“投資と雇用”アピールか…“もしトラ”布石? 岸田総理が議会で演説[2024/04/12 23:30]

アメリカを訪問中の岸田総理は11日、上下両院合同会議で演説しました。

岸田総理:「皆さま、ありがとうございます。日本の国会で、私がこれほどの拍手をいただくことは、まず、ありません」

前日の晩餐会同様、笑いを取るところから始まります。岸田総理が強調したのは、アメリカが築いてきた国際秩序が揺らいでいるということでした。

岸田総理:「中国の対外姿勢や軍事動向は、日本の平和と安全だけでなく、国際社会の平和と安定にとっても、史上最大の戦略的挑戦です。ロシアは、今も核兵器の使用をちらつかせており、再び、核による惨禍が現実になりかねないと全世界で懸念されています」

ただ、30分を超える演説中、イスラエルによる攻撃で3万人を超える死者が出ているガザ地区に触れることはありませんでした。

上下両院の合同会議で演説するのは、歴代総理の中で2人目です。
最初の1人、安倍総理がこの場に立ったのは、戦後70年の節目というタイミングでした。
安倍総理(当時):「熾烈に戦った敵同士は、心の絆で結ばれた友になりました」

かつて戦火を交えた敵が同盟を築く友となったことを強調。アメリカの議員たちが、党派を問わず、歓迎できる内容でした。

一方、岸田総理の演説ですが、反応が割れる場面もありました。

岸田総理:「アメリカの支援がなければ、ウクライナの希望は、ロシアの猛攻を受け、すぐに消えていたでしょう」

この発言にスタンディングオベーションが送られます。ただ、立ち上がらず、拍手さえしない議員もちらほら。AP通信によりますと、欠席した議員もいるそうです。

他の場面では、スタンディングオベーションを送る共和党のジョンソン下院議長も、岸田総理がウクライナ支援に触れると、拍手はするものの、座ったままです。

追加支援がなければ、砲弾が間もなく枯渇し、敗北するとの声が出ているウクライナ。しかし、ジョンソン議長が、予算法案の採決を拒否し、支援策は暗礁に乗り上げています。

演説は概ね好評でしたが、共和党の議員からは、こんな声が上がります。
共和党・バーチェット下院議員:「(Q.同意できなかった点は)ウクライナへの追加支援にはあまり賛成できません。日本がウクライナを支援するのは結構ですが、我々には関係ありません」
共和党・バーリソン下院議員:「他の国も支援に名乗り出るべきです。アメリカだけでは、世界の重荷をすべて抱えきれません」

自国第一主義を掲げ、内向き志向を強めるトランプ氏が、再び、大統領の座に就くシナリオがみえているアメリカ。岸田総理は、今や“トランプ党”ともいわれる共和党の議員や、世論に語りかける言葉を用意していました。

岸田総理:「一部のアメリカ国民は、アメリカが担うべき役割について、自ら懸念を抱いているようです。アメリカ国民の皆さんは、国際秩序をほぼ単独で維持してきた国として、孤独や疲弊感を覚えているでしょう。世界は、アメリカのリーダーシップを当てにしていますが、すべてアメリカだけでやるべきだとするのは筋違いです」

そして、防衛予算をGDPの2%にまで増額することや、1兆8000億円を超えるウクライナ支援などに触れると…。
岸田総理:「この議会においては、一連の取り組みに対して、超党派による強力な支持がいただけるはずです。私たちはともに大きな責任を担っています。私は、両国が平和・自由・繁栄に不可欠な存在だと信じています。信念という絆をもって、私は、堅固な同盟と不朽の友情をここに誓います」


◆岸田総理に同行取材している千々岩森生記者に聞きます。

Q.今いるのは、ノースカロライナ州ということですが、どうしてノースカロライナなのでしょうか。

千々岩森生記者:岸田総理は、いま、ノースカロライナで、トヨタが建設中の工場の視察をはじめました。投資総額が2兆円を超える大型案件です。これに続いてホンダの工場も視察します。政府関係者は、「雇用も含めた日本の存在をアピールする場所だ」と口をそろえます。それがまさにノースカロライナ州だといいます。

きのう面白かったのは、トランプ氏を支持する共和党の議員たちが最も沸いた、我先に立ち上がってスタンディングオベーションしたのが、岸田総理が「日本の企業は、アメリカで100万人の雇用を生み出している」とアピールした場面でした。今のバイデン政権に対してはもちろんですが、“トランプ大統領”の復活もにらんだ戦略だといえると思います。

Q.議会での演説ですが、一部の共和党議員が違和感を抱いでいるような様子も見受けられましたが、どのような空気感だったのでしょうか。

千々岩森生記者:私の席は、岸田総理の演壇の後ろで、議場が全部見えるところでした。共和党の反応が薄かったのは、ウクライナ支援の部分、そして、何よりも、岸田総理が「核兵器のない世界」をアピールした場面でした。議場の右側、民主党は、比較的理解がありますから、すぐさまスタンディングオベーションでしたが、一方、共和党は、拍手もせず、立ち上がりもせず、静まりかえっていました。一目瞭然のコントラストでした。議会は、与野党もいますので、うまくバランスを取りながら演説をやっていくのが定石なのでしょうが、きのうの岸田総理は、かなり自分の考え、言いたいことを強く押し出し、“ピュア”に主張した。これが率直な印象です。特に「自由と民主主義」のところ。ロシアや中国の軍事的活動を引き合いに出して、批判しながら、アメリカこそがまさに自由で民主的な国際秩序をつくってきましたよね。もし、疲れているなら、日本が一緒にやりますよと。アメリカに追随するというより、むしろ一緒に肩を組んで、叱咤激励をしながらやっていく強気な姿勢を見せたというのが、きのうの演説だったと思います。

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