「中途半端な妥協はしない」 ウクライナの元参謀本部将校が語るこれまでの戦いと今後[2022/04/25 18:00]

 ロシア軍は4月22日、ウクライナでの「特別軍事作戦」が第二段階に入ったことを明らかにした。第二段階は東部ドンバス地方と南部を完全制圧することを目標にしている。
 こうした状況を受けて、ウクライナ軍の実質的なスポークスマン役を務めるオレグ・ジダーノフ(56)が、ウクライナが善戦している要因、ブチャで起きた惨劇の背景、さらには今後の見通しなどについて語った。ジダーノフは1990年代後半にウクライナ国防アカデミーで教鞭をとり、その後、ウクライナ軍参謀本部に勤務した退役軍人で、ミサイル、砲撃の専門家だ。ウクライナの独立系ウェブTV番組『ヴゴスチャフ・ウ・ゴルドナ』(4月22日)でのインタビューの概要を筆者がまとめた。このインタビュー、YouTubeでは3日間で178万ビューを記録している。


◆ロシア軍がウクライナ国境に兵力を集中した時、この侵攻は回避できると思ったか?

 わたし自身はロシア軍の侵攻は回避できると思っていた。春の深い泥濘期にウクライナ国境を越えるのは冒険だからだ。
 しかし、戦闘が始まると、ロシア軍の構想がわかった。彼らはウクライナ軍に対する誤った評価の上に作戦を組み立てていた。ウクライナ軍は近代兵器の購入を十分進めてこなかったから、電撃作戦でアスファルトの道を進軍すれば、ウクライナ中部までも簡単に到達できると思っていたのだろう。

◆プーチン大統領はどの程度の時間で計画が成功すると読んでいたのか?

 ロシアは、96時間、つまり4日で目標を達成できると読んでいた。まず空挺部隊を入れて空港を押さえ、その後、1個師団を投下する計画だった。今年1月にロシア軍空挺部隊が降り立って反政府運動を瞬く間に鎮圧した中央アジアのカザフスタンや、1968年にチェコスロバキアの「プラハの春」を力で潰した時と同じやり方だ。そして逮捕でも銃殺でもよいから、ゼレンスキー大統領と政府首脳を押さえ、傀儡にヤヌコーヴィチ(※ロシア寄りの元大統領)を立てようとしていた。そのうえでウクライナに降伏文書に署名させる。空挺部隊が諸都市を押さえ、ピカピカの制服を着た部隊をパレード用に配置し、4日目にはキーウの目抜き通りで行進を行うというプランだった。

◆ロシアはウクライナ全土を押さえようとしているのか?

 この戦争のロシアの政治的、戦略的な最終目標はウクライナ全土の制圧であり、ロシアがウクライナを政治的に飲み込むことだ。これは2014年に立てられた計画で、現在もそのままだ。「非軍事化」「非ナチ化」「安全の保証」などは、ウクライナを政治的にロシアが飲み込むことだ。
 ロシアはヤヌコビッチ(元大統領)の正統性を訴えて続けている。2014年の「マイダン革命」を、ロシアはずっと「軍事クーデター」と呼んできた。ゼレンスキー現政権の正統性に疑問を投げかけているのだ。政界や経済界にも傀儡を置いて、ヤヌコビッチが選挙を実施し新政権を作る、という計画だった。

◆ウクライナ軍はロシアの侵攻に準備はできていたのか?

 準備は出来ていた。この8年でウクライナ軍は防御、攻撃両面でNATO流の最先端の方法論を学んだ。特に、この3年、毎年の訓練回数はウクライナ国内だけでも10回を超え、NATOの保有するあらゆる武器を扱ってきた。
 そしてカギとなるのが、ウクライナ軍幹部の交代だ。ウクライナ東部で実戦経験を積んだ若い将校が幹部になった。 8年前にはまだ部隊長だった世代がロシア軍との戦闘の経験を積んだのだ。親ロシア派支配地域の武装勢力の主体は、実際にはロシア軍そのものだったからだ。こうした経験を積み、NATOの訓練を経て、いまその結果を出している。

◆侵攻初日からウクライナ軍は見事に戦っていたようにみえるが。

 侵攻2週間ほど前から「戦争になる」という信頼に足る情報は得ていたし、精神的にも準備はできていた。しかし、もし四方からの侵略となると、兵力や準備時間が足りるか疑問だった。ウクライナ国内に総動員令が出ていなかったからだ。
 12月初旬に米国のメディアで戦争の可能性が云々された時、ウクライナ政府と軍の幹部が会議を開いたが、この時、動員令を決断すべきだったと思う。
 最初期段階では、キーウ防衛に駆けつけた人びとに、トラックからじかに自動小銃を手渡したりしている状況だったため、侵攻してきたロシア軍の装甲車両から町を防衛できるかどうかが、わたしの一番の気がかりだった。

◆プーチンが電撃戦に失敗した一番の理由はなにか?

