ロシア語が優先する中国主導の国際会議…「広島サミット知らない」希薄なG7の存在感[2023/05/19 07:00]

■ホテルにチェックインして感じた違和感

5月17日、中国で初めて開かれる「中国・中央アジアサミット」を取材するため、陝西省の西安市に到着したANNクルーは、会議のメディアセンターが設置されているホテルに泊まることとなった。
部屋にチェックインして、荷物を下ろし、何気なくテレビをつけた時、最初に、その違和感は襲ってきた。

「これは、どこの国の言葉なんだ?」

慌てて画面に目をやって、その正体に気づいた。テレビをつけた時に最初に画面に映るように設定されていたチャンネルは、中国国営テレビのロシア語チャンネルだったのだ。

通常であれば、中国国内で最初に聞こえてくるのは、もちろん中国語だ。また、様々な国際会議で海外へ行った時などは、最初に聞こえてくるのが「世界の共通語」である、英語の場合も多い。しかし、西安で最初に聞こえてきたのは、ロシア語だった。

考えてみれば、今回「中国・中央アジアサミット」に参加する中央アジア5カ国=カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンは、全て旧ソ連が分裂し、独立した国々で、当然、自国語のほかに、ロシア語を話せる人が多い。当事国である中央アジア5カ国の記者に気を遣った結果、初期設定のチャンネルをロシア語にしたのだろう。

そこから注意してみると、実際、会議の様々な場面で、ロシア語が英語に優先していることに気づいた。記者に配られた手帳も、メディアセンターの看板も、部屋に書いてあるウェルカムメッセージも、中国語→ロシア語→英語の順番で統一されていたのだ。
国際会議と言えば「英語」だと思い込んでいた私には、新鮮な驚きだった。

■広島G7サミットの開催を知らない記者たち

今回の「中国・中央アジアサミット」は、日本で開かれるG7の「広島サミット」とほぼ同じタイミングで開かれる点でも、注目されている。
記者としてはもちろん、西安の「中国・中央アジアサミット」と、広島の「G7サミット」について、日本や中国以外の国の人たちが、どのように見ているのかは、当然気になるところだ。
そこで、会議を取材している記者たちにインタビューを申し込むこととなるが、ここでも一苦労だった。中央アジアやアフリカから来た記者の人たちは、押しなべて英語が話せなかった。

我々ANNのクルーも、万事休すかと思われたが、そこで役に立ったのが、日本のタクシーの車内広告でもおなじみの「自動翻訳機」だ。日本語をウズベク語に、ウズベク語を日本語に、たどたどしいながらも、会話のキャッチボールをすることができた。
しかし、そのようにして返ってきた答えは、面食らうものだった。
多くの記者たちが、日本でサミットを開催していること自体を知らなかったのだ。

■したたかな中国の戦略 低下するG7の存在感

話を聞いたのはウズベキスタンの記者3人と、カザフスタンの記者1人、カメルーンの記者1人の、合計5人だ。
中国については、文化的な共通点は全くないものの、やはりその「経済力」に期待するという声が多かった。中央アジアの国々にとっては、これまで頼りにしてきたロシアが、ウクライナ侵攻によって国力が落ちてきているので、相対的に中国の重要性が高まっているのかもしれない。

また、アフリカも、地理的には全く離れているが、現地でインフラ建設などを積極的に行っている中国の存在感は高いものと思われる。
さらに中国は、遠方の国の記者たちを呼び寄せ、自分たちの活動をアピールすることに長けている。今回の「中国・中央アジアサミット」でも、ウズベキスタンの記者を西安市内の観光名所に案内し、『中国文化』を熱心に宣伝していたのが印象的だった。

一方、それらの記者から聞かれた日本の印象は非常に薄く、5人中3人が、G7サミットが広島で開かれることさえ知らなかった。「『グローバルサウス』を重視する」と、岸田総理は国際会議のたびに強調するが、こちらのサミットでは、日本の存在感をそこまで強く、感じることはできなかった。

「国際社会では英語が通じるものだ」という私の常識が通じなかったように、
「G7サミットの一挙手一投足に世界中が注目している」という考えも、もはや過去のものなのかもしれない。

ANN中国総局長 (テレビ朝日)冨坂範明

画像:メディアセンターの看板も中国語、ロシア語、英語の順

こちらも読まれています