ハマス・イスラエル衝突「地球規模の戦争に…」ウクライナ軍高官が指摘するロシアの影[2023/10/13 18:00]

ハマスによる大規模ロケット攻撃と越境攻撃の背後に、イスラエルの抹殺を目標に掲げ、長年、軍事、経済両面で過激派組織ハマスを支援し続けてきたイランがいることは確実だとされているが、果たしてプーチン大統領のロシアはこの紛争激化に関与しているのだろうか。
もともとはイスラエルに近いとされていたプーチン大統領だが、今回の紛争では、ハマスの背後にその影が見え隠れするという指摘が出ている。
ちなみにハマスの大規模攻撃が始まった10月7日はプーチン大統領の71歳の誕生日だった。ウクライナのメディアでは、プーチン大統領の誕生日に合わせてロシア軍の将軍や情報機関の高官たちが、想定外の戦果をプレゼントとして用意しているのではないか、と言われていた。このハマスの越境攻撃が果たしてそのプレゼントだったのだろうか。
(元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)

■長年の友人だったはずが…

イスラエルのネタニヤフ首相は、これまでプーチン大統領の長年の友人と見られていた。強権的な政権運営の手法や、伝統主義的なイデオロギーへの傾斜が二人を結びつけていた。ウクライナへの侵攻を始めた昨年にはプーチン大統領とネタニヤフ首相は少なくとも11回の電話会談を行っている。
ところが、10月7日にハマスの攻撃が始まってから、プーチン大統領は一度もネタニヤフ首相に電話をかけていない。テロ攻撃の犠牲となったイスラエル人への追悼の言葉も口にしていない。つまりプーチン大統領はイスラエルの犠牲者への哀悼を表す側にはいない、ということだ。
それどころか、10月11日にモスクワで開かれた国際会議の席上で、プーチン大統領は「これはアメリカの中東政策の明確な失敗だ」とイスラエルの側に立つ米政権を非難するとともに、今回の戦闘の責任はパレスチナを無視して来たアメリカとイスラエルにある、という立場を明らかにした。

■ロシアの偵察衛星が先月から移動か

ロシアの関与について、いまのところ直接の証拠はない。しかし、10月12日にウクライナの『ウクラインスカヤ・プラウダ』紙が公にしたインタビューで、ウクライナ軍情報総局のキリル・ブダノフ総局長は、いくつかの可能性を示唆している。
ブダノフ氏によれば、ロシアは、ウクライナの戦場で戦利品として獲得したウクライナ軍の武器をハマスに渡しているという。さらにブダノフ氏は、ハマスによるFPVドローンを使った装甲車両への攻撃などは、明らかにロシア軍がウクライナとの戦争で得た戦闘経験が伝授されたものだと言う。
そしてブダノフ氏はロシアに関わる二つの情報をあげた。ひとつはハマスのロケット攻撃が始まる1週間余り前、レバノン領内でロシアのラジオ局スプートニクがアラビア語放送を開始し、プーチン・ロシアがこれまでロシア国内で盛んに行ってきていた反欧米のプロパガンダを流し始めたこと。
そしてもうひとつは、9月24日、情報収集活動を行うロシアの偵察衛星がイスラエルをカバーする静止軌道上に位置を移したことだ。また、9月22日から24日まで、ロシア国防省高官らがイランを訪問していたことを上げている。この訪問はイラン側から持ちかけられたようだが、その議題のひとつはロシア、イラン両国間での諜報活動の協力と情報交換の拡大であり、ブダノフ氏によれば「ロシアが情報を、イランだけではなく他の利害関係をもつ各国に提供し始めたことは明確だ」という。

■「速いスピードで地球規模の戦争が近づいている」

このブダノフ氏の発言を裏付けるように、ハマスの高官アリ・バラカ氏は、10月11日、ロシアのアラビア語放送テレビ”Russian Today”で、今回の攻撃は2年間かけて周到に計画、準備されたものであり、ガザではロシアからのライセンスを得て、カラシニコフ自動小銃とその弾薬を製造する工場を稼働させていたと語っている。
アリ・バラカ氏は「ロシアはわれわれにシンパシーを持っている」と語っているが、準備段階でどこまで具体的にロシアが関わったのかは明らかにしていない。またバラカ氏によれば、ハマスが狙う人質の交換は、イスラエル国内に服役しているハマスのメンバーだけでなく、欧米で拘束されている過激派テロリストをも対象としたものとなるだろう、と語っている。
ウクライナの戦況への今後の影響を尋ねられたウクライナ軍情報総局のブダノフ総局長は、「この紛争が数週間で終わるのならば、心配することはない。来年の中頃までは(欧米のウクライナへの)軍事支援に問題はない。だが長引けば、ウクライナ以外(=イスラエル)にも軍事支援が必要となり、そうなると問題が出るだろう」と答えたうえで、こう警告している。
「いま、世界は早いスピードで地球規模の戦争に近づいている。なぜならばこれらの紛争はすべて同じ国々が関わっているからだ」

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