世界を動かし戦況左右する“SNS戦略”とは…ウクライナ・デジタル改革省副大臣に聞く[2022/05/03 23:30]

デジタル化を最重要の国家戦略に据えて国づくりを進めてきたウクライナは、SNSを駆使して、ロシアの侵攻を懸命に食い止めています。もう一つの戦争『情報戦争』の実態に迫ります。

一つの投稿が、世界を動かしました。

ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「私はここにいる。我々は武器を置かない。真実とは我々の領土、国家、我々の子どもたち、そのすべてを守る」

世界中に拡散されたこの動画がツイッターに投稿されたのは、侵攻3日目の2月26日のこと。この当時「ゼレンスキー大統領が国外逃亡した」というデマが広がっていました。この投稿はデマを打ち消し、その後のすう勢を大きく変えることにつながったという声も上がっています。

SNSが戦況を左右するとも言われる今回の戦い。ウクライナ側で指揮するのは、31歳の副首相兼デジタル改革相・フェドロフ氏が率いるチーム。今回、フェドロフ氏の側近、イオナン副大臣(31)に話を聞くことができました。

デジタル改革省、イオナン副大臣:「(Q.戦略を考えたのはどなたですか?)結果を出すにはもちろんチーム全員の努力が必要ですが、構想・戦略・計画を立てるのは常にリーダーです。フェドロフ副首相は洞察力に優れた戦略家で、指導者としても優秀です。(Q.IT利用が情報戦での成功のカギだと?)もちろんです。情報戦でSNSを利用すれば、ウクライナの現状を正確に伝えられます。この戦争で3100人以上からなるIT部隊を創設しました」

ロシアの侵攻以降、ツイッターにおけるゼレンスキー大統領の投稿がどれほどリツイートされたかを表すグラフには、3つの戦略が見え隠れします。

まずは、国民の士気。最も拡散された2月26日の投稿を始め、カメラに向かって直接語り掛ける姿が、国民の士気を高めることにつながったと指摘されています。

デジタル改革省、イオナン副大臣:「開戦から2カ月半、我々は多くを学び、戦略を改善してきました。今後もSNSが大きな役割を担うでしょう。国民や世界とつながるために欠かせません」

2つ目の戦略は、世界への「支援の訴え」です。

ウクライナ、ゼレンスキー大統領:「ヨーロッパの皆さん。ウクライナ人がされていたこと、マリウポリ市でマリウポリ市民がされたことについて目撃しましたよね」

南部マリウポリの産科病院への爆撃を伝えた投稿の後、すぐさまイギリスのジョンソン首相がツイート。新たな支援を考えていることを明らかにしました。SNSの拡散に呼応するように、世界各国からの支援が広がっていきました。

さらに、ツイッターで、フェドロフ副首相がアップルのCEOに求めた訴えはわずか数日で実現。他にも500社を超えるグローバル企業に対し、ロシアでの企業活動を停止させることに成功しました。

デジタル改革省、イオナン副大臣:「我々はSNSで連絡を取ったり、大手IT企業に働き掛けて、ロシアを孤立させることもできます。例として、アップルにはロシア国民のアップルストア利用や製品販売を禁じるよう求めました。SNSなどの新たな技術がデジタル前線での戦いで大いに役立ちます」

3つめの戦略、それはフェイクニュースへの対策です。

偽ゼレンスキー大統領:「皆さんに『さようなら』を言いたい。武器を捨て家族の元に戻って下さい」

誰が作ったかは不明ですが、実際の映像と似せたフェイク映像が一時、SNSで拡散されました。さらに、侵攻の数日前から、ロシア側に有利なフェイク情報はツイッターで急増。侵攻が始まった日には1万件を超えました。それでもイオナン副大臣はウクライナの勝利を確信しています。

デジタル改革省、イオナン副大臣:「言論の自由の上に成り立つ国と、プロパガンダの国は比べ物になりません。まったく“別の星”と言ってもいいでしょう。今ロシアがもくろんでいることは、自国民だけでなく、世界にもウソを流して情報戦に勝つことです。しかし結果はご存じのとおり失敗しています。多くの国民が祖国のために戦っています。勝利は我々のものです」

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