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2025年7月10日 12:00

【トランプ関税】“日本に25%”巻き返すには? 強硬姿勢に至った“内情”探ると

2025年7月10日 12:00

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「トランプ関税」が重要な局面を迎えている。トランプ大統領は7月7日、日本からのすべての輸入品に25%の関税を課すと表明。8月1日から発動と通知し、自動車にも25%の関税を継続するとした。日本を含めた各国に譲歩を求める、ギリギリの交渉が続く。『BS朝日 日曜スクープ』はこの状況に先立ち、トランプ大統領が日本批判を繰り広げた段階で特集を展開。米政権の内情を探った。今後の交渉で巻き返すための方策は?

1.“日本に強硬姿勢”内情(1) トランプ氏に伝わらない“情報”

トランプ氏は、「相互関税」について1日、「日本には 30%から35%、私たちが決めた関税を支払ってもらう」と発言。さらに「親愛なる日本様、自動車には25%の関税を支払ってもらいます」とも述べていた。

ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、日米関税交渉の問題点として、米政権内で閣僚からトランプ氏に、日本側からの情報が入っていないと指摘する。

以前も申し上げたが、この日米関税交渉の本質は、米米交渉と日日交渉。問題は米米交渉、ベッセント財務長官とラトニック商務長官が上手くトランプ氏に伝えられていない、もしくは忖度して言えていない。トランプ氏は今回、イラン攻撃やカナダやベトナムとの関税交渉、さらに減税法案の成立で自信をつけ、強気に、よりタカ派的姿勢を見せている。私がトランプ氏の口調を聞く限り、日本だけに怒って、矢面にしているようには感じない。EUも他の国も一緒に話している。問題は、アメリカ側の閣僚が上手くトランプ氏につなげない、説得できていない。やはり首脳間で話し合い一定程度持っていかないと、このままでは動かない。あるいは、トランプ氏の思い込みによる一方的な通達になる。 
ただ、石破総理が直接電話するにしても、相当の信頼関係がなければ、かえってトランプ氏の機嫌を損ねたり怒らせて、ゼレンスキー氏の二の舞になるリスクがある。
トランプ氏も面と向かって喧嘩をしたいわけでないので、直接話をすれば受け入れることもあるが、腹を割って話し合えるような環境、信頼関係ができているのかという点がポイントだ。

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、1次政権での安倍総理(当時)の対応を挙げ、以下のように述べた。

故安倍総理は、発表していない部分でも頻繁に電話をして、ブリーフィングなどもしながら、トランプ氏が納得しやすい環境を作っていた。逆にアメリカの国務省サイドの事務方が「こういうふうにトランプ氏へ話を入れて欲しい」と上げてきたケースもあると当時取材で聞いた。トランプ氏は、自分に向かって対話をしようと歩み寄る首脳とはきちんと話すというのが取材を重ねる中で感じたことだ。当時、駐米大使を務めていた杉山晋輔氏も、「トランプ氏を怖がってはいけない」と話していた。懐に入るというか、トップ同士で話すことのできる環境を作らない限り、「国益を守る」と言っても術がない。

小谷哲男氏(明海大学教授)も、現状に危機感を抱く。

トランプ大統領の一連の発言は4月からアップデートされていない。自動車の問題もコメの問題も、何ら動いていないわけではないので、アメリカの閣僚から上がっていないのであれば、日本の総理から話さないといけない状況だ。
トランプ氏は常にディールメイキングをしているので、出てくる言葉は基本的には本気だと思う。ただ、自分の望むものが出てくれば撤回するということでもある。やはり、日本側から働きかけをする必要がある。

2.“日本に強硬姿勢”内情(2) トランプ氏が最初に言ったのは…

厳しい姿勢を見せるトランプ氏。その背景にはコメ・自動車に関する不満があるとされるが、トランプ氏の認識の誤りも指摘されている。

小西さん

小谷哲男氏(明海大学教授)は、「トランプ氏が事実に基づかない発言をするのはいつものことで、そこに振り回される必要はない」としつつ、トランプ氏が日本の内政にも関心を持っていることは重要なポイントだと指摘した。

