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2025年4月3日 16:00

【台湾有事の行方】最前線とされる金門島 “大陸マネー” 影響力高める中国 橋をかける計画も…

2025年4月3日 16:00

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中国軍の「東部戦区」は4月1日から2日間、台湾周辺の海域で軍事演習を行った。台湾の頼清徳総統を厳しく批判し、軍事的圧力を強めている。『BS朝日 日曜スクープ』は今回の演習に先立ち、「台湾有事」のとき最前線になるとされる台湾・金門島を取材。金門島は中国大陸から数キロしか離れておらず、そこでは中国が経済的な影響力を高めていた。福建省厦門(アモイ)と金門島を橋でつなぐ計画も進めている。

1)金門島内各所に戦跡“砲撃の記憶” 「有事」に備えた対策は…

台湾の離島・金門島。台湾本島からおよそ200km、台北から航空機でおよそ1時間。「台湾有事」の際、最前線となる島だ。

中国大陸とは最も近いところでおよそ2km。島の西側の海岸からは、対岸の福建省厦門(アモイ)の高層ビル群が肉眼で確認できる。

台湾

北西の浜辺には、海に向けて突き出した鉄の棒のようなものが…。中国軍の上陸を防ぐための杭が数百mにわたって並んでいる。

浜辺

さらに車道に出ると、軍用車両が走り抜けていった。上に乗る兵士の手には機関銃。島民の生活道路を、日常的に軍用車両が走っている。

軍用車両

金門島は、これまで中国人民解放軍との戦いの舞台になってきた。無数の弾痕の残る洋館。中華人民共和国が誕生した1949年、中国大陸から台湾に撤退した蒋介石率いる国民党軍と中国人民解放軍の戦いの跡だ。 

洋館
取材班
「すごく立派な建物ですが、壁一面に穴が空いています。銃弾の跡のようです。激しい射撃戦が行われた様子がうかがえます」

その9年後にも人民解放軍は再び台湾に侵攻すべく金門島に激しい砲撃を行った。1958年の「金門砲戦」だ。この時、わずか44日間で47万発以上の砲弾が撃ち込まれたとされる。

金門島で長く民宿を営んできたシュエ・チョンアンさん。今でも砲撃された時のことをはっきりと覚えているという。

チョンアンさん
シュエさん
「当時は各家に2〜3発の砲弾が直撃し、すべての家が被害を受けました」「共産党軍の砲撃の精度が悪く、その結果、私たちの村にも砲弾が飛んできました」

激しい砲撃を逃れるために使った防空壕は、今も残っていると、案内してくれた。

シュエさん
「防空壕で2ヶ月も隠れていました」

シュエさんが避難した防空壕は50人以上が避難可能で、中に雨水が溜まっているものの、必要な時には今も使えるそうだ。1949年以降、防空壕は作り続けられ、現在は島内の至るところにあるという。

さらに街の中心、金門島の繁華街にあるバスターミナル。地下に降りると… 

取材班
「バスターミナルの地下に長いトンネルが続いています。これが坑道だそうです」
杭道

曲がりくねり先の見えない細いトンネル。手を伸ばせば届くほど低い天井。敵を待ち伏せ、狙撃するための穴もある。兵士たちが手で掘り進んだという。全長1.3kmに及ぶ、この坑道は、県の庁舎や銀行、給水所など、金門島の重要拠点を地下で結ぶ。

2)海上で圧力強める中国 “大陸マネー”意識する島内

もう40年以上、攻撃を受けていない金門島。しかし今、再び緊張が高まっている。

台湾の周辺海域では、3月17日から18日にかけて、中国の軍用機59機と艦艇9隻が活動したことが確認された。中国人民解放軍の台湾周辺での軍事演習は1月に4回、2月には5回行われ、頻度が増している。

そして緊張は、金門島周辺の海でも…。去年2月、金門島周辺海域に侵入した中国漁船が台湾当局に追跡されて転覆し、2人が死亡した。すると中国海警局は、報復するかのように金門島周辺での取り締まりを強化。金門島の遊覧船を制止し、臨検を行った。

