イランの反撃の可能性は?「報復の連鎖」エスカレートも イスラエルの“最優先”とは
[2024/04/24 17:00]
4月19日にイスラエルがイランに対して報復攻撃を行ったとみられている。攻撃があったのはイスラエルが長年、破壊活動の標的にしてきたイランの核施設がある地域だった。
両国の対立激化で、中東全域を巻き込んだ緊張悪化が懸念されている。
1)報復の連鎖拡大を互いに自制か?
イスラエルがイランに対し、「報復攻撃」を行ったと報じられたが、攻撃直後、イランの反応は不自然なものだった。
イラン国営放送の記者は、「街は平静を保っており、人々は通常通りの生活だ」と平穏を強調。革命防衛隊に近いタスニム通信も「イスファハンや国内の他の場所に対して外国からの攻撃の情報はない」と主張するなど、国内で異変がないようなふるまいが目立つ。
イランのアブドラヒアン外相は「現時点での反撃の計画はない」と発言した一方で「イスラエルが再び行動を起こすなら、我々はただちに最大限の対応をするだろう」と警告した。
今回の攻撃に対し、イランは反撃するのか?イランを中心に中東地域の安全保障を研究する田中浩一郎氏(慶応義塾大学教授)は以下のように分析する。
一方、イスラエルによる「報復攻撃」の前日18日、イラン革命防衛隊のハグタラブ司令官は「イスラエルの全核施設に関する情報を得ている。イスラエルの核施設が最新兵器の攻撃対象になる」と声明を発した。
「報復の連鎖」がエスカレートすると、相互に核施設を狙うような事態もありえるのだろうか?
田中氏(慶応大学教授)は次のように懸念する。
そうなれば世界経済にも甚大な影響を与える。木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト)氏は、次のように述べる。
2)ハマス、ヒズボラに加えイランも?3正面の戦いを避けたいイスラエル
イスラエルは、現状、さらなる「報復攻撃」に安易には踏み込むことはできないという見方もある。
南部ガザ地区では、イスラム武装組織「ハマス」と戦闘を続けており、さらに北部ではレバノン国境で、イスラム教シーア派組織「ヒズボラ」と戦闘が続いている。イランとの戦闘が加われば3正面の戦いとなる。
イスラエル国家安全保障研究所、ラズ・ジムト氏は「イスラエルで優先されているのはガザでの主目的の達成に向け集中し続けることであり、新たな戦線を開くことではない」と指摘する。
また、対イラン戦で必要となる「長距離攻撃能力」について「イスラエル空軍は数百機の戦闘機を保有する一方、長距離爆撃機は保有していない」「2018年には新たな『ミサイル部隊』を導入すると発表したが、計画の進捗は不明だ」と指摘している。
イスラエルを専門とする錦田愛子(慶應義塾大学教授)氏は以下のように述べる。
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3)イスラエルとイラン、両国の軍事力は?3)イスラエルとイラン、両国の軍事力は?
両国で本格的な戦闘になった場合、戦力の面ではどちらが優位にあるのか?
田中氏(慶應義塾大学教授)は次のように分析する。
イスラエルをバックアップしてきたアメリカのブリンケン国務長官は攻撃後の19日、「アメリカはいかなる攻撃にも関与していない」と話した。一方で、アメリカは攻撃を事前に知っていたとも報じられている。また、14日から15日にかけ、自制を求めるアメリカの要求を受け入れ、イスラエルは2度にわたり攻撃を延期した、との報道もある。
各国が自制を求める状況の中、イスラエルのネタニヤフ首相は各国の提案に感謝する、としながらも「しかし同時に明確にしておきたいのですが、私たちは自分たちで決定します。イスラエル国家は自国を守るために必要なことは何でもします」と話し、この発言の2日後の17日、攻撃をしたとみられている。
4)国内外からの圧力の板挟みとなるネタニヤフ首相
ネタニヤフ首相は、国際社会からは強く対話や自制を求められる一方、国内からは「反撃」「即時反撃」を求められる、国内外で真逆の世論の板挟みとなっている状況だ。
錦田氏(慶應義塾大学)は以下のようにコメントした。
強硬派で知られるベングビール国家安全保障相は「すぐにでも決定的な打撃をイランに対し行使せよ」とSNS上で発言。スモトリッチ財務相も「スローガンではなく行動で」と強い行動を求める発言をした。しかし、強硬な対応が逆にイスラエルを危機にさらす結果につながっているのではないかという批判も、ネタニヤフ首相を含めた閣僚内からも出ており、閣内の対立は深まり混迷を極めている。
両国の対立の行方に、中東、そして世界の注目が集まっている。
木内登英(野村総合研究所エグゼクティブエコノミスト。2012年、内閣の任命により、日銀審議委員に。任期5年で金融政策を担う。専門はグローバル経済分析)
田中浩一郎(慶応義塾大学教授。イラン大使館で専門調査員、国連政務官を経験。イランを中心に中東地域の安全保障など研究)
錦田愛子(慶応義塾大学教授。専門は現在中東政治やパレスチナ研究など。2011〜2012年にヘブライ大学客員研究員)
「BS朝日 日曜スクープ 2024年4月21日放送分より」