「プーチン大統領を高く評価」ハマス幹部モスクワ訪問とロシア・イランの深い関係

[2023/10/28 10:00]

3

 10月26日、ハマスの幹部アブ・マルズク氏らがモスクワを訪問した。
事前のアナウンスもなく、突然の訪問だった。

(元テレビ朝日モスクワ支局長 武隈喜一)

■イスラエルはロシアを激しく非難

 ロシアの独立系メディアなどによると、ロシア外務省は「ロシア人を含む外国人人質の早急な解放について話し合われた」と短いコメントを出した。

 しかし、ハマス側のプレスリリースには「人質問題」についての言及は一切なく、「ガザ侵略におけるシオニスト占領者に対するあらゆる手段での抵抗の権利」と「欧米が支持するシオニストの犯罪をやめさせる方法」について話し合われたとして「プーチン大統領の立場を高く評価する」と述べている。

 これに対してイスラエル政府は「ハマス幹部のモスクワ訪問はテロを支持し、テロリスト・ハマスの蛮行を正当化するものだ」と激しくロシアを非難し、ハマス幹部を直ちに国外へ追い出すようロシア政府に迫った。

■大規模攻撃前にもハマスは頻繁にモスクワを訪れていた

ボグダノフ マルズク ハマス
ハマス幹部アブー・マルズク氏(右)とロシア外務省ミハイル・ボグダノフ次官(中央) ハマスのテレグラムより

 今回のハマスの大規模攻撃後、ハマスの後ろ盾であるカタールで、ロシアは何度かハマスとコンタクトを続けている。ロシアは一貫してハマスを「テロ組織」とは認めておらず、これまでもたびたびモスクワに招き会談を開いてきた。

 ウクライナ侵攻直後の去年5月にはハマス幹部がモスクワを訪問し、ラブロフ外相、チェチェン首長のカディロフとも会っている。

 さらにロシア国内に動員令の出された直後の去年9月22日には、ハマスのトップ、イスマイル・ハニヤがモスクワを訪れ、ラブロフ外相と会談している。そこでもロシア政府は「国際法に基づくパレスチナ・イスラエル紛争の解決の必要性」を強調しパレスチナ支持を明確にしている。

 また今年3月、ハマス幹部がモスクワを訪問した際には、やはり代表団を率いたアブ・マルズクは「ウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦は世界における米国の支配に終止符を打ち、世界を多極化しようとする目的を持っている。これは虐げられたすべての民族、パレスチナ民族にとって利害にかなうことだ」と述べていた。

米空母 ジェラルド・フォード
ギリシャ沖を航行する米空母ジェラルド・フォード 2023年10月4日

■ロシアとハマスは「世界の多極化」で利害一致

 ロシアにとってもハマスにとっても、米国や欧州各国が支援するイスラエルやウクライナを排して、「世界の多極化」を図ることが、双方の利益に合致することになる。

 しかし今回のハマス幹部のモスクワ訪問が注目されるのは、ちょうどイラン外務省のアリ・バゲリ・カーニ次官がモスクワに滞在している時期だからだ。

 ロシア・イラン両国は「ガザでの軍事行動の停止の必要性」と「パレスチナ住民への早急な人道支援の提供」について確認した、と共同声明で述べ、両国の緊密な関係を強調している。

 事実、9月にはショイグ国防相がテヘランを訪れイラン国防相と会談した際に軍事協力強化を確認したのに続き、10月23日にはラブロフ外相がテヘランを訪問し、中東問題の解決を「米国が長年にわたり妨害してきた」と米国を名指しで非難している。

■ロシアの狙い

  ウクライナ戦争で巨額の戦費を使い、来年度予算の編成にも苦しいロシアが、ハマスに対して有効な物質的支援を打ち出すことは不可能だ。最新の兵器や衛星情報を提供できる余裕も今のロシアにはない。

 ロシアの狙いはイスラエル情勢をさらに複雑化させ、ガザのパレスチナ住民の悲惨な映像がSNSや世界のメディアを通じて無数に拡散される中で欧米世論の分断を図り、同時にウクライナに対しても、日本を含め支援を続ける各国の支援疲れと世論の分断を加速化していくことであろう。

こちらも読まれています