トランプ氏は通常、他国の内政に関心を示さないが、日本が今コメ不足であることを認識し、言及している。これは、「日本はコメ不足なのに、これまでよりも輸出を増やそうとしていない」ことに不満が移っているということだ。自動車に関しても、以前から「アメリカは日本車を買っているのに、日本はアメリカ車を買っていない」と不満を唱えているが、ここも実際には交渉を重ね、増やす努力はしている。今は違うと思うが、5月の交渉時、日本側は頑なに自動車を25%の関税から外すことを求めていた。その姿勢にアメリカは不満を持っていて、それを引きずっているように思う。日本側は参院選を控え、譲歩できないことも理解し始めてはいるが、首脳間の直接的なコミュニケーションがない中、「日本の国内事情は自分には関係ない」というスタンスだ。
もう一つ、アメリカ側が不満を持っているのは、日本側が安全保障の問題も含めた議論をしようとしない点だ。赤沢大臣の訪米1回目、トランプ氏が直接会って最初に話したのは安全保障についてだった。しかし、日本側が「これは関税とは別の問題」というスタンスをとり続けていることに不満を持っているという政権関係者もいる。交渉の本丸は自動車だが、米軍の負担軽減に前向きな姿勢を示していないことにも不満がある。
批判

ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、「3か月という短い期間に関税交渉と安全保障の問題をひっくるめて交渉するのは難しいだろう」と分析しつつ、「長期的に見れば、最終的には防衛、安全保障が大きな問題になる。米政権内にも、関税交渉に安全保障を絡めようとする一部勢力は間違いなくいるが、まずは関税交渉。関税交渉を終わらせて、その先にあるのが安全保障の問題だ」と指摘した。

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3.日米関税交渉“転換点”どこに…今後の焦点は?

日本と米国は、これまで7回にわたり関税協議を行ってきた。5月8日、英国が米国と合意。米メディアによると、このときトランプ政権幹部は続いて日本とも合意をし、各国との合意を加速させていくことを期待した。ところが5月下旬に、ラトニック商務長官とグリア通商代表が日本に対して、早期合意に至らなければ、関税率上乗せの懲罰的な措置へと変わる可能性を警告。さらに、日本がアメリカに輸出する自動車に「輸出台数制限」を求める可能性に言及したとされる。

交渉

ジョセフ・クラフト氏(経済・政治アナリスト)は、この5月下旬から交渉が本格化したと指摘する。

関係者からの話では、3回目の交渉までアメリカ側はほとんど要望や条件を出してこなかった。日本としては、カードは持っているものの、アメリカ側が何も言ってこないので、カードの切りようがなかった。そこにラトニック氏、グリア氏が、日本側から見ると、揺さぶりをかけてきた。ベッセント長官はどちらかと言うと日本に理解を示しており、日本側としてはベッセント長官を軸に交渉をしていく必要があると。5月末、G7を前にして、そろそろ腹を割ってやりましょうというのが日本の姿勢で、必ずしも日本が交渉から逃げているということではない。5月末からようやく交渉が本格化し、進み始めたと理解している。

小谷哲男氏(明海大学教授)は7回にわたる日米協議について、「会えば会うほど、アメリカの閣僚の言うことがばらばらで日本側は困惑をしている」と指摘。

ベッセント長官は非常に日本に対する理解も深く安心して話ができるが、ラトニック長官は、かなり強硬な姿勢を示すとのこと。実は、ベッセント長官のお気に入りの寿司屋がワシントンにあり、そこで7回目の交渉の際に赤沢大臣と会わせる手はずだったが、シェフが台湾に旅行していて会合が流れた。ここでかなり詰めた話をしたかったとされており、今月中にもその会合が開かれる可能性もある。
末延さん

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は関税交渉における日本側の腰の引けた姿勢を指摘し、今後の国内への影響についても警鐘を鳴らした。

安倍政権と比べて、現政権は交渉において迫力不足で足元を見られていると感じる。トランプ氏とパイプのある人物や1次政権時時代を知る人物もいない。“国益”重視であれば、政府と党の中にタスクチームができて、オールジャパンで交渉を進めていくはずだが、そういう雰囲気ができていない。日本は自動車産業を中心に国内対策をどう打つのかということを戦略的・戦術的にやっていかないと、景気への影響が出てくるのではないかと懸念している。

<出演者プロフィール>

ジョセフ・クラフト(東京国際大学副学長。投資銀行などで要職を歴任。米政治経済の情勢に精通。米国籍で日本生まれ)

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題に精通)

(BS朝日「日曜スクープ」2025年7月6日放送より)

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