 第一は、予想もしていなかったウクライナ軍の反撃力、抵抗だろう。ウクライナ人のメンタリティを理解していなかったことも大きい。ウクライナでは危機的状況になると権力も民衆も一体となる。そしてウクライナ軍幹部の準備態勢だ。彼らはロシア軍がウクライナ国境に入って数キロの地点で、早くも敵戦車を破壊した。またチェルノブイリ方面の橋はすべて破壊したし、貯水池ダムを壊して、湿地帯に深く水を入れた。

◆ロシア軍の質は?

 ロシア軍は、ウクライナ軍より劣る。たしかに空挺部隊のように実戦に慣れたすぐれた部隊もある。降下したロシア軍の2個中隊の空挺部隊はわれわれの猛攻撃の中、8時間持ちこたえた。彼らはこれまでも激戦地に投入されてきたせいで、その職業軍人としての質は高く、ロシア軍の模範だ。傭兵も手強い。残りは箸にも棒にもかからないが、無理もないことだ。徴集兵で、訓練を終えてすぐベラルーシの演習に駆り出され、そのままウクライナに投入されたのだから。捕虜の証言にもあるように、彼らにとってもショックで、予想もしなかったことなのだ。概して、ロシア軍の質は低い。

◆ロシアにはまだウクライナに投入できる兵力はあるか?

 ロシアの陸軍の兵力は40万人だが、実際に投入できるのは28万だ。あとは欠員だ。ここから空挺部隊、ミサイル部隊、これに第201基地、第102基地などロシア南部に駐留する軍を除くと、残るのは兵力28万の半分くらいだ。しかもその大部分は徴集兵だ。
 ロシアは2019年に国家親衛隊を作るという戦略的な過ちを犯した。親衛隊の兵力は、常備軍から引き抜いたものだ。当初、2017年の法案には20万人とあったものが、2018年になると40万になった。しかも親衛隊は全員志願兵だ。親衛隊は歩兵ではなく、戦闘を目的としていない、白馬の騎士のようなものだ。戦場に出ようものなら格好の餌食だ。しかも勤務条件は一般兵士よりずっと良い。(※国家親衛隊は大統領直属で、国防軍とは別の指揮系統に属し、国境警備や対テロ対策、組織犯罪対策、治安維持などを主任務とする)
 われわれがマリウポリで遭遇したシベリアのウスリー軍などは動員された予備役兵の軍隊だった。

◆ロシア側の損害は大きいか?

 当初ウクライナに侵攻してきたのは、15万から17万の兵力だったが、キーウから撤退した時期には、死者は約1万8000人、このほか負傷者が約5万5000人と見ている。損傷率が50%を超えると、戦闘意欲が極端に落ちると言われている。

◆ブチャやボロディアンカではいったい何が起きたのか。ウクライナを恐怖に陥れようと意図的にやったのか?

 ブチャで市民を殺害した兵士たちは、ああいうふうに教育されてきたのだ。兵士たちが育った環境そのものが強制収容所のようなものだ。奴隷になって拷問を受けるか、出世して拷問する側にまわるか、という教育だ。
 こうした強制収容所の思想はロシア人のメンタリティに深く浸み込んでいる。兵士の99%は、町から離れた、主要な道路からも数百キロ離れたロシアの奥深い田舎からやってきた兵士たちだ。モスクワやペテルブルグや、大きな町から来た兵士はまずいない。
 それが、ウクライナに来てみると、田舎道でさえアスファルトで舗装されている。ましてやキーウ近郊の町などは生活水準が高い。兵士たちには階級的憎悪があったのだろう。ブチャの壁の落書きにあったように「お前ら、誰の許しを得て、俺たちよりいい暮らしをしてるんだ!」という憎悪だ。これは兵隊が書いた落書きだ。将校にしても同じだ。
それから、部隊には必ず特務班がついている。特務班は反抗する者を罰するためだ。
 去年、ロシアはウクライナの懲罰者リストを作成しているという噂があったが、事実だった。
 3つのカテゴリーがあって、「銃殺すべき者」「強制収容所に送る者」「追放する者」という三つのカテゴリーがある。特務班は住民を選別して銃殺した。こうした懲罰的銃殺を見ていた兵士たちにしてみれば、「なんで俺たちが同じことをやってはいけないんだ」ということになる。空き家に入って手あたり次第に物を盗み、アパートに人がいればその場で射殺するか、外へ連れだして射殺した。
 これは野蛮な軍隊のシステムになっているのだ。ウクライナ軍が傍受したロシア兵士と田舎の母親の会話では「上官が宝飾品と現金を奪ったから、俺たちには電子レンジとミキサーと洗濯機しか残っていない」と不平を言っていた。盗みにさえ、軍の階級がそのまま残っているのだ。

◆今後のプーチンの狙いは?

