分断する米国(1)トランプ寄りメディアに異変が[2020/12/19 17:30]

12月14日。米大統領選で「選挙人」の投票が行われ、バイデン氏の勝利が事実上確定した。だがトランプ大統領はいまだ敗北を認めようとせず、多くの支持者も「選挙に不正があった」と訴え続けている。
7400万もの票がトランプ氏に集まり、この4年間で深まった米国の分断は回復するどころか、さらに深刻化しそうな状況に見える。

「パラレルワールド(並行世界)にいるみたいだ…」
2カ月間にわたり現地で大統領選取材を行ったジャーナリストの村山祐介氏は、米国の分断についてそう表現した。トランプ支持者とバイデン支持者の考え方が決して交わらない世界では、メディアもまた“パラレル化”し社会の分断を増幅させているのだという。

今、アメリカ社会で何が起きているのか。帰国した村山氏へのインタビューを2回に分けてお伝えする。

■ マスクしないトランプ支持者に困惑

「今回の取材に行くまで、私はアメリカについてはそれなりにわかってると思ってたんですよ、自分が。実際は、全然わかってなかったんだなって改めて思いましたね」

12月8日に帰国し自宅待機期間中の村山祐介氏は、オンラインでのインタビューで、そう振り返った。
2009年から3年間、朝日新聞のワシントン特派員としてオバマ政権下の米国を取材。トランプ政権誕生後も移民問題などを取材し続けてきたベテランジャーナリストにとって、この2カ月の取材で見たアメリカの姿は衝撃的だった。

「別の国に来たんじゃないかって思うくらい違ってました。あ、こんな世界になっちゃったんだと」

大統領選1カ月前の10月5日に取材を開始、北はペンシルベニア州から南はフロリダ州やテキサス州まで1万キロを移動して、約200人にインタビューを行った。前回の大統領選と大きく違っていたのは、トランプ支持者たちの態度だった。

「こんなにトランプ氏の支持を誇らかに言う状況はあまり考えられなかったんですよ。かつては“隠れトランプ”とか言われた時代があって、やっぱり何か言いづらい感覚があったのが、もう本当に旗を振って大手を振っているんですよね」「4年前はキワモノ的な受け止められ方だったものが、4年間続いたことによって社会の主流になったんですよね。むしろトランプじゃないほうが非主流なわけですよ」

村山氏がアメリカ入りした10月5日は、ちょうどトランプ氏がコロナに感染して入院治療をしている時だった。トランプ支持者の間にも、コロナに対する不安が広がっているかと思いきや、実態は全く違っていた。

「ほんとに困ったもので…トランプ支持者はやっぱりマスクしない人がものすごく多いんですよ。マスクを着けてないうえに結構フィジカルコンタクトをやるんですね。こちらもインタビューをさせてもらっているから、握手を求められたら断りづらくて…気が気じゃなかったですね(苦笑)」

トランプ氏自身が、マスクを軽視し続けていたこともあり、「トランプ支持だからマスクはつけない」と公言する人もいたという。

「マスクをつけるつけないっていうのがすごく政治的なトピックになってしまっていた感じです」

■ 「パラレル」化の背景にニュースメディア?

村山氏の最初の取材地は激戦州ペンシルベニアのスクラントン。バイデン氏が生まれた場所だ。その後、ピッツバーグやバージニア州では、かつて白人至上主義者による事件が起きた地でトランプ支持者らを取材。
ノースカロライナ州では若者世代に話を聞き、ジョージア州ではトランプ氏が圧倒的な強さを誇る田舎町を、フロリダ州では移民コミュニティを取材した。

そしてどの場所でも感じたのが、互いの支持者同士が全く接点を持つことができない、「パラレルワールド」状態だった。

「例えばバイデン支持者であればトランプ氏を支持する人たちについて、価値観を共有できないというだけではなくて、ものすごい憎悪とか嫌悪とか警戒心、不信の念を持っているというのがすごく印象的でした」

対立候補への批判だけではなく、その候補の支持者にまで強い不信感を抱くのはなぜか。
「対立候補の支持者と話をしていてもかみ合わない、別に相手を論破しようと思っているわけじゃないけど、何か語り合おうとしても、事実の見方が全然違うと。私が双方に取材していても全然、言っていることが違うしお互いに耳を傾けようとしない」
 
