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2025年7月24日 11:00

トランプ大統領がロシアに圧力強化 メラニア夫人が契機か ウクライナ“交渉カード”

2025年7月24日 11:00

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トランプ大統領がこれまでのロシア寄りの姿勢を一転し、ウクライナへの兵器供与を再開。さらにロシアに対し、50日以内に停戦交渉に至らなければ「厳しい関税を課す」と通告している。トランプ氏はプーチン大統領を見限ったのか。そして、ウクライナが戦いの主導権を取り戻す転機となるのか。

1)対ロシア圧力強化へ動き出したトランプ大統領

トランプ大統領はなぜこのタイミングで、対ロシア圧力路線に切り替えたのか。その背景には、2期目就任後、プーチン大統領と6回の電話会談を重ねながら、会談後に必ずと言っていいほどロシア側がウクライナに激しい攻撃を仕掛けてきた事実がある。特に6月以降は大規模な攻撃が増えている。

トランプ大統領がプーチン大統領を信用できないと考えたきっかけのひとつに、メラニア夫人とのやり取りがあったとされる。トランプ氏によると、プーチン大統領との電話会談後「素晴らしい会話ができた」と話すと、メラニア夫人は「そうなの? 町が空爆されているけど」と指摘したという。さらに、プーチン氏との別の電話会談後、「これで決着がついたと思う」と話すと、メラニア夫人は「あら、おかしいわね。今さっき介護施設が爆撃されたわ」と話していた。

メラニア夫人

小谷哲男氏(明海大学教授)は、圧力路線への転換を以下のように指摘する。

トランプ大統領がプーチン大統領を信用していたことはないと思う。むしろ、自分とプーチン氏の個人的な関係があれば停戦が実現できると考えていた。しかし、そうでないことがようやくわかった流れだ。政権も議会もロシアに対して少なくとも当面、強硬路線をとっていくのは間違いない。 
メラニア夫人については、トランプ氏が1期目に不法移民の親と子を引き離す政策をとった後、夫人の「それは駄目だ」との一言で撤回したことがある。ただ、今回は2人だけの会話で側近も誰も確認していない。ロシアによる実際の攻撃も電話会談から数日後で、会談当日というわけではない。トランプ大統領としては、自分が騙されてきたことをメラニア夫人から言われて気づいたとアピールしようとしている可能性がある。いずれにせよ、これまで電話会談などの直後に大規模な攻撃が行われてきたと認識していることを、最も主張したいのだと思う。

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、プーチン氏の対応よってはトランプ氏がまた方針を変える可能性があるという。

トランプ氏がプーチン氏を完全に見限ったかどうかはまだ定かではない。プーチン氏との関係で自信を回復するような事態、例えば、例えばプーチン氏が「やはりトランプ氏が大事だ」ということを言ってくれば、また態度が変わる可能性は残っていると思う。
ただ、アメリカ側は明らかにこれまで想定していた通りには行かないと自覚した。プーチン氏を説得して停戦合意に持ち込むことを前提とせず、むしろウクライナを支援してプーチン氏に圧力をかけることが重要だという発想になってくるのではないか。
地図

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は「安倍総理(当時)が猛獣使いのようにトランプ氏や習近平氏と付き合ってきた」と指摘しつつ、合わせて「諜報機関出身のプーチン氏をどう御すのか難しい」とコメントした。

2)トランプ政権は長距離兵器の供与まで検討するも断念

トランプ大統領は7月4日、ゼレンスキー大統領と電話会談した際、「モスクワを攻撃できるか、サンクトペテルブルクも攻撃できるか」と問うたところ、ゼレンスキー大統領は「兵器を供与してもらえれば可能だ」と回答。トランプ大統領は「ロシア側に痛みを与えるものだ」と攻撃を支持する姿勢を見せたとされる。

ウクライナ

このやