テレビ朝日系)、連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)など話題作出演も多数。10月2日(金)に映画「沖晴くんの涙を殺して」(矢崎仁司監督)、10月9日(金)に映画「遥かな町へ」(錦織良成監督)、11月20日(金)に映画「ないものねだりの君に光の花束を」(安藤尋監督)が公開される。(この記事は全3回の後編。前編と中編は記事下のリンクからご覧になれます)
■小学校5年生の時に俳句が1位に
俳優として多くのドラマ、映画に出演してきただけでなく、「NHK俳句」の司会やナレーション。日経新聞のエッセー連載など幅広い分野で活躍中。2010年には、俳人・大高翔さんと「恋俳句レッスン 俳句は恋を育てる」(マガジンハウス)を出版。
――俳句は小学生の頃からだそうですね
「はい。小学校5年生の授業参観の時に1位になって。ちょっと大人みたいな俳句を詠んだんです。『春の雪降っても積もらず溶けていく』というのは、自分の家のリビングから向かいの家の屋根の上の雪が本当に溶けてなかったのを読んだだけなんですけど、それが良かったみたいで。
ほかのみんなはもうちょっと可愛らしい俳句だったんです。それで選ばれたから嬉(うれ)しくて。私は内気な少女だったので、俳句だけでなく、原稿用紙に小説とか脚本など色々書いたりはしていました。恥ずかしくて人に見せられなかったんですけど(笑)。『月刊シナリオ』(シナリオ作家協会)という本は買っていました。書くことは好きですね」
2023年、「テイオーの長い休日」に出演。この作品は、リアル2時間ドラマの帝王・船越英一郎さんが、1年以上仕事がない2時間ドラマの帝王役に挑戦。年齢も性別も違うベテラン俳優とマネジャーの凸凹コンビがぶつかりあいながら、人生のリベンジに奔走する様を描いたもの。
船越さん演じる主人公・熱護(あつもり)大五郎は、テレビ局が2時間サスペンスが作らなくなり、1年以上仕事がない。そんな彼の前に、ある事情で業界を追われ、3人の子どもを持つシングルマザーとなった、元敏腕マネジャー・吉田ゆかり(戸田菜穂)が現れる。ゆかりは、「絶対に再起させます!」と宣言するが、熱護に振り回されることに…という展開。
――船越さんが2時間ドラマで演じたキャラクターが登場するのも面白かったです
「そうなんです。評判も良くて嬉しかったです。あの役は、フットワーク良く若々しく演じようと思って頑張りました(笑)」
――ゆかりさんのひたむきさが伝わりました
「ありがとうございます。夫を亡くして3人の子どもを抱えているわけですから、何とかしなくちゃいけないって必死ですよね」
――2時間ドラマが大好きで見ていたので、いろいろな作品が頭に浮かんで楽しかったです
「船越さんの主演ドラマのパロディみたいなシーンもたくさんありましたからね。みんなで楽しんでやっていました。船越さんとは、『赤ひげ』(NHK)でご一緒していましたし、本当に優しくてあらゆるところに目配りしてくださっていて。とても良くしていただきました。テイオー役はご本人もとても楽しんでやっていらして、うちの娘も船越さんの大ファンになっていました(笑)」
同年、「泥濘(ぬかるみ)の食卓」(テレビ朝日系)に出演。この作品は、毒親からの虐待のトラウマを抱える主人公・深愛(齊藤京子)が、アルバイト先の店長(吉沢悠)と不倫関係になり、店長の家庭へ徐々に寄生し、泥濘に引きずり込んでいく“パラサイト不倫”を描いたもの。
戸田さんは、店長の妻・那須川ふみこ役。賞の受賞歴もあるグラフィックデザイナーだったが、上司に作品を横取りされ絶望して退職して結婚、専業主婦になるも心を病んで引きこもり状態になり、家事も一切せず、家の中は荒れ放題状態。戸田さんは、すぐにはわからないほどの変貌ぶりで話題に。
「ドロドロドロドロしていましたよね。すごい話でした。やるなら徹底的にやろうと言って肉襦袢も付けて、それが少しずつ(心の病が)回復していくという変化を出して。汚すのは結構好きなので、泥や血のりを付けて汚す時も『思いっきりどうぞ』とお願いします」
2024年、「スカイキャッスル」(テレビ朝日系)に出演。この作品は、華麗なる勝ち組セレブ妻たちが暮らす高級住宅街「スカイキャッスル」を舞台に、燃えたぎる野心、見栄、プライド、そして愛憎が渦巻く世界を描いたもの。
戸田さんは、息子・遥人(大西利空)が超難関の帝都医大付属高校に合格し、幸せの絶頂にいたはずなのに自ら死を選んでしまうセレブ妻・冴島香織役。
「謎ですよね。第1話で幸せの絶頂にいる時に死んでしまって、その後すごい展開になっていますけど。ああやって追い込んじゃうんだなと思って。母の愛もほどほどにしないと怖いですね」
――ご自身と共通点はありました?
