「自信なさ表れた」プーチン氏 記者らとの会合の詳細解説 国内の懸念払拭には失敗か[2023/06/19 18:00]

ロシアのプーチン大統領は6月13日、従軍記者や軍事ブロガーらと大統領府で会合を行った。その模様は、ロシア国営テレビで放送され、ロシア大統領府のホームページでも公開されている。

2時間余りわたる会合を全編見た元テレビ朝日モスクワ支局長の武隈喜一氏は、16日放送の「大下容子ワイド!スクランブル」のスタジオに出演して、会合の内容を詳細に分析した。

プーチン大統領は、カホフカダムの決壊はウクライナ側の砲撃によるもので「ロシアの支配地域に深刻な被害をもたらすのに、(我々が)爆破する訳がない」と主張し、ウクライナの反転攻勢については「どの地域でも成功していない」「ロシア軍の損失は、ウクライナ軍の10分の1」などとロシア側の正当性と優位をアピールする。

相変わらずの強気の発言を繰り返しているようだが、受け答えを通して聞いていくと、プーチン大統領は、本質的に何が起きているか把握できていない上、どうするのか方針を決めかねている印象を受けるという。武隈氏はこの会合について、プーチン大統領の「自信のなさ」が露呈した、と断じた。


■集まった18人は誰なのか

従軍記者「我々はあなたの答えが、正直かつ率直なものになることを期待しています」
プーチン大統領「もちろんだ。約束しよう」

こうした挨拶で始まった会合。注目すべきは人気ブロガーも出席したことだ。
集まったのは18人。武隈氏によるとこのうち14人は国営放送や新聞の記者やブロガーで、あとの4人がSNSで個人のブログを展開しているという。プーチン大統領との面会を前に、1週間の隔離期間を経て、当日朝にはPCR検査を受けた上でクレムリンに集合したということだ。

軍事ブロガーは、時に軍への批判も発信することから、ロシア国民に信頼される情報源となり、大きな影響力を持っている。
席に着いた中にはSNS「テレグラム」の登録者数275万人を誇るユーリ・ポドリヤカ氏。そして登録者数75万人でロシアが実効支配を進めるウクライナ東部ドネツク州出身の24歳、エカテリーナ・アグラノビッチ氏はプーチン大統領の隣に座った。

呼ばれているのは御用記者や親プーチン派のブロガーばかりではないのか?
武隈氏は「プロパガンダの先頭を走っている人たちなので、政権に近い」「ブロガーたちは自分たちで情報を出しているが、クレムリンの情報に反するようなことをブログに上げるようなことはほぼしていない」と彼らの立場を解説。しかし、「軍事ブロガーはついこの間まで戦場にいた人たちなので、自分が見てきたもの、現地の住民から聞いてきたことをプーチン大統領に直接ぶつけているという意味では、彼らの本音も出ていた会議になっていたと思う」と、この会合の意義も示した。

■「不安を鎮めるための会合」 “不愉快な”質問にも答えるも…

この会合の意図について武隈氏は「ウクライナが反転攻勢を始めて、ロシア国内で不安が今、高まっている。これを鎮めることがひとつ」そして、「自分たちの目で戦場を見てきている人たちなので、その情報はプーチン氏にとっても大切」と説明する。

記者らは厳しい質問もしていた。
従軍記者のコッツ氏は5月3日のクレムリンへのドローン攻撃について質問をした。
「この質問は不愉快かもしれませんが、敵のドローンがなぜクレムリンに届くのか?」
プーチン大統領は「従来の防空システムは、ミサイルや大型航空機を対象にしている」「ドローンを探知するのは、非常に困難だ」としながらも「今後は対応できる」と答えた。

先月22日以降、ロシア西部の国境地帯、ベルゴロド州でウクライナ側から越境攻撃を受け、「住民6000人が避難した」州知事がテレグラムで発信していることについても、コッツ氏は質問した。「なぜ国境地帯から住民を避難させなければならないのか?」
プーチン氏は「攻撃がロシア領内に及ばないよう、ウクライナ領内に緩衝地帯を作ることを検討する必要がある」と答えた。
現在攻撃を受けている状況であるにも関わらず、質問対して明らかに回答が外れている。

