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2025年6月19日 12:00

【トランプ政権どうする】イスラエルとイランが交戦状態 米軍参戦するのか?トランプ大統領に“進言”するのは…

2025年6月19日 12:00

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イスラエルとイランが連日、激しく攻撃の応酬を繰り返しており、事実上の交戦状態に突入した。イスラエルの先制攻撃をトランプ政権は承諾していなかったとされるが、ここに来て、米軍の参戦が取りざたされる。

イスラエルの攻撃開始から2日後に放送した『BS朝日 日曜スクープ』の特集でも、米軍の参戦が焦点になると指摘。停戦に導くのか、イランの核開発阻止を優先するのか、トランプ政権の今後を分析した。米軍参戦となると戦火の拡大は避けられない。予断を許さない状況が続く。

1)今回の軍事衝突の危険性…米軍参戦の場合、イランの体制転覆も

6月13日未明、イスラエルがイランを空爆。核関連施設など100か所以上を攻撃し、革命防衛隊の司令官、核科学者9人が死亡した。翌14日にも2日連続で攻撃をしかけ、150以上の標的を爆撃。イラン当局は住宅団地の攻撃で29人のこどもを含む60人が死亡したと発表した。一方のイランも、攻撃を受けた13日のうちにイスラエルに対し弾道ミサイル100発以上を発射し応戦。その後もミサイル攻撃を続け、15日の時点でイスラエル側の死者は13人となった。

共同通信社でテヘラン支局長も務めた杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信特別編集委員)は、戦闘が相次ぐ中東でも今回の衝突はこれまでとは一線を画する規模と指摘をする。

今回はスケールが全然違う。中東における最強の軍事大国であるイスラエルとイラン、2つの軍事大国が正面から戦い始めた。イスラエルは核兵器を90発ぐらい保有しているとされる。一方、イランは、ロシアにも供与している弾道ミサイルおよびドローンを保有する。1979年のイスラム革命以来「イスラエルを抹消する。イスラエルを破壊して、地図から消す」とイランの指導者たちは公言してきた。この2つの国が本格的な戦いに突入しつつあることは大きな意味をもつ。もう既にイランの石油施設や天然ガス施設が攻撃されており、油価や天然ガスの価格にも影響を与え、世界中が大きな影響を受ける。さらに、この先アメリカがイスラエルに参戦しウラン濃縮施設を攻撃すれば、放射能漏れ・拡散、さらにはイランの体制転覆の可能性も出てくる。世界的に意味がある戦争になっていく恐れがある。

2)米軍の参戦は?イスラエルの要請とトランプ大統領の決断

イスラエルがイランを攻撃した6月13日、トランプ大統領は「イランは全てを失う前に取引しないといけない。攻撃は非常に成功した。イスラエルを支持している」と発言。イスラエル支持を表明したものの、それまでイスラエルのネタニヤフ首相にはイランへの攻撃を控えるよう働きかけていたとされる。

トランプ大統領

アメリカとイランは、6月15日に6回目の核協議を予定していた。トランプ大統領もSNSで「イラン核問題の外交解決に取り組み続ける!」と発信し、イランとの協議に意欲を見せていた。13日には、イスラエルの攻撃がイランとの協議を難しくするかとの問いに「そうは思わない。むしろその逆だろう。今後は真剣に交渉するかもしれない」と述べたものの、15日の核協議は中止となった。

SNS

小谷哲男氏(明海大学教授)は、トランプ大統領は今後、米軍が参戦するか、判断を迫られると分析する。

交渉が続いていることもあるが、イスラエルが攻撃した場合、油価が上がりインフレが進むのは今のアメリカの経済にとってもマイナス。この衝突は止めたかったというのが本音だと思うが、実際には止めることはできなかった。ただ、イスラエルの攻撃後、その戦果が“思っていたよりも大きい、イランに対する圧力に使える”と考え、イランが真剣に核交渉に臨むのではという甘い期待を持ったようだ。しかし、イランは15日の協議を拒否し、トランプ氏の望む通りには事が運ばなかった。イランが交渉を拒否する以上、アメリカとしては今後イスラエルと一緒になってイランへの攻撃を続けるかどうかの判断がトランプ大統領に求められる。

