苦戦が伝えられる中でもウクライナへの侵攻を止めないロシア−
この戦争はロシアかウクライナのどちらかが力尽きるまで続くのだろうか?
ロシアとの対話をめぐり、ゼレンスキー大統領は「プーチン氏とは対話しない」と突き放し、アメリカも「バイデン大統領に会談する意向はない」と取り合おうとはしない。
にもかかわらず、プーチン大統領は11月中旬のインドネシア・バリのG20の会議への出席について「検討中だ」と述べ、その可能性を完全には排除していない。
そこにはどのような思惑があるのだろうか?
■錯綜するG20「出席」情報
10月25日夜、ロシアの独立系メディア「バザ」は、G20のロシアの代表団はミシュスチン首相が率いることになると報じた。しかし、わずか1時間後には大統領府のペスコフ報道官が「まだ決まっていない」とその報道を打ち消した。
どうやらクレムリン内部ではインドネシアへの外遊にむけた準備は続けていて、ぎりぎりまでプーチン氏のG20への出席の可能性を残しておきたいようだ。
プーチン氏が対話を求めているのではないかという情報は思わぬところからもたらされた。
ウクライナのゼレンスキー大統領が26日、西アフリカ・ギニアビサウのエンバロ大統領と会談した際、ロシア側から対話したいというメッセージを受け取ったと明らかにしたのだ。エンバロ大統領はその直前にプーチン大統領とも会談している。
ペスコフ報道官は27日、「伝達は頼んでいない」と表向き否定をしているが、事実無根だとはいえないだろう。
■国際社会での孤立−影響力低下を誰よりも実感
プーチン氏はいま、友人を失いつつある。
旧ソ連諸国までもプーチン氏を見放しはじめたのだ。
6月、プーチン氏の故郷・サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムで、カザフスタンのトカエフ大統領はプーチン氏の目の前でドネツク・ルガンスクを国家として承認しない考えを表明し、あからさまにたてついていた。
10月にはタジキスタンのラフモン大統領がやはりプーチン氏に面と向かって「我々にも敬意を払ってほしい」と求めた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領も、表向きはプーチン氏を支持しているものの、ベラルーシ軍の参戦など直接的な支援を拒み続けており、面従腹背なのだろうということは、プーチン氏が誰よりもわかっているのではないだろうか。
中国もまた言葉の上ではロシアへの支持を表明しつつ、実際に助けようとはしていない。
BBCロシアは、最近8カ月間で、ロシアから中国への輸出は5割も増えたものの逆に輸入はわずかしか増加していないと指摘している。厳しい制裁を受けるロシアにとって、精密機器などの輸入が途絶えることが死活問題となっている。しかし、中国はそこを助けようとはしていない。
プーチン氏と習近平国家主席は9月15日、ウズベキスタンのサマルカンドで開かれた上海協力機構の首脳会議で直接会談した。その際、習氏が示したロシアへの支持は決して積極的なものではなかった。
この時、プーチン氏はインドのモディ首相からも「今は戦争の時代ではない」と苦言を呈されている。
表では強気の発言を繰り返すプーチン氏だが、かつての「友人」たちから忠告を受け、あるいはあからさまに距離を置かれることで自身の影響力の低下を誰よりも感じ取っているのではないだろうか。
■国内も不安定 経済も「持つのは年末まで」か
プーチン氏はロシア国内でも厳しい状況に追い込まれている。
9月21日に発令した「部分的な動員」を巡り、ロシア全土で大規模な反対デモが巻き起こった。
治安部隊が力で鎮圧したものの、ロシア人の間で反戦の意識は静まっておらず、26日未明には、モスクワの中心部にある与党「統一ロシア」本部ビルに火炎瓶が投げ込まれたという。
独立系の世論調査機関レバダ・センターが10月20日から26日に実施した調査によると、ウクライナの状況を非常に心配していると回答した人は半年で37%から58%まで増え、57%がウクライナとの和平交渉を望んでいるという。
また、タス通信によれば、ロシア国内での抗うつ剤の売り上げは、昨年に比べ7割も増えている。