武隈氏は「はぐらかすような答えが多い」と会合全般の印象を語る。
「すぐに歴史に逃げちゃうんです。プーチンはウクライナとの関係にしても戦争の話にしてもすぐに歴史に逃げてしまって、出てくる医療関係の施設が足りない、高機動砲が足りない、弾薬が足りない、ということになってくると、すぐに話をそらしてしまうんです。最高司令官として現場の問題をプーチンが把握しているとはとても思えないような、曖昧で漠然とした答えしかしていない」
「大丈夫かとこちらが思うくらいで、これまでに何度も出てきて、ブロガーたちも半年前から書いているようなことを、え、そんなことがあったのか、と周りに聞いたりしているんですね」

その結果、見た国民の不安を鎮めるという会合の目的は果たされなかったと武隈氏はみている。
「プーチン氏は毎年3〜4時間の国民との直接対話をしているが、去年はなかった。その代わりにもなるような会合だったが、あまりにお粗末で、特に国境付近で住民が避難している状況についても他人事のように話していて、ここをどう防衛するのかあいまいで、基本的な施策を出していないんですね。これを見ると余計に不安になるのではないかと思えるようなものでした」

■首都再攻撃も? 繰り返した曖昧な答えの真意は

プーチン大統領自身の迷いが、さらに際立った場面があったという。

「キエフ(キーウ)に戻るべきか、戻らざるべきか。このような修辞的な問いかけに皆さんが答えを出せないのは当たり前だ。私が自分自身で答えを出すほかない」
まるで、自問自答しているかのようなこの言葉はなにを意味していたのか。

プーチン政権のキーマンとされる人たちからは「キーウ再攻撃論」の声が高まっている。
メドベージェフ前大統領は、自身のテレグラムに「マイダン広場 間もなく『ロシア広場』に改名」と投稿し、キーウ中心部の広場にロシア国旗が掲げられる加工画像を投稿した。
また、プーチン大統領に影響を与えると言われる思想家、ドゥーギン氏もテレグラムに「6月12日の『ロシアの日』を祝うのは間違いだ。(中略)キエフ(キーウ)を占領した日が、本当の『ロシアの日』となる」と投稿している。

プーチン大統領は会合で、ロシア軍がキーウを再攻撃するなら、「追加動員が必要」としながらも、「今のところ動員の必要はない」と答えた。再攻撃の意思があるのかないのか、どちらとも取れる。
また、「長く続いていることで特別軍事作戦の目的や課題は変化しましたか」という質問に対して、「状況によって戦争の目的は多少変化したが全体的には当然変えるつもりはない。基本的な目的であるわけだから」と、これも文字面だけでは真意がつかみにくい答え方をした。

こうした発言について、武隈氏はこのように見ている。「曖昧で何言っているかよく分からないんですけども、『基本的な目的』つまりウクライナ政府を倒して、ウクライナという国を抹殺していくというプーチンの基本的な目標は変わってないんだということを言いたかったんだと思います。ウクライナそのものを潰すという考えに取りつかれていることは確かで、この会議の中でも何度もそれが出てくるんです。ただ、それが無理なことはこの間の戦闘を見れば分かるわけで、だからプーチンはこう言いながらも曖昧な答えを繰り返さざるを得ないわけです」

■会見を通じて見えるもの

この会合をロシア語で聞くと、翻訳で見る以上に何を言っているのか分からないような言葉使いをすることが多いという。会合の前日、6月12日「ロシアの日」にひとりで演説をした際には、全く違う話し方をしたと武隈氏は語る。

「(演説では)非常に自信に満ち溢れ、自分たちの目的も非常に明確にしながら話をしているんですけれど、こういったQ&Aになると、すぐに答えにつまってしまって曖昧な答えしかしない。書かれたものを読むプーチンと、質問が事前に手元にあるにしても生の空間で答えていくプーチンとは、自信の表れ方がまったく違って、この会合ではプーチンの自信のなさが非常に表れている会議だったと思います」

(2023年6月16日放送 「大下容子ワイド!スクランブル」から)

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