台湾地震の倒壊ビルに「3つの共通点」1階部分に“耐震上の弱点”も…[2024/04/06 22:30]

(染田屋竜太ディレクター)
『こちら花蓮市内の一部崩落したマンションなんですが、柱がむき出しになっています』

甚大な被害が出た、台湾東部の花蓮市。そこで取材班が出会ったのは、トウさん夫婦です。ヘルメットを被り、突入したのは、倒壊の危険がある建物でした。実はトウさん夫婦の自宅はこの中。取り壊しが決まったため、荷物を取りに戻ることが許されました。ただし、制限時間はわずか15分。階段の壁には亀裂が走り、一部は崩落。わずかな光を頼りに5階の自宅に辿り着くやいなや…

(夫・トウさん(41))
『掃除機も持っていこう。5万円もしたから』
(妻・デンさん(39))
『そうね』

1つでも多く荷物を持ち出すため、息をつく暇もありません。そこで、トウさんは大胆な行動にでます。

(夫・トウさん(41))
『いくよ!』

(染田屋竜太ディレクター)
『窓から衣類でしょうか。放り投げていますね』

運び出す時間も惜しいため、かばんや寝具など、壊れにくいものは窓から外へ。

(住民女性)
『気を付けて。あなたが最後?』

(夫・トウさん(41))
『まだ1人います!』

時間切れを知らせるタイマーに急かされ、トウさんは自宅を後に。その後、窓から投げ落とした荷物を回収。避難中のホテルには10日間しかいられず、住居探しを急がなくてはなりません。

(夫・トウさん(41))
『やっと2年前にローンを完済したばかりだったのに、わずか数十秒の地震で消えてしまってとても苦しいです』

さらに現地で取材を進めると、倒壊した建物から3つの共通点が見えてきました。

▼倒壊した建物の共通点1 「旧耐震基準」

(染田屋竜太ディレクター)
『ビルが大きく傾いています。いま解体作業中なのか、上の方がかなり壊れている感じですね』

倒壊により、1人が犠牲となってしまった、地上9階建てのビル。きのうから解体作業が進められていますが、実は、6年前の地震の時にも損傷していました。当時の写真を見ると、1階の柱や3階の壁が損傷しています。

(花蓮県の建設局長)
『損傷部分を修繕した後、通常使用が可能になりましたが、新しい耐震基準に合わせた補強はしていませんでした』

もう一つの倒壊した建物も、昔の耐震基準のままでした。

▼倒壊した建物の共通点2 「断層の上」

(建設技師)
『断層の上にある建物の損壊が激しいです』

それぞれの建物が断層から近いことも共通していました。今回、倒壊した建物に加え、6年前の地震で大きな被害を受けた建物の場所を地図上に示してみると、その全てが断層の近くに集中していることがわかります。

▼倒壊した建物の共通点3 「1階部分の損傷」

1階部分の損傷が激しいことも、今回の地震で倒壊した建物に共通していることです。一方で、建物の構造に問題がなかったかどうかについては、台湾では、さらに詳しい調査が必要な状況だと言います。サタデーステーションが新たに入手した映像には、倒壊した建物の構造上の問題を示す手掛かりとなるような瞬間が映っていました。大きな揺れを感じ、次々と建物の外へ飛び出す人たち。最後の1人が逃げ終えたおよそ2秒後に建物が崩れ落ちました。1階の柱に注目すると、激しい揺れが続く中で、縦に割れるように亀裂が入り、ひしゃげたと同時に倒壊が始まりました。この1階には飲食店が入っていて、道路に面した部分には壁が少ないのが特徴です。

(倒壊した飲食店の店主)
『家を建てて30年、手は加えていません。妻は火を止めていたので逃げるのが最後になりました』

台湾で地震被害の調査をしたこともある、東北大学の五十子幸樹教授に、この映像を見てもらうと…

(東北大学災害科学国際研究所 五十子幸樹教授)
『弱いところに地震のエネルギーが集中してしまって、損傷が累積していくと、重さを支える能力が無くなって崩れてしまう、ということが起こっている』