経済面でも、最近だけでもトヨタに続き、メルセデス、フォードなどが次々と撤退を明らかにした。ロシアは工場を引き継いだとしても、自力でこれらの製造を続ける能力はないとみられている。
クレムリンの関係者も「在庫が持つのは年末までだろう」と焦りを隠さない。
■対話を模索? プーチン氏の狙いは時間稼ぎ
国際社会でも、国内的にも追い込まれる中、プーチン氏が対話路線を模索しだしているとしても不思議ではない。
複数の情報によるとプーチン氏はいまもウクライナ東部ドンバスの統治は手放したくないと考えていているというが、現状のままではそれは難しい。
独立系メディア「メドゥーザ」は大統領府に近い関係者らの話として、クレムリン内で「一時的な停戦」という考え方が出てきていると伝えた。
完全に戦争を止めるのではなく、停戦で時間を稼ぎ、動員されたロシア人を訓練し、年明けの戦いに備えるというシナリオだという。
当然、ゼレンスキー氏はこうした考えがロシア側にあることも承知だろう。
だからロシアの対話姿勢はうわべだけで、信用のおけないプーチン氏とは交渉しないと明言している。
仮にプーチン氏が本当にG20への出席にこだわり、国際社会との関係を保とうとするのであれば、ウクライナへの攻撃を収束に向かわせ、核による威嚇を止め、エスカレーションを止めるところから始めなければならない。
しかし問題なのは、今のプーチン氏にその力が残されているかということだ。
■「ウクライナ一掃を」 台頭する強硬派
懸念されるのが対話に向けた兆しを打ち消すように、発信を強めるロシア国内の強硬派たちの存在だ。
25日の深夜0時56分、プーチン氏に近い、チェチェン共和国のカディロフ首長は自身のテレグラムに「ウクライナの都市を一掃するべきだ」とする音声を投稿した。いまの攻撃は生ぬるいのだとロシア軍を批判する。
プーチン氏の側近の一人もロシア軍と現状の戦況に不満を爆発させている。
ワシントンポストは「プーチンの料理人」と呼ばれる実業家で民間軍事会社「ワグネル」の創設者、プリゴジン氏が、プーチン氏に「軍の幹部が戦争を誤らせている」と直言したと報じた。ロシア軍が「ワグネル」の傭兵に頼る一方で、任務を果たすために十分な資金と物資を与えていないと公然と不満を口にしているという。
ワシントンポストはロシア軍の苦戦により「ワグネル」の影響力が高まり、軍の指導部の立場が揺らいでいると指摘している。
ロシア軍が失態を繰り返す中、カディロフ氏やプリゴジン氏の傭兵軍団に頼らざるを得ない状況で、彼らの存在感は高まっている。
恐ろしいのは、カディロフ氏の深夜の不気味なメッセージが象徴するように、彼らが求めているのは、ウクライナを焼き払ってしまうということだ。
カディロフ氏は小型の核を使う必要があると公言している。このまま前線に強硬派の意見が反映される機会が多くなれば、さらに非人道的な攻撃が行われかねない。そして、プーチン氏が彼らをコントロールできなくなり、暴走を許す可能性もゼロとは言えない。
■G20出席は試金石
10月27日、プーチン氏はモスクワで開かれた専門家らとの国際会議の場で、ウクライナに対する核兵器の使用は軍事的にも政治的にも意味がないと述べた。
これまで「領土を守るためには核の使用も辞さない」との姿勢を示してきただけに発言を後退させた形だ。
対話を始めればエスカレーションを避けるつもりがあるという西側へのメッセージなのか。
あるいは、暴走し始める強硬派への戒めなのか。
プーチン氏は、この日行った3時間40分におよぶ演説と対談で、西洋非難を繰り返し、ロシアとウクライナは一体なのだとの相変らずの持論を展開した。しかし結果として新たに脅威を高めることはなかった。そしてG20への出席も検討中だと述べた。
プーチン氏は国内の強硬派を抑えこみ、停戦に向けた姿勢を示していくことで、G20に出席し、西側との対話へのきっかけを作ろうとするのか。
あるいは、強硬派にいわれるがままエスカレーションに突入していくのか。
プーチン氏のG20への参加・不参加の判断は、今後の戦争の行方を大きく左右する節目となる。
ANN取材班
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