さらに三牧聖子氏(同志社大学大学院教授)は、支持層の分断がトランプ氏の判断を難しくしていると指摘する。

ネタニヤフ首相には明らかにアメリカを巻き込みたいという思惑がある。一方で、トランプ大統領の支持層、とりわけ“MAGA”と呼ばれるコアな支持層からは、「アメリカファーストで行くべきだ」と、反対論がかなり出ており、支持層が分断されている。伝統的に共和党は親イスラエル。イスラエルが必要と判断した軍事行動であれば支援すべきで、場合によってはアメリカも参戦すべきだという意見がある一方、タッカー・カールソン氏や元側近のバノン氏らコアな“MAGA”支持層の人たちのように、「今回は巻き込まれてはいけない。アメリカファーストで行くべきだ」という声もある。トランプ氏は“平和の大統領”“バイデン氏にもハリス氏にも止められなかった戦争を止める”ということで支持された面もある。

米政権への影響について杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信特別編集委員)は、イスラエルが米軍の参戦を求める“事情”を以下のように指摘する。

イスラエルの最初の攻撃後、ルビオ国務長官は「これはイスラエルの単独行動であって我々には関係がない」と発言したが、1日経ってトランプ氏は「素晴らしい攻撃だ」とイスラエル側に肩入れする発言を行った。トランプ政権のスタンスがはっきりしないことが一番の問題だ。
今になってイスラエル側はアメリカに加わってほしい、支援してほしいとアプローチをしている。なぜかと言うと、イラン側は(13日の攻撃で)トップから順に6人ほどの司令官が殺害され、確かに打撃を受けてはいるが、イスラエル側としては本来の目的である核施設をどれだけ破壊できたかが把握できていない。13日に駐日イスラエル大使と話す機会があったが、その点については2週間ほど経たないとわからないということだった。
私が知る範囲では、イランの特に重要な核濃縮施設は、地表から80mから100m下に作っている。ここに関しては今回の攻撃の前から、アメリカが持っているバンカーバスター、いわゆる地下貫通弾でないと攻撃できないと言われていた。攻撃後、上空からの写真を分析している専門家によると、本当に破壊できているかわからないと言う。イスラエルとしては本来の攻撃目標をまだ達成できていない可能性があり、攻撃の継続にはアメリカが持っている特殊な兵器が必要だ。より強い依頼をアメリカにしていくだろう。
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3)「国際情勢の空白」停戦の道を描くのは… トランプ氏娘婿の“進言”とは?

ウクライナでの戦争、そしてイスラエルとイランの軍事衝突と、トランプ大統領は国際政治の舞台でも難しい舵取りを迫られる局面が続く。杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信特別編集委員)は、米国の関与が不十分な状況での「国際情勢の空白」を危惧する。

やはりアメリカがきちんとコミットして和平、停戦の道を描いていくしかない。今やロシアのプーチン大統領がトランプ大統領との電話会談で、ロシアが仲介役を担う用意があると表明した。しかし、イスラエルはロシアを信用していないので、上手くいかないだろう。また、イランは革命以来の精神を重視しており、イスラエルやアメリカに対して屈したという姿は絶対に見せたくない。となると誰がこの戦争的な状態を止められるのか。トランプ氏が軍事パレードや移民の問題に専念している中で国際情勢に空白ができている。非常に良くない状況だ。

イスラエル

カナダでは16日にG7サミットが開幕したが、トランプ大統領は中東情勢の緊迫化を理由に2日目の日程には参加せず帰国の途についた。今後のアメリカの対応について、小谷哲男氏(明海大学教授)は、トランプ氏の娘婿の存在を指摘し、米軍参戦の可能性を分析した。

政権内の考えが一致していないところがまだあるが、政権入りはしていない娘婿のクシュナー氏が、相当強くトランプ氏に対してイスラエルと一緒になってイランの核施設を叩くべきだと進言しているようだ。それをどこまで受け入れて、今の状況を踏まえて行動するのか。あるいは引き続き交渉を目指していくのか。このあたりは中東だけではなく世界全体に大きな影響を与えるので見極める必要がある。

<出演者プロフィール>

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)

三牧聖子(同社大学大学院教授。米国政治外交と国際関係などの調査研究に従事。2025年1月に上梓した共著「アメリカの未解決問題」(集英社新書)など関連は多数)

杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でテヘラン支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「国際報道を問い直す-ウクライナ紛争とメディアの使命」(ちくま書房)など)

(BS朝日「日曜スクープ」2025年6月15日放送より)

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