相次ぐ方針変更で二転三転する“トランプ関税”。中国との報復関税の応酬もあり、世界の金融市場も大荒れに荒れているが、この“トランプ関税”による混乱で、政権内部の勢力図にも変化が生じている。さらに米国との対立姿勢を鮮明にする中国への影響を読み解く。
1)“トランプ関税”が巻き起こす政権内勢力変化
相互関税の一時停止という方針転換。トランプ政権の内部で何が起きているのか。イーロン・マスク氏と関税政策を主導するピーター・ナバロ氏の衝突からその一端が浮かび上がる。発端は4月5日。マスク氏は「最終的には、ヨーロッパとアメリカが関税ゼロの状況に移行することを望んでいる」と発言した。
すると4月7日、大統領上級顧問のナバロ氏がマスク氏について「彼は自動車メーカーではない。自動車組み立て業者だ」と批判。この発言に対しマスク氏は「彼が言っていることは明らかに間違っている」と反論した。
マスク氏と衝突したナバロ氏は、通商担当の上級顧問で、トランプ政権1期目には大統領補佐官を務めている。ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)はトランプ政権の内情を以下のように分析をする。
誤解してはいけないのは、この2人は完全に政権から外れたわけではなく、ナバロ氏は依然として助言をしている。ラトニック氏も商務長官としての仕事を行っている。しかし、混乱を鎮静化するためには、少なくとも一時的にベッセント長官に任せた方がいいというトランプ氏の判断があるのだろう。スーザン・ワイルズ首席補佐官もラトニック氏の言動には不服を持っていて、彼女も後押ししたのだろう。
マスク氏とトランプ氏の関係は依然良好。今回の発言は、関税ディールが終わったら最終的にフェアな自由貿易構想、本来であればゼロゼロの関税構想にもっていきたい、という趣旨だが、そこに、恒久的な関税制度を主張するナバロ氏が反発した。今回の衝突は、マスク氏のトランプ氏批判ではなく、単にマスク氏とナバロ氏2人の間の“つばぜり合い”と見たほうがいい。
ワシントンポストは、相互関税の90日間停止が発表された4月9日、発表前にトランプ大統領、ラトニック商務長官、ベッセント財務長官が大統領執務室で“方針転換”について議論した際、ナバロ氏は参加していなかったと報道。ナバロ氏の見解が支持されなくなっている可能性を示唆した。小谷哲男氏(明海大学教授)は、政権関係者の話も交え、以下のように分析する。
2)中間選挙を不安視…共和党上院議員たちの“反旗” トランプ氏は…
“トランプ関税”に共和党でも反旗を翻す議員が現れている。4人の共和党上院議員は4月2日、民主党が提出した「カナダへの関税差し止め決議案」に賛成。3日には、超党派で提出された「関税発動権限を抑制し議会の承認を義務付ける」法案に共和党上院議員7人が署名した。
さらに4月4日、テッド・クルーズ上院議員が「民主党による下院の奪還につながる恐れがある」とし、中間選挙への懸念を表明。さらに相互関税の一時停止を発表する前夜にはトランプ大統領と共和党議員の1時間の電話会談に加わり、各国との交渉を促したとされる。共和党議員の反対はトランプ大統領の判断にどこまで影響を及ぼしたのか。小谷哲男氏(明海大学教授)は、以下のように指摘する。
共和党内からも“トランプ関税反対”の声があがる現状を、ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は以下のように分析をした。
3)揺らぐ“トランプ関税”の目的 対決姿勢の中国も「米国輸出できないと…」
杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、トランプ氏が掲げる通商政策全体に暗雲が立ち込めていると指摘をする。
米国との対決姿勢を鮮明にしている中国も今後の影響が懸念される。米中の対話が進まず、貿易戦争が過熱した場合、米国は“中国への輸出がほぼゼロ”になる可能性があるが、中国も全土で“数百万人の失業”“企業倒産の波”につながる懸念が指摘される。柯隆氏(東京財団政策研究所主席研究員)は、中国経済への影響を以下のように述べた。
<出演者プロフィール>
柯 隆(かりゅう)(東京財団政策研究所(けんきゅうしょ)主席研究員。専門は中国のマクロ経済。近著に「中国不動産バブル」(文春新書)など関連は多数)
ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)
小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命(ちくま書房)など」)
(「BS朝日 日曜スクープ」2025年4月13日放送分より)