「ないです(笑)。このドラマに登場するママたちは、子どもに対しての教育が、ちょっと異常ですよね。だからみんな謎の受験コーディネーター(小雪)に頼ってしまうことになるわけですけど。
子どもは勉強することが本分なので、『勉強しなさい』は言います。うちは近くに図書館があるので、よく一緒に行って、文学全集のコーナーに行って『吾輩は猫である』を借りて帰って来たりしていますし、私も集中したい時は図書館の勉強スペースを利用しています」
■悲しい思いを顔に出さないようにして
10月2日(金)に公開される映画「沖晴くんの涙を殺して」に出演。この作品は、余命1年の音楽教師と、死神に「喜び」以外の感情を奪われた高校生の切ない交流を描いたもの。
末期の乳がんに冒され余命1年を宣告された音楽教師・踊場京香(広瀬アリス)は、治療しないことを選択し、故郷である瀬戸内海の島に帰ってくる。祖母(根岸季衣)の営むカフェを手伝いながら母校の合唱部の指導をすることに。そして、いつも笑顔を絶やさない不思議な高校生・志津川沖晴(木戸大聖)と出会う。
津波で家族を亡くしたことを笑いながら話す沖晴は、津波に流された際に死神と取引して「喜び」以外の感情「嫌悪・怒り・哀しみ・恐れ」を失ってしまったのだという。しかしある事件をきっかけに、沖晴の失われた感情の一つが少しずつ顔を出しはじめる…。
――戸田さんは、余命宣告されて故郷に帰って来た京香を見守る恩師役
「矢崎監督から、『絶対に悲壮感を出しちゃダメ。悲しい顔をしないで下さい』と何度も言われました。普通は、あと少しで教え子が死ぬと言われたら『可哀想に』という気持ちがどこかには湧くんですけど、それは顔に出さないでくださいと言われていたので。
死に向かう人を前に笑顔でいることに苦しい思いもありましたけど、完成した作品を見て死への概念が変わりました。死を想い、今生きているこの生を抱き締めてしっかり生きていきなさいと、この映画に教えてもらった気がします。
私は、谷川俊太郎さんの『生きる』という詩が好きなんですけど、この映画にぴったりだなと思いました。今の若い人はスマホを触っている時間が多くて、生きるとか死ぬことについてあまり本気で考える時間もないんだろうなと思って。せめてそういうことをゆっくり考える時間になってくれたらなと思います」
――撮影はいかがでした?
「ものすごく暑い夏の撮影でした。キャスト、スタッフの皆さん、地元のエキストラとして出てくださった皆さん、首に氷を当てながらも心を一つにして撮影しました。本当に皆さんの魂と愛のこもった作品です」
――戸田さんのご出身地の広島で大規模ロケが行われ、瀬戸内の景色もとてもきれいですね
「そうなんです。子どもの頃は、よく海水浴に行きました。昭和の雰囲気が残っていて、フェリーとかもいい感じだし、広島市内からすぐ行けるんですよ」
――完成した作品をご覧になっていかがでした?