 プーチンが権力の座にいる限り、国家としてのウクライナと民族としてのウクライナ人をこの地上から消し去るという考えは変わらないだろう。
 プーチンの頭の中ではロシアとウクライナと言う二つの国家が共存する、ということは不可能なのだ。
しかしわたしは、欧米の軍事支援が続き、ウクライナ軍の戦闘態勢が保てれば、いまのウクライナには1991年のウクライナの版図を取り戻すチャンスがあると思っている。政治家のいらぬ介入が入らないことだけを願う。

◆欧米の軍事支援はうまくいっているか?

 うまくいっている。ドイツでさえ、レオパルト戦車の提供を決めた。これは冷戦時代の1970年代の戦車だが、ロシアのひと世代あとの戦車T‐90より優れている。技術面でもロシア製より良い。兵員の訓練も早く対応できる。砲撃訓練は2週間もあれば十分だ。航空兵は訓練に半年かかるが戦車や装甲車、砲撃の訓練は一番簡単だ。
 もし、現在の戦闘でウクライナ軍が勝てば、そこで戦いを止めるのではなく、反攻に出て、ウクライナ東部を取り戻し、クリミアに反転攻勢をかけることも可能だ。しかしそれには、参謀本部が損耗と利害を計算しなければならない。   
 いまクリミアのロシア軍部隊はウクライナ東部に転戦させられているため、事実上、無防備になっている。しかし、ロシア軍がクリミアに兵力を結集した場合、ウクライナの損傷率は大きくなるので、それでもクリミアを取り返すのかどうか、という判断が必要になるだろう。
 いずれにしても、ロシアが負けた場合は、ロシアの政治状況に反映するだろう。プーチンとその取り巻きが権力を保てるとは到底考えられない。
 米国政府は、ロシアの政権が変わることを目指しているようだ。新たな政権は西側との協議の場につくだろう。

◆今後の予想は?

 ロシア軍の新たな攻撃は今後7日間から14日間続くだろう。どんなにロジを整えても、2週間後にはまた部隊の再編成、ローテーションが必要になる。
 本来なら、第一撃で最大の攻撃力を発揮し、敵の戦意をくじかなければならないのだが、ロシア軍は今回もそれができなかった。ロシア軍は大規模攻勢をかけられない状態だ。予備役の投入などで、本格的な強化ができていないのだ。
 ウクライナ軍は今後2週間はロシア軍の潜在的攻撃力を削ぐために、積極的な陣地戦に徹する。ロシア側の攻撃力が尽きたところで、われわれは反転攻勢について考えることになるだろう。ロシア側が第三段階の攻撃計画を実行するとしても、それは3か月から半年後になるだろう。

◆ウクライナの諸都市への攻撃は直視できないほどひどいが、ロシア軍はこうした攻撃を今後も続けると思うか?

 最後の最後までロシア軍はこうした攻撃を続けるだろう。米国がレンドリース法(武器貸与法)を改正して、パトリオット・ミサイルや重火器を提供しない限り、ロシアのミサイル攻撃を止めることはできない。

◆ウクライナ側は、ベルゴロドでやったようなロシア内の都市の空港や石油基地などのインフラを攻撃する可能性はあるのか?

 あれはわれわれの攻撃ではない。ロシアの防空システムは強力で、ヘリコプターが防空システムをかいくぐってあの距離を飛んで行き、無傷でウクライナ側に帰還できると考えるのは非現実的だ。あれはロシア側がやった攻撃だ。しかもロシア側には対テロ対策がらみの目論見がある。ウクライナ国境に近い州ではテロ警戒レベルが黄信号だ。あと一つ二つテロが起きれば、赤信号となり、戒厳令を敷き、動員令を出すだろう。まず州単位の動員令だ。軍幹部やFSB幹部は隣接州から家族を避難させ始めたという情報もある。
 しかし、いずれにしてもロシア側には時間が足りないのだ。もし、隣接州で動員令をかけるにしても、予備役を含めて戦闘可能な状態にもっていくには3カ月かかる。それまでにわれわれは戦争を終わらせるだろう。

◆巡洋艦「モスクワ」はウクライナ軍が沈めたのか?

 その通りだ。「モスクワ」の防空システムを逆手にとった作戦を展開したため、ウクライナ軍のミサイルは問題なく巡洋艦に着弾した。これは大変大きな成果だった。「モスクワが沈んだ」という喪失のイメージは16発のミサイルを失ったより大きいだろう。

◆戦争は長く続くのか?

 最低でもあと数カ月は続くだろう。曖昧な停戦協定などが結ばれれば別だが。ロシアとは協定を結んではならない、とわたしは思う。中途半端な譲歩や妥協は禁物だ。ロシアは必ずまた襲い掛かってくる。署名は降伏文書だけだ。われわれが署名するか、ロシアが署名するか、だ。

ANN 元モスクワ支局長 武隈喜一(テレビ朝日)

こんな記事も読まれています