アフガンの医療体制「危機的状況」 現地医師が訴え[2021/10/28 21:03]

 駐留していたアメリカ軍が撤退し、タリバンによる統治が進むなか、現地で新型コロナウイルスの治療にあたっているアフガニスタン人医師が逼迫(ひっぱく)した医療状況を訴えました。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「過去の政権も決して良いものではなかったですが、未来に希望はありました。でも、タリバンが来てからは、人々は希望を失ってしまった」

 こう答えたのは、首都カブールの病院で新型コロナウイルスの治療にあたる20代の男性医師です。タリバンの実権掌握後も不安を抱えながら仕事を続けています。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「タリバンは医療従事者に危害を及ぼすことはないと言っていました。でも、その保証が確実にあるわけではありません。多くの医師や看護師が(タリバンを恐れ)出勤を控えるという問題も抱えています」

 元々、医療システムが脆弱(ぜいじゃく)だったアフガニスタン。タリバンの統治により、さらに混乱がもたらされる恐れもあります。特に心配なのが新型コロナウイルスの感染拡大です。

 WHO(世界保健機関)によりますと、今年6月の第3波をピークに今は新規感染者の数は落ち着いていますが、タリバンによる暫定政権下で今後、感染の実態が正しく表されるのか疑問が残ります。

 また、国内でワクチンの2回接種を終えたのは人口の4%程度で、確保されている約210万回分のワクチンが使われていない状態だといいます。

 男性が勤務する病院ではタリバンの実権掌握後、積極的にワクチンを打ちに来る人はほとんどいなくなったそうです。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「市民が新型コロナに対し、気が回らないほどアフガニスタンはひどい状況にある。コロナの第4波が始まるのではないかと心配しています」

 こうしたなか、海外からの資金援助の停止によって医療体制の存続が危ぶまれています。WHOは国際機関が支援する約2300の医療施設のうち、フル稼働しているのは17%にとどまり、3分の2の施設が医療物資不足に陥っていると指摘しています。

 男性も、もう3カ月にわたって給料を受け取っていません。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「近い将来、私たちは医療を提供し続けることができなくなる。危機的状況です」

 男性は医師であるとともに、8月に生まれたばかりの娘の父親でもあります。タリバンの統治で娘の将来が脅かされることも懸念しています。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「タリバンは女の子に対して傲慢(ごうまん)です。勉強もさせてくれないのです」

 タリバンは9月、日本の中学校や高校にあたる中等教育を男子生徒に限って再開させましたが、女子生徒の登校は多くの地域で今も始まっていません。

 発足させた暫定政府の閣僚ポストには女性の名前はなく、女性の教育や就労に否定的なタリバンの姿勢が強く表れ始めています。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「この子には明るい未来が見えない。娘の時間を、この国で無駄にしたくありません」

 女性だけでなく、タリバンの意に反する人に危害が加えられる可能性もあります。

 9月下旬にはタリバンが「誘拐事件の容疑者」とされる4人を射殺し、遺体をクレーンでつるす行為に及びました。旧タリバン政権時の強権的な支配が再びもたらされようとしています。

 カブールの病院に勤務するアフガン人医師:「未来が見えないんです。私たちは1カ月先のアフガニスタンがどうなっているのかも分かりません」

 インタビューから約1カ月後、男性から送られてきたメッセージには「牢獄で暮らした方がよっぽどましだ。ここでは個人の存在が、教育が、自由が無視されている」と記されていました。

 男性は自身や家族の身の危険を感じながらも今も病院に通い、患者と向き合っています。

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