専門家「ありえない攻撃」「事故の危険も」ロシア軍“欧州最大規模”原発制圧の狙いは[2022/03/04 23:30]

ウクライナ侵攻を続けるロシア軍は、ヨーロッパ最大規模の原子力発電所を攻撃しました。

ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「ロシア人にお聞きしたい。なぜこんなことが可能なのか。私たちはチェルノブイリの大惨事で共に戦いました。覚えていますか。爆発音とともに燃える黒鉛が頭上に降り注ぐのを。放射能にとって、ロシアの国境がどこにあるかは関係ありません」

原発内にある監視カメラの映像では、砲弾のようなものが直撃し、火花と煙が確認できます。別の角度からは、火災が起きている様子が、はっきり見てとれます。暗闇に、何発もの砲撃が光り、攻撃の激しさが伝わります。

ウクライナ南部にあるザポリージャ原子力発電所。1985年から1996年にかけて建造された、6基の原子炉を抱え、ウクライナの電力の5分の1をまかなっていると言われています。チェルノブイリ原発は、原子炉が4基なので、さらに大きい原発です。

ザポリージャ原発、アンドリー・トゥズ広報官:「ザポリージャ原発内の火災は続いています。消防士は現場に近付くことができません。現場に近付くと、撃たれる可能性があるからです。1号機はすでに被弾しています。攻撃をやめてください。皆さん、ロシア軍が原発に向け発砲しています。ヨーロッパ最大の原発で、核爆発の危険が迫っています」

エネルホダル市、オルロフ市長:「お願いです。攻撃をやめてください。ザポリージャ原発への砲撃を直ちにやめてください」

火災が発生したのは、敷地内の訓練施設。IAEA(国際原子力機関)は、放射線レベルに変化はないと発表しています。被弾したという1号機は、火災はないものの停電しているといいます。

地元住民や原発の職員は、トラックなどでバリケードを作り、また、自らが盾となり、ロシア軍の侵攻に備えました。しかし、ウクライナ当局は、ザポリージャ原発がロシア軍に制圧されたと発表しました。


原発の専門家は、ありえない攻撃だと指摘します。

原子力コンサルタント、佐藤暁氏:「やはり怖いですね。非常に怖い。最新の原子炉では、格納容器を二重にする構造になっていたりする。しかし、二重〜三重にしようが、ミサイル攻撃や爆薬を使った攻撃には全く耐えられない」

ウクライナ原子力管理当局によりますと、1基だけとはいえ、4号機は稼働しています。

原子力コンサルタント、佐藤暁氏:「チェルノブイリ原発事故でも、ベラルーシ・ロシア・ウクライナが一番汚染された。特に放出される放射性物質がプルトニウム等まで含まれると長期化する。(仮に放出すれば)影響は何年も続いていくことになる」

今回の原発への攻撃について、ロシア国防省は、こう反論しました。

ロシア国防省報道官:「原発周辺のパトロール部隊が、ウクライナの破壊工作集団から攻撃された。応戦したら、相手は訓練施設を放棄し、火をつけて逃げた」


激しさが増しているロシア軍の侵攻は、今後どうなるのでしょうか。

◆ロシア政治が専門の慶應大学教授の廣瀬陽子さん、軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんに聞きます。

(Q.今回の原発への攻撃をどうみますか)

廣瀬陽子さん:「あってはならない攻撃です。ウクライナはロシアへの依存を減らすため、原発への依存率が高く、約53%を原発に依存しています。戦争では補給路を断つのは常套手段ですので、ロシアの意向は分からないわけではないですが、原発施設に攻撃を加えると放射能汚染のリスクがあることは明確です。チェルノブイリの経験も共有しているにもかかわらず、このような攻撃をしたということは、ロシアが早期にウクライナを落としたいという意志の表れだと思います。電力を握ればウクライナは情報戦も行えなくなり、人々や軍人の心を砕くこともできます。戦争もうまく進められなくなり、気持ち的には分かりますが、やってはいけないことです。」

(Q.原発を攻撃したロシア軍にはどんな戦略があるのでしょうか)

黒井文太郎さん:「原発そのものは軍事的目標ではないと思います。侵攻を進めて、原発エリアもすべて制圧することは、すでにロシア側の計画に入っています。自分たちのテリトリーの施設を破壊する意味合いはないと思います。

今回の攻撃は、原発の周辺に流れるドニエプル川周辺の制圧が目的。この川は首都キエフにつながり、首都侵攻の進撃路になります。ウクライナの守備部隊を排除するための攻撃で、かなり制限された攻撃です。川の下流はクリミア半島も含めた水源地帯のため、ロシア側としても、原発を壊して放射能汚染が起きることは避けたいので、制限された攻撃を行ったのだと思います」

砲撃を受けたザポリージャ原発は、6基のうち1基が稼働しているということです。ただ、原子力の専門家は、今後、例え原発が攻撃を受けなくても、作業員の安全が確保されない限り、原発事故の危険は伴うと指摘をしています。

京都大複合原子力科学研究所・今中哲二研究員:「稼働中の原発は、不具合にすぐに対応できるように1つの炉につき10人程度の運転員・作業員が必要。戦時下で、作業員不足や流れ弾など不測の事態を考えると、とにかく原子炉を止めるべき」

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