取材班は、中国海警局が臨検した遊覧船と同じ港から出ている遊覧船に乗ってみることに。

遊覧船

遊覧船は2時間かけて、金門島の周囲を回る。乗っているのは、観光客ばかりだ。遊覧コースの中に、安全保障に関わる問題があるようには見えない。

海上で圧力を強める中国を、金門島の人々はどう見ているのか。2022年の県議会選挙で無所属ながらトップ当選を果たした張雲量議員。張議員は、金門島周辺で中国籍の船が台湾側の禁止水域に度々侵入するようになっていると話す。

県議
張雲量議員
「1950年代から海域禁止線が設定され、お互いに暗黙の了解で越えなかったのですが、最近は中国大陸の船がその禁止線をよく越えてきます。今は台湾側の海域を中国が自らの海域だとしています」

強まる圧力を懸念する声がある一方、金門島の人々は、中国大陸との経済的な関係を強めている。観光で栄える金門島。その多くは、対岸の福建省から来る人たちだ。

土産物店の店主
「やはり中国から来る人々が多いです。韓国や日本の人々は台湾本島だけでも遊びきれないので、基本的に金門島には来ません。実際には、やはり中国からの観光客に依存しています」
土産物

こちらの店では、中国人観光客のために、台湾では使えない種類のモバイル決裁を中国人観光客のために準備した。 

土産物店の店主
「中国人観光客はモバイル決済に慣れているので、(QRコードは)彼らのために準備をしたものです」「彼らが使いやすくするため用意しました」

大企業も中国大陸でのビジネス拡大を目標にする。金門島の特産品である金門高粱酒(コーリャン酒)を製造・販売している金門酒造。金門県が所有する公営事業でもあり、金門島の税収を支える。

酒蔵
金門酒造 ウー・クンジャンCEO
「コロナ禍で中国人観光客が来なくなり、わずかな減収はありますが、実際の売り上げは90%以上が台湾本島。新型コロナの影響はわずかで、今は中国からの収入はほぼコロナ禍前の水準です」 

台湾本島で高い人気を誇る金門高粱酒の販路を中国大陸に拡大することを目指すという。去年、中国企業と契約した。

金門酒造 ウー・クンジャンCEO
「金門酒造の力を発揮したいです。厦門(アモイ)地域からスタートして金門高粱酒の美味しさを中国全土に広げることが使命です」

拡大していく中国との経済的な結びつき。金門県議会の張雲量議員は島民の感情をこう表現する。

Q)中国が武力で金門島を取りにくることはないか

張雲量議員
「ありません」

Q)理由は

張雲量議員
「こんなに沢山の交流があるので、基本的には中国とは家族のようなものだと思います。金門島の住民も皆そう思っています」

3)経済的なつながり強化に懸念の声も 福建省から架橋の計画まで

強まる金門島と中国大陸との経済的なつながりを懸念する声があがる。台湾が出資するシンクタンク「国防安全研究院」国防戦略・資源研究所の蘇紫雲所長はそれが中国の戦略だと指摘する。

所長

Q)中国が経済で金門島を取り込む懸念は?

蘇紫雲氏
「そういう戦略は随分前からあります。心理戦と経済戦が融合した戦術で、中国の春秋戦国時代から存在していました。武力で城を攻め落とすよりも、財力で城を買う方が良いのです」

中国が掲げる、武力によらない「平和的統一」。経済的な取り込みは、そのひとつの形なのか。金門島の対岸、厦門(アモイ)では、新たな空港が建設中だ。この空港建設のため、埋め立て地が拡大し、金門島に近づいているとされる。2010年と2020年の衛星地図を比較すると、埋め立て地の拡大が確認できる。

埋め立て

さらに、中国大陸と金門島を橋で繋げようという計画もある。完成すれば、厦門(アモイ)市と金門島は橋でつながり、車でおよそ30分での往来が可能になるという。国民党政権で持ち上がった計画で、現在の政権は反対を表明しているが、厦門(アモイ)市側ですでに工事が始まっている。

金門島の人々はどう思っているのか。

土産店の店主
「あり得ませんね。簡単に通行できてしまうと台湾の安全が脅かされるので、橋はない方が良いです」「中国人が客として来るのは歓迎していますが…」
果物店の店主
「今も毎日往復している人が多く、何かを持ってきて売ることが金門の商売に影響を与えています。もし将来、橋が通行可能になれば、さらに悪化すると思います」

経済的な関係を強める橋が有事のとき、金門島にどのような事態を運んでくるのか、島民は複雑な思いを抱えている。