ロシアのプーチン大統領は3月18日、トランプ大統領との電話会談で、米国が主導する全面停戦案を拒否した。他国がウクライナへのすべての軍事援助を停止しない限り、応じられないと主張している。『BS朝日 日曜スクープ』は、上記の電話会談前の段階で、ロシアの要求事項は「ウクライナの非武装化」と分析。専門家は、停戦交渉の厳しい前途を指摘するとともに、欧州は「大戦争」をも懸念しつつ対応を急いでいると分析する。
1)ロシアが狙う“ウクライナの非武装化”「米国が認めたら欧州の離反必至」
これまでの停戦交渉の中で、ロシアは、どのような条件を求めているのか。すでにトランプ政権と話し合われているとされる、条件の1つが、ウクライナの“非武装化”だ。ウクライナが求める「安全の保証」を排除する要求に他ならない。
具体的には、「NATO加盟に反対」、「欧州軍の派遣に反対」、「アメリカの関与、武器支援にも反対」とされている。ウクライナの「軍事力」を徹底的に排除しようという意図が透けて見えるプーチン氏の要求を、秋元千明氏(英国王立防衛安全保障研究所・日本特別代表)は、以下のように分析する。
だから、ウクライナの非武装化とか、西側が安全保障を提供しないなどという約束など結べるはずもない。それに歴史的に見て、安全保障の枠組みがない停戦合意は必ず破られる。相手はしばし休憩を取った後、また攻めてくることになるだろう。もし、プーチン氏がウクライナの安全を保証する措置は何もかもダメだと主張するなら、停戦合意は絶対に成立しないだろう。
停戦の条件という名目で、ウクライナの非武装化に言及するロシアの動きについて駒木明義(朝日新聞論説委員)は、以下のように指摘した。
2)「大戦争」を懸念…欧州が検討する「抑止力の提供」 停戦で必要なのは?
ロシアが外国部隊の関与を拒むだけでなく、ウクライナの非武装化まで要求をしていることに対し、欧州各国も強い警戒感を示している。ドイツのショルツ首相は「ウクライナの非武装化はロシアの戦争目的の1つであり、これは成功してはならない」とし、フランスのルコルニュ国防相も「ウクライナ軍のいかなる非武装化も拒否する」としている。
秋元千明氏(英国王立防衛安全保障研究所・日本特別代表)は、「ウクライナはヨーロッパにとって東正面の守りのラインである」と指摘し、ウクライナの非武装化がヨーロッパに与える影響を以下のように分析した。
いまヨーロッパが具体的に検討しているのは、ウクライナへ軍隊を派遣して抑止力を提供することだ。抑止力提供には色々なやり方があるが、国連のブルーヘルメットのような実力を伴わない平和監視部隊では機能しない。軍事介入をするための軍隊ではないが、仮に攻撃を受けた場合には撃退できる実力を備える必要がある。例えば、朝鮮半島に駐留しているアメリカを中心とした国連軍のような多国籍の部隊をウクライナに置き、ウクライナの安全を保証することが必要であり、それがヨーロッパとしては絶対に譲れない線だ。ウクライナの安全保障はヨーロッパの安全保障でもあるからだ。
「西側諸国の軍隊派遣をロシアは認めないのではないか」との質問に、秋元氏は「受け入れないでしょう。ですから交渉している」と指摘した。
駒木明義氏(朝日新聞論説委員)は、停戦には監視部隊の投入が急務と指摘する。
3)米国のロシア担当“特使”は… トランプ人事で元陸軍中将は解任
米国とロシアの交渉でポイントとなっているのが、米国の交渉担当者ウィトコフ特使だ。不動産会社を経営する富豪で、ロシアとの交渉で重要な役割を担っている。米国には、ロシア・ウクライナ担当として、元陸軍中将のケロッグ特使がいたが、トランプ大統領は、ケロッグ氏をロシア担当から外しウクライナ担当に専念させると発表。ケロッグ特使については、ロシア側が「ウクライナ寄りすぎる」と批判していたとされる。
中林美恵子氏(早稲田大学教授)は、トランプ大統領が今後、ウィトコフ特使をロシアとの交渉の中心に据えた、今回の人事を以下のように指摘した。
アメリカでは安全保障に特化した様々なシンクタンクがあるが、プーチン氏の発言について、戦争をロシア側から止めようとか、30日停戦をすぐに受け入れることは、完全拒否したと分析している。おそらくウィトコフ氏はロシア的なものの考え方に深い理解を示すところがあるのではないか。
中林氏は、「日本も米国との同盟関係の中で安全保障が成り立っており、米国の役割がぐらつくのではないかというウクライナ問題の懸念は、私たちにも関係する」と指摘した。
プーチン氏を直接取材した杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)も、プーチン氏の“罠”について以下のように指摘した。
<出演者プロフィール>
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所・日本特別代表。国際安全保障と紛争分析に関する情報を発信。元NHK記者。湾岸戦争、ユーゴ紛争などを取材。著書に「最新 戦略の地政学 専制主義VS民主主義」(ウェッジ)など)
駒木明義(朝日新聞論説委員。モスクワ支局長などを歴任。クリミア併合を取材。著書「ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか」(朝日新書)24年9月発売)
中林美恵子(早稲田大学教授。米上院予算委補佐官として10年勤務。米政界に豊富な人脈 「アメリカの今を知れば、日本と世界が見える」(東京書籍)25年3月発売)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)
(「BS朝日 日曜スクープ」3月16日放送分より)





