“変異型の脅威”と戦うドイツから日本への「警鐘」[2021/02/07 22:30]

新型コロナ感染対策の優等生と評されたドイツは現在、変異ウイルスの増加に苦戦を強いられつつも、感染者数を減少させています。どのような対策を行っているのか現地を取材しました。

▽医療用マスクが義務化
ドイツ経済の中心都市、フランクフルト。大きなデパートやブランドショップが並ぶ街一番の買い物通りも現在、人通りは少ないといいます。
マスクなしでの外出が法律で禁止され、電車やお店の中などでは「医療用マスク」着用を義務付けられているドイツ。違反した場合、最大で約6万3000円の罰金が科されます。
Q:マスクの義務をどう思う
女性「必要なものでしょ?だから私もつけているのよ。本当はマスクは大嫌いだけど、自分や他人を守れるならマスクはつけるわ」

マスクをしていなかったとして警官に呼び止められた女性。病気で息苦しいから、と説明しましたが、6300円ほどの罰金を科されました。

ドイツではスーパーなどを除く商店やレストラン、学校も閉鎖されています。第1波を抑え込み「優等生」とみられてきましたが、去年12月には1日の感染者が4万9000人以上になり、厳しいロックダウン=都市封鎖を余儀なくされたのです。1日に過去最多となる590人の死亡が発表された日、メルケル首相は“手を合わせて”国民に協力を訴えました。

メルケル首相
「再び感染が急拡大しないよう、できることをすべてしなければなりません」「申し訳ありません、本当に申し訳ありませんが、1日に590人が亡くなるようなことは私には受け入れられません」

▽変異ウイルスの猛威
さらに追い打ちをかけているのが、猛威を振るう”変異ウイルスの流入”です。日本でこれまでに確認された変異型の感染者は81人ですが(6日時点、厚労省)ドイツでは2385人。(6日時点、Cornelius Roemer)わずか2週間ほどで変異型が急増し、新たな脅威になっているのです。
ゲノム解析で変異型の追跡調査を行う、フランクフルト大学のウイルス学の権威は、変異型の脅威をこう指摘します。

フランクフルト大学 マルティン・シュテュルマー教授
「南アフリカとブラジルの変異型は再感染する可能性があり、ワクチンが従来型ほどには効かないかもしれません」「変異型がどのようにまん延するのか、これまでの措置で十分なのか、まだ判断することができません。ロックダウンの延期に議論の余地はないと思います」

▽厳しい制限の代わりに“手厚い補償”
メルケル首相は「変異型の拡大を封じ込めることができなければ、2月14日までのロックダウンを3月後半まで続ける可能性がある」と述べたと伝えられています。

厳しいロックダウンで営業できなくなったフランクフルト市内のレストラン。12月から閉鎖したままになっています。
レストラン経営 フランク・ウィンクラーさん
「1日300人から400人の客が入ります。今は私たちだけです」

フランクフルト名物・アップルワインで有名で、200年以上の歴史があり、地元の人たちから愛されてきたお店です。
飲食店がテイクアウト以外の営業をした場合、最大で約126万円の罰金が科されるドイツ。しかしオーナーは厳しい“私権の制限”の代わりに”手厚い補償”があるため政府を支持するといいます。

レストラン経営 フランク・ウィンクラーさん
「(ほかの国なら)破産しているでしょう。支援金なしでは2回のロックダウンを生き延びることは絶対にできませんでした」

日本では時短要請に応じた飲食店に1日6万円の協力金が支払われますが、店の規模や売り上げに関係なく一律のため「不公平」だと指摘されています。これに対してドイツは、前年の決算を基に「同じ月の売り上げの最大75%」を去年11月から支給し、先月からは賃料などの固定費の最大90%を支援することになっています。

新年を祝うビデオレターで、フランクさんはレストランが存続していることへの感謝を伝えました。
「私たちはドイツに住んでいることを嬉しく思います。飲食業界がこのように支援されている国はドイツ以外にないと思うからです」


▽“手厚い補償”なぜドイツにはできるのか
こうした手厚い補償を可能にした背景の一つが”財政の健全化”です。毎年、財政収支が赤字に陥っている日本とは違い、ドイツでは2014年から黒字に転換。危機的な状況に陥ってもきめ細かな支援が可能となったのです。一方ドイツは、私権の制限について去年春の感染拡大初期から“葛藤”を重ねてきました。

メルケル首相テレビ演説(去年3月)
「渡航や移動の自由が苦難の末に勝ち取られた権利であるという経験をしてきた私のような人間にとって、(私権の制限は)絶対的な必要性がなければ正当化し得ないものです。民主主義においては、決して安易に決めてはならず、あくまでも一時的なものに留めるべきです。しかし今は、命を救うために避けられないことなのです」

旧東ドイツの独裁政権下で育ち、個人の自由の大切さを熟知するメルケル氏。私権が大きく制限された過去があるからこそ、“制限には補償が不可欠”だと考えているといいます。

メルケル首相新年の挨拶(先月1日)
「多くの経営者、従業員、フリーランス、アーティストが生活に対する不安を抱えています。その苦しい状況は彼らの責任ではありません。政府はそのような人々を見捨てることはありません」

こうした手厚いサポートがあるからこそ、ドイツ国民は前を向いています。
美容室店長 フランク・チアンスさん
「通常はこんなに空いていることはありません」

こちらの美容室も 去年12月から営業が禁止になりましたが、今はロックダウン後に向けてオンラインで”若手育成”に取り組んでいます。
フランク「もちろん今は多くのことはできませんが、見習いの教育をするようにしています」

ドイツの公共テレビの調査では規制延長と強化について
56%が「適切」
28%が「より強化を求める」と回答。
「反対」は14%ほどに留まりました。

Q:メルケル首相の政策をどう思う
フランク「基本的には賛成です、私たちも協力しています。新たな感染者を抑え込まなければならないからです」

変異型の猛威に対抗するため先手を打って規制を強化したドイツ。ウイルス学の権威は、日本にこう警鐘を鳴らします。

フランクフルト大学 マルティン・シュテュルマー教授
Q:日本は変異型の蔓延を防ぐために何ができる?
「もう変異型は日本に入っているので、本当に大きな割合でゲノム解析をすることです。そうすれば変異型のきちんとした姿がつかめます。厳格な制限措置をして変異型の蔓延を断つことが重要です。これが上手くいくかは日本政府の政策次第です」

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