なぜこんなにも彼らはかみ合わないのか。取材を重ねて行きついたのが、ニュースメディアとの関係性だった。

同じ24時間のニュース専門局でも、トランプ支持者は保守系のFOXニュースチャンネルを、バイデン支持者はリベラル色が強いCNNやMSNBCを見ているという。そして、それらのニュース番組が、まさにパラレルワールドのように正反対の内容を伝えているというのだ。

「例えばFOXニュースが(トランプ陣営の)ジュリアーニ弁護士やマケナニー報道官を次から次に登場させて、いかに選挙が不正まみれだったかとずっとやってるわけですね。で、その裏でMSNBCが『トランプは民主主義を壊している』というようなことを司会者のモノローグ(ひとり語り)の形でずっと視聴者に伝えていたり」

さらには相手方のメディアがいかに偏った報道をしているかを伝える特集も定番コンテンツになっている。

「バイデン氏が広報チームをすべて女性にしたというニュースがあって、CNNが女性の登用をほめたたえるような報道をしているのに対して、FOXニュースが、いやいや違うと。トランプ政権だって報道官は女性だし、大統領補佐官であるイバンカも女性だし、バイデンがやったことだけを女性重視と評価するのはバイアスがかかっていると番組でやるわけです」

それぞれの支持者は、どちらか一方のメディアだけを見て自身の政治的な主張を構築するため、対立候補の支持者とは全く議論が交わることがない。むしろ大統領選を経て乖離が広がりつつあると村山氏は指摘する。

■ “新しいメディア”の衝撃と懸念

さらに今、保守系メディアの中で激変が起きている。トランプ支持者の“FOX離れ”だ。
今回の選挙で衝撃をもたらしたのが、開票当日、激戦のアリゾナ州でFOXニュースが真っ先にバイデン氏勝利を打ったことだった。トランプ氏は激怒し撤回するよう圧力をかけたとも伝えられるが、FOXニュースはさらに4日後、各社が大統領選全体でバイデン氏の勝利が確実になったと伝えた際にも、追随するように当確を打っている。

トランプ支持者たちはこれに敏感に反応した。
「その1週間後にトランプ支持者の大規模な集会があって、そこで『CNN最低!』というお決まりのコールを何回もやるんですけど、それに続いて『FOX最低!』という大きな声が挙がって。話を聞くと、FOXはもうCNNと同じ“主流メディア”だ、真実を伝えるメディアではなくなったと、ものすごい憤りの感情が渦巻いていて」「マイクを握る人たちが、『我々には我々に合う新しいメディアが必要だ』というようなことを言ってるんです」

彼らの言う「新しいメディア」が、新興の「ニュースマックスTV」や「ワンアメリカニュースネットワーク(OANN)」だ。特に「ニュースマックス」は今月に入り、一部の時間帯でFOXニュースを上回る視聴者数を獲得、関係者を驚かせた。

「ニュースマックスをさらに右寄りに寄せたOANNも注目されていて、そちら側にトランプ氏の熱狂的な支持者が流れている状態です。ただ、非常に偏った論調を平気で流す、裏取りという感覚も怪しいところがある」

村山氏が危惧するのは、こうしたメディアの台頭がさらに既存メディアへの不信感を強めていることだ。

「根拠が怪しい話だから大手メディアが正面から取り上げない、するとトランプ支持者には『真実を闇に葬り去ろうとしている』と見えてくるんですよね。ますます既存メディアは信用できないと。『だから私たちは隠されている真実を自分たちで探さなきゃいけないんだ』っていう人が結構います」

彼らはテレビだけでなく、ネットの世界で、自分たちの主張に合うような情報を探し求めていく。疑わしい情報に警告を出すツイッターやFacebookもまた、彼らにとっては不満の対象になっていて、最近では主要SNSの代替アプリが人気だという。

「ツイッターの代替で『パーラー』、Facebookの代替として『ミーウィー』など、いずれも表現の自由を私たちは最重視します、といううたい文句で無検閲を売りにしているわけですよ。そこにどんどん流れていって、主流のソーシャルメディアでは出回らないような情報がそこでどんどん拡大再生産される状態になっている」

今後、特に保守系メディアがどう変わっていくのか、そしてトランプ氏に投票した7400万のアメリカ国民が、どのメディアを選んでいくのかに注目したいという村山氏。
後編では、このトランプ支持者7400万人の本音について話を聞く。

村山祐介:朝日新聞社でワシントン特派員、ドバイ支局長などを経て20年3月に退社。アメリカに向かう移民の取材で2019年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞した。その取材内容をまとめた著書「エクソダス: アメリカ国境の狂気と祈り」が10月に出版されている


報道局 佐々木毅

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