1月20日、アメリカではトランプ大統領の就任式が行われました。
日本の場合、総理大臣が代わってもそこまで大きく変わることはありませんが、
アメリカは違います。トランプ大統領は就任前から、関税を引き上げる!など色々なことを言っています。そういった政策は本当に実現可能なのか、その仕組みを解説してまいりましょう。
■大統領の一言で政策実現!?
前回、トランプ大統領1期目の時は「中国に追加で関税を25%かける!」「メキシコとの国境に壁を作る!」などと言っていましたね。そして本当にあっという間に実現させてしまいました。日本の場合こうした新しい政策を行う場合は法案を作ってしっかりと審議して、と時間をかけて行います。でもアメリカの場合は大統領が一声言っただけで実現する、そんなことが起きるんです。
一体なぜでしょうか。そもそも大統領が持っている権限が強いから、というのがまずはあります。でもそれだけではありません。アメリカの大統領は議会を通さずとも1人で決められる、そんな制度があるんです。それが「大統領令」です。
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■ニュースでよく聞く「大統領令」とは■ニュースでよく聞く「大統領令」とは
大統領令とは独断で成立させられる法律のような命令のこと。法律との違いはできるまでの手順だけです。大統領がサインしたら即日で発効します。議会の承認は必要ありません。サインしただけで法律と同じ力を持ってしまいますから、ものすごい力ですよね。でも大統領令はなんにでも出せる、どんな内容でも出せる、というわけではありません。明文化はされていませんが、いくつかの制約があるんです。
例えばトランプ大統領、「カナダもアメリカになれ!」なんてことを言っていますよね。これは大統領令を出しても実現しません。
まず大統領令は「(1)憲法の範囲内」のことしかできません。おれは法律もそうですね。さらに「(2)新しい予算を必要としない」という制約もあります。予算を作るのは議会です。そのため議会を通さず命令するには今ある予算の中でできることに限られるのです。そしてもう一つが「(3)命令できるのは国民ではなく行政機関」。大統領はあくまで行政のトップ。その枠を超えての命令は出すことができないんです。例えばトランプさんは1期目の時に、イスラム教徒が多い7か国からの入国を禁止しました。この時もやってくる人たちに対して「来るな!」とは言えません。入国を管理する役人に対し、「入れるな!」と命令した、ということです。
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■「ダメもと」で出してる大統領令も!?■「ダメもと」で出してる大統領令も!?
こうした制約をみていくと、トランプ大統領の場合、どうも「ダメもと」…ダメでもともと、くらいの気持ちで出しているんじゃないか、という大統領令もあるんです。
例えば就任初日に出したこちら、「不法移民の親を持ち、アメリカで生まれた子供に市民権を自動的に付与する制度を廃止する」というものがそうです。
現在アメリカ国内で生まれた子どもには自動的にアメリカ国籍を与える、そんな仕組みになっています。そのため、子どもさえアメリカで産めばその親である自分や家族もアメリカにいられるのではないか、そう考えて入ってくる不法移民がいっぱいいると言われています。そこでトランプ大統領はこうした不法移民に対して「市民権を付与するのをやめる!」と言っているわけです。ただ、この大統領令はなかなか実現が難しいと言われています。
というのも、「アメリカで生まれた人には市民権を付与する」これはアメリカの憲法に書かれていることなんです。つまりトランプさんの出した大統領令は憲法違反の可能性がある…先ほどの大統領令の制約に抵触してしまいますね。だから最高裁で憲法解釈を変えない限り、なかなか実現は難しいのです。すでにいくつかの州で「この大統領令は違憲だ!撤回しろ!」と裁判を起こされていまして、実際に違憲判決も出ています。
トランプさん、これからもたくさんの大統領令を出すと言われています。それが実現可能かどうかは、こうした制約を基準に考えていくとわかりやすいのかな、と思いますね。
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■お友達ばかり!?トランプ人事■お友達ばかり!?トランプ人事
そしてトランプ大統領は人事でもなかなか好き放題を始めています。お友達や支持者をたくさん起用しているんです。
イーロン・マスクさんは有名ですが、そのほかにもプロレス団体WWEのCEOだった
リンダ・マクマホン氏を教育長官に指名しています。共和党に莫大な献金をしているため選ばれたのでは、と言われています。トランプ氏はプロレスのリングに上がったこともありますから、そのつきあいもあったのでしょう。その他にもトランプさんの長男の婚約者を大使にしたり、トランプよりの報道で知られるFOXニュースの元キャスターを国防長官に指名したりしています。
こういった人たち、もちろん政治経験はありません。トランプさんは経験よりも忠誠心を優先した、と言われています。実はトランプさん、1期目に色々なことをやろうとしたら、側近や官僚に止められたことが度々あったと言われています。でも今回は再選のない2期目です。やりたいことを全部やってやろう、そんな気持ちで自分に抵抗するような人は排除して、自分の言うことを聞いてくれる人だけで政府を作ろうとしている、というわけですね。
こうしてみていくとアメリカの大統領は本当に大きな力を持っています。その力をどのように発揮していくのか、そしてその力にどうブレーキをかけていくのか、これからはそれが問われていくことになります。その辺りにも注目してニュースを見ていっていただければと思います。
(池上彰のニュースそうだったのか!! 1月25日OAより)