【報ステ】氷を解かす…謎の「黒ずみ」&“降るはずのない雨”北極圏の今は…現地取材[2023/09/21 23:30]

今、世界の中でも最も気温が上昇している場所が『北極』です。その影響を受け、氷がどんどん解け出しています。温暖化により、北極で今何が起きているのか。この夏、テレビ朝日は、解け出す氷河を調査するチームに同行取材しました。

向かった先は、夏になると太陽が沈まない北の地域、北極圏に位置するグリーンランド。もしグリーンランドの氷が全て解けると、海水面は地球全体で7メートルも上昇すると言われています。

取材の中で新たに見えてきた、北極の氷を解かす原因。1つ目は、謎の『黒ずみ』です。東京ドーム5700個分ほどの広大な氷のかたまり『カナック氷河』。ここで、氷河の変化が見えてきたといいます。

JAXA研究開発員・島田利元さん:「一見、白い氷に覆われた氷河ですが、所々黒くなっているところがある」

北極の氷河にある黒ずみは年々増加。たった10年ほどで、約7倍も増えていることが確認されています。

島田さん:「黒いと太陽の光を効率的に吸収するので、その部分だけ熱の吸収が促進して、融解が促進して氷が解けてしまう」

黒ずみは太陽の光を吸収してしまい、熱を持つことで、氷河をより解かしています。氷河の融解を加速させる黒ずみ。その正体は…。

島田さん:「これは雪氷微生物と呼ばれる、冷たいところに生息する微生物がいる」

黒くなった穴にある泥状のもの。これが鉱物をまとった微生物だといいます。年々暖かくなっている北極で、氷は解け、微生物がより繁殖しやすくなり、さらに太陽をより吸収する。負の循環が進んでしまっています。

北極の氷が解け出す、もう1つの原因。それは『雨』です。

松本拓也ディレクター:「上は柔らかいドロみたいな感じで、ふかふかしていますけど、それより下はカチカチの氷がありますね」

北見工業大学・渡邊達也助教:「その辺が永久凍土ですよね」

永久凍土とは、年間を通して凍ったままの大地。北極圏に多く点在しています。しかし今、大雨や気温の上昇によって、どんどん解け出しています。

渡邊助教:「ここも永久凍土が解けているからですね」

植物が生い茂る斜面には、ところどころ大きな穴が見えます。実はこれが、永久凍土が解けてしまった跡だといいます。

渡邊助教:「凍土が割れて、くぼんでいる。そこに水が入り込みやすくなっている。そこに水が集まって、融解を進行させている」

2カ月にわたる取材で、度々“北極での雨”に遭遇してきた取材班。この雨が、時には現地の住民も経験したことのなかった豪雨となり、大規模な地滑りなど、人々の暮らしを脅かし始めています。北極の環境の変化が確実に人類に影響を及ぼしているのです。


◆温暖化が壊す「伝統的な生活」

北極で2カ月にわたって取材を続けた、松本拓也ディレクターに聞きます。

(Q.温暖化で氷が解けると、そこに暮らす人々にはどんな影響がありますか)

松本ディレクター:「北極に暮らす人はいまでも狩りを生活の一部とする人が多いです。私も実際に地元住民と同じ屋根の下で一緒に生活をしながら、アザラシやイッカクなど自分たちで獲ったものを毎日食べる生活を経験しましたが、その暮らしを支える“狩り”に影響が出ています」

(Q.狩りへの影響とは、具体的にはどういったものですか)

松本ディレクター:「私が取材したグリーンランド北西部では、人間の食糧や犬ぞり用の犬のエサとして欠かせないセイウチの猟が昔から盛んでした。しかし、温暖化の影響で海水温が上昇して、近くの海にまで氷が張ってくるのが9月から11月と約2カ月遅くなったことで、氷に追われて移動するセイウチが北部から村の近くまで南下するのが遅くなりました。北極では11月はすでに日が昇らない極夜の時期とも重なってくるため、猟に出られる期間そのものが短くなっています。また、移動手段として今も使われている犬ゾリも影響を受けています。そもそも海に張る氷が薄くなったり、昔は凍結していた場所が凍らなくなったりすることで、狩りに行ける範囲自体も狭くなっているということです。住民は特にこの10〜20年で環境の急激な変化を感じていると話していました」

(Q. こういった変化に、住民はどう対応していますか)

松本ディレクター:「長年続けていたセイウチ猟を辞めて、魚を獲る漁業へと仕事を変えたり、そもそも村を出て別の仕事を探したりと、伝統的な生活を続けることを諦める住民も出てきています。2カ月間の取材を通して、温暖化がすでに人の営みに対しても直接的な影響を与え始めていると実感しました」

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