「問題は徴用工と慰安婦」「日本は様子見」尹大統領就任で日韓関係は?記者解説[2022/05/10 23:30]

韓国では10日、尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が、新たな大統領に就任しました。就任式の演説から、尹新大統領の外交を読み解いていきます。ソウル支局長の井上敦記者、政治部・官邸キャップの山本志門記者に聞きます。

(Q、尹大統領は、演説では北朝鮮について語りましたが、日本を含めて他の国には触れませんでした。日本との韓関係改善の意欲はあるのでしょうか)
就任後、一番最初の演説ですので、一番大事なのは、国民に向けたメッセージです。そして、同じ朝鮮半島の分断国家に向けてのメッセージというのも必ず必要になってきます。限られた時間内での優先順位として、日米の言及はありませんでしたが、決して軽視しているというわけではありません。日韓関係にとって最悪だった文政権の5年間とは対照的に、尹大統領は、関係改善に強い意欲を見せています。就任前から日本に政策協議団を派遣し、関係改善が「待ったなし」だと互いに確認しました。その結果が、総理特使の林外務大臣の今回の訪韓と、トップ同士の親書のやり取りに繋がりました。まずは第一歩といったところです。

(Q.両国の間の溝は埋まりそうでしょうか)
井上敦記者:溝は非常に大きいと思います。両国間の最大のトゲは、慰安婦と徴用工の問題です。尹政権の関係者に話を聞いたところ、「尹大統領は、関係悪化の最大の原因は、文政権がこの2つの解決済の問題を蒸し返したことにあるとよくわかっている」といいます。さらに、これらの問題を元に戻して、日韓関係を正常な軌道に戻したいとまで言っていました。ただ、韓国には複雑な国民感情もあり、簡単にはいきません。

国会は『共に民主党』が6割を占める“ねじれ状態”です。法律1つを改正するのも難しい状況です。根本的な解決には、必ず大統領の大胆な決断が必要ですが、2懸案をめぐって、「日本の要求通りに全て元に戻す」と言ったら、たちまち立っていられなくなってしまいます。しばらくは、国民の関心事である国内問題に注力するとみられ、政治的な体力を消費する外交については、支持率などを見ながら、じっくり取り組んでいくのではないかと思います。

(Q.岸田政権はどのように受け止めていますか)
山本志門記者:日本政府は、尹政権が今後、戦後最悪といわれている日韓関係の立て直しに向けて動きだしてくるのか。尹大統領やその周辺などの言動を踏まえ、強い期待感をもって受け止めています。その理由の一つに、尹大統領は「南北関係より、安全保障を重視している」と日本政府は分析しています。どういうことかと言いますと、北朝鮮あるいは、中国にどう対峙していくのか。韓国にとっての安全保障の柱が米韓同盟であり、その延長線上に日韓関係があって、日米韓の連携があるわけです。この辺りが関係改善の機運になり得ると、日本側は計算しています。

(Q.日本から関係改善に向けて踏み込んでいくことはありますか)
山本志門記者:政府高官は「まずは向こうが行動するかどうか」と言っていますので、日本が主導する形で動くことはないと思います。ここは岸田総理、相当、慎重に見ています。“国と国の約束を破ったのは韓国側だ”という立場を貫いていますので、元徴用工などの問題の解決に向けて、尹大統領が果たして国内を抑えることが出来るのか。ここを注視しています。だから、岸田総理が渡した親書に「リーダシップに期待する」と、一定のプレッシャーをかけたわけです。官邸幹部によりますと、日韓双方が「このままじゃダメだよね」という共通認識が得られたことで、まずはスタートラインに立てたと位置付けています。また、外務省幹部は「今、日本が前のめりに動くと、韓国の世論に火がついて、逆に尹大統領が動きにくくなってしまう」「当面は、雰囲気づくりをしていく」と説明するように、しばらくの間は様子を見ながら、関係改善の糸口を模索していくものとみられます。

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