「どういう映画になるのかなってちょっと思っていたのですが、すごく感動して心が震えました。ハルくん(木戸大聖)も広瀬さんもすごい熱演されていてすごく感動的な映画になっていると思いました。
悲しいだけの映画じゃなくて、何か生まれるというか、繋(つな)がっているというか、沖晴くんの中で生き続けているみたいなことが上手に描かれていて希望が持てるなって」
10月9日(金)には、映画「遥かな町へ」が公開される。この作品は、人生の折り返し地点を迎えた中年男性が中学時代にタイムスリップし、友人や初恋の人との再会、家族との時間を通して、自らの人生の選択を見つめ直す姿を描いたもの。
仕事の出張帰りに故郷・鳥取の倉吉を訪れた48歳の建築デザイナー・中原博史(大谷亮平)は、母の墓参りを済ませた帰り道、なぜか1963年の町に迷い込んでしまう。そこには若き日の母(戸田菜穂)や、妹、祖母、そして後に失踪する父(滝藤賢一)の姿があった。意識は48歳のまま14歳の自分のからだに戻った博史は、思春期の少年として、再び家族と向き合うことになる。
戸田さんは、大好きだった人を戦争で亡くし、お骨を届けてくれた男性と結婚した中原和江役。15年間夫婦として暮らし1男1女にも恵まれるが、自分らしい人生を生きるために夫が失踪してしまう。
――昭和を感じさせる街並みも印象的でした。タイムスリップしたことに違和感なくて
「地元の皆さんが全面的に協力してくださって。アスファルトを剥がして石畳にしてくださったり、砂利道にしてくださったんです。総勢何人かわからないけど、街の多くの人たちがエキストラで出てくださって、本当に総出で作ったという感じでした」
ただのタイムスリップものというよりは、心の旅というか、誰にでもあり得るんじゃないかと思います。お墓参りしてから、過去にフッと(記憶が)戻ることって誰でもあるような気がします」
11月20日(金)には、映画「ないものねだりの君に光の花束を」が公開される。この作品は、個性がなく、“普通”である自分に嫌気が差している高校生・影子(原菜乃華)が、同じクラスの人気急上昇のアイドル・真昼(作間龍斗)と一緒に図書委員を務めることになったのをきっかけに、彼が誰にも打ち明けてこなかった壮絶な過去を知ることになり、二人だけの“秘密の逃避行”に出ることに…というストーリー。
戸田さんは、影子の母親役。真昼の壮絶な過去を知り、彼を助けようとする娘を全力で阻止しようとする。
「娘を持つ母親としては複雑ですよね。ああいう状況になったら、『友だちを助けに行っていいよ』って言えるかなって」
――必死に止めるお母さんと対照的にお父さん(眞島秀和)は娘を送り出しますが、その理由も最終的に明かされて
「最初はやたらと物分かりが良いお父さんに見えるんですけどね。でも、娘が男の子と2人でというのは、母親としてはやっぱり心配です。ダメでしょっていう気持ちの方がわかりますよね。自分が娘に言われたらと思って感情をこめすぎたかなって」
――「遥かな町へ」とはまた全く違う母親役でしたね
「そうですね。全然別のタイプのお母さん役だったので面白かったです」
昨年は連続テレビ小説「あんぱん」(NHK)に出演。朝ドラは、かつてヒロインを務めた俳優が、その後の作品で母親役などで登場するのも楽しみの一つ。戸田さんは、柳井嵩(北村匠海)の伯母であり、育ての母・千代子役で出演。同じく朝ドラのヒロインを演じた松嶋菜々子さん演じる嵩の実母・登美子と繰り広げるバトルも注目を浴びた。
「『あんぱん』の撮影が終わってからずっと映画の撮影をやっていたので、それがやっと公開になるという感じで嬉しいです」
――かなり忙しいスケジュールなのでは?
「すごく緩やかに仕事をしていますので、そうでもないです。実生活もとても楽しんでいます。
母としても子どもが合唱部だったりするので、そこでも感動をいっぱいもらったりしていますしね。
朝の時間が好きなので、朝ひとりで早く起きて台本を読んだりしています。あとは常に持って歩いてちょこちょこセリフを覚えています」
――今後はどのように?
「俳優の仕事はもちろんですけど、書ける人に憧れはあります。小説家の皆さんは、どうやって書いていらっしゃるんだろうと思って。エッセイだったら自分のことだから書けるけど、話を作ることにすごく興味があって」
――俳句の本も出されているので、そういう意味では実現も近い気がしますが
「俳句はある意味短い世界じゃないですか。だから長い世界はどうしたらいいんだろうって考えますよね。どうやって物語を紡ぐのだろうかと」
食生活や睡眠にもこだわり、丁寧な暮らしをしていることでも知られている戸田さん。多忙な中、公私ともに充実の日々が続いている。(津島令子)
ヘアメイク:大沼こずえ(eleven)
スタイリスト:松岡奈央子




