中国の中央アジアへの影響力を強める“西安宣言” 「唐の時代の栄光」再び?[2023/05/20 20:00]

広島で開かれたG7サミットと同じタイミングで、陝西省の西安市で開催された、第1回の「中国・中央アジアサミット(以下「西安サミット」と略)」は19日、2日間の日程を終え、「西安宣言」を採択して閉幕した。

中国は、面白いほどに「古代王朝」を前面に打ち出す“演出”で、中央アジアの国々に精力的にアピールする作戦を展開した。

■メディアセンターには、謎の顔ハメパネル

今回、中国が開催地に西安を選んだ背景には、深謀遠慮があるのだろう。何と言っても西安は、かつての「唐の都・長安」として名高い。もちろん、「唐」以外にも、中国の歴史を彩った歴代王朝の都であり、アメリカが逆立ちをしても勝てないのが、この中国の悠久の歴史だからだ。

「西安サミット」で、まず「王朝推し」の精神を感じたのは、取材記者が集まるメディアセンターだ。入り口の受付には、しゃがんで片膝を立てる、秦の時代の兵馬俑(へいばよう)が鎮座していた。トイレなどの案内板にも兵馬俑が用いられ、異国情緒を盛り上げてくれる。
さらに、漢や唐の時代の伝統衣装をまとったボランティアの学生が、中国の茶道や書道の実演をしてくれるコーナーもあった。普段あまり中国文化と縁のない、中央アジアやアフリカの記者たちが、貴重な機会とばかりに体験していたのが印象的だった。

そしてなぜか、これらの伝統衣装を身にまとった気になれる?顔ハメパネルも何枚か設置されていた。たださすがに、みんな忙しいのだろう。こちらは3日間の滞在期間を通じて、顔をはめている記者を確認することはできなかった…

■“ミステリーツアー”の行き先は「唐のテーマパーク」

そして、この「王朝推し」の精神は、サミット本番の歓迎行事でも同様だった。ただし、その取材に際しては、現在の“中国らしさ”を感じる、混乱の一幕があった。

取材陣に知らされていたのは、集合時間と集合場所だけ。指導者の安全を第一に考える中国では、特に習近平国家主席が参加する場合は、具体的にどこで何をするのか、全く告知がない場合が多い。いわば、「ミステリーツアー」状態だが、私は普通の歓迎レセプションを開催するホテルかホールのような会場を想定していた。

そして18日のサミット開幕初日。午後4時すぎにメディアセンターでバスに乗り込んだ取材陣は、違うホテルで安全検査を受けたのち、別のバスに乗り換えさせられた。車に揺られること2時間、ようやくたどり着いたのは、想定とは全く違う、赤いカーペットが敷き詰められた野外の場所。目の前には、巨大な楼閣がそびえたっている。
「ここはどこだ??」と、慌てて携帯電話の地図アプリを使って調べると、「大唐芙蓉園」という「唐のテーマパーク」だったのだ。「大唐芙蓉園」は、唐の皇帝の庭園だった「芙蓉園」の近くに作られたテーマパークで、唐代をイメージした建築などが売りとなっている。

習近平国家主席や、彭麗媛夫人が、中央アジア5か国の首脳と夫人を引き連れてやってきたのは、我々の到着からさらに1時間半たった、午後7時半ごろ。巨大な建物の前で唐の衣装に身を包んだダンサーたちの踊りを楽しんだ一行は、正味10分程度で、その場を後にした。
遠路はるばる来訪した5カ国の指導者をもてなすために、開催された歓迎式典も、やはり「王朝推し」だったのだ。

■中央アジアへの影響力強める「西安宣言」

そんな、「王朝推し」の「西安サミット」で採択された、「西安宣言」では、中国と中央アジア5カ国の首脳によるサミットを、2年に1回、開催することが決められた。そのうち、2回に1回は中国で、もう1回は中央アジアの各国が持ち回りで開催する。つまり、4年に1回は、中央アジア5カ国の首脳が「中国詣で」をすることになる。
加えて、常設の事務局が中国に置かれることも決まった。これらの新しい枠組で、旧ソ連構成国としてロシアの影響が強かった中央アジアにも、中国の影響力が広がっていくことが考えられる。
また、中央アジアに隣接し、2021年にアメリカ軍が撤退したアフガニスタンについても、「平和と安定を守ることを助ける」として、影響力を行使する考えを示した。

■“一帯一路”の新たな出発 「唐」の時代の栄光、再び?

さらに、「西安宣言」では、現代版のシルクロードとして10年前に習主席自らが提唱した、中国主導の経済圏「一帯一路」について、10周年を「新たな出発点」として、中国と中央アジアで、協力を深化していくことが盛り込まれた。
「唐の都・長安」だったころの西安の、もう一つの重要な顔が「シルクロードの出発点」という役割で、中央アジア諸国とのサミットが「西安」で開催された背景には、この要素も大きくかかわったと感じている。
特に習近平政権は、今年後半に、3回目となる「一帯一路ハイレベルフォーラム」を開催する予定で、中国外務省は下半期の最重要行事に位置付けている。

ただし、巨額の中国マネーでインフラ建設を進める「一帯一路」に関しては、中国からの債務を返済できなかった場合に、運営権などが取得されてしまう「債務の罠」の問題もあり、警戒する国もある。また、G7の国家として唯一「一帯一路」に参画していたイタリアが、脱退の意向を示すなどの動きもあり、必ずしも順風満帆とは言えない。だからこそ、中央アジア諸国に、「一帯一路」での協力を改めて求めることには、大きな意味があるのだろう。

かつては比類なき大国家として、威容を誇った「唐」の帝国。そして現代の中国も、アメリカと並ぶ“グレートパワー”として、存在感を高めている。「一帯一路」の新出発で、中国が「西側」とは違う、どのような「国際秩序」を目指すのか、これからも現場で取材を続けていきたい

ANN中国総局長 (テレビ朝日)冨坂範明

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