特に、1階部分に壁が少ないと耐震上の弱点になりやすいと言います。7階建て構造の簡易的な模型を使って実演してもらいました。建物の1階部分の4面が全て壁だと、大きく揺らしても倒れません。しかし、壁を2枚取り除いてみるとすぐに倒壊。壁がない方向に倒れやすいと言います。今回の飲食店も壁が少ない道路側に建物が傾いていました。1階部分の壁を全て取り除くと、さらに崩れやすくなります。このような建築物は「ピロティ形式」とも呼ばれ、適切な補強が必要だと言います。台湾の典型的なピロティ形式の構造物を十分な補強をしないまま揺らした映像では、やはり、1階部分の柱に多くの亀裂が入りました。この「ピロティ形式」のような建物は日本にも多く、熊本地震の時に倒壊した事例があります。一方で、東日本大震災の時には、「ピロティ形式」の建物が津波に耐えた例が出てくるなど、デメリットばかりでもないと言います。

(東北大学災害科学国際研究所 五十子幸樹教授)
『今回の地震を契機に(日本)全国で点検を進めて行った方が良いという意見が出ている。1階部分が一番「地震力」が大きくなるが、一階の壁が少ないと弱点になる』

◇◇◇

板倉朋希アナウンサー)
台湾地震で、これまでに確認されている亡くなった方は13人、けがをされた方は1147人となっていて、いまだ連絡が取れない方は6人となっています。また、震源に近い花蓮県の太魯閣峡谷では、一時600人以上が孤立していましたが、400人まで減りまして、この400人についても、つい先ほど、地元メディアは全員が台中に向けて出発できる避難路が確保できたと報じました。

高島彩キャスター)
台湾のこの対応の速さ、スピード感というのはさすがだなと思いますし、救助活動も進んでいるようですけれども、気になったのが台湾では、今の耐震基準を満たしていない建物の倒壊が多くありましたよね。日本の現状はどうなっているんでしょうか?

板倉朋希アナウンサー)
近年の日本の耐震基準をめぐる動きは大きく3つありまして、まずは1981年5月まで適用されていた旧耐震基準。そのあと適用されたのが新耐震基準。これは震度6強から震度7の揺れでも倒壊、崩壊しないというものです。ですが、1995年に起きた阪神淡路大震災では、この新基準で建てられた木造住宅が倒壊するケースも多くありました。そのため、柱や壁など、さらなる耐震強化が盛り込まれた通称2000年基準というものに改正されました。

高島彩キャスター)
改正が繰り返されていくなかで、新しい基準への対応というのはどうなっているんでしょうか?

板倉朋希アナウンサー)
そのあたりなんですけど、東京都の木造住宅についての2020年時点のデータになりますが、2000年基準を満たしていない木造住宅が、まだ約51万戸もあるということなんですね。もっと言うと、新耐震基準ができる前に建てられた住宅も数多くありまして、これは木造住宅以外もすべて含めるんですが、約56万戸が1981年に改正された新耐震基準さえも満たしていないということなんです。こうした耐震化が進まない理由としまして、やはりこの費用が多くかかるということが多いんですけど、他にも耐震診断さえしないという意見もありまして、その理由を聞くと「診断することによって耐震性が明確になってしまうと資産価値が下がる恐れがあるかもしれない」といった意見もあるということですね。

高島彩キャスター)
リアルな声なのかな、という感じもしますけど、このあたり柳澤さんどう思われますか?

ジャーナリスト 柳澤秀夫氏)
気持ちは分かるんですけど、命にかかわる問題ですからね。やはり耐震診断をして、耐震補強工事をすれば逆に資産価値が決して下がることはないわけですから、やっぱりその費用負担をどうするかっていうのが1番のネックなのかな。自治体でできなければ国がカバーする。そのへんの連携をとって、とりあえずは状況を把握したうえで、心配なく耐震補強工事をできるような仕組みを作るってことが1番求められるのではないですかね。

高島彩キャスター)
いつ大きな地震が起きてもおかしくない、という状況ですからね。待ったなしで国と自治体で手を組んで進めていく必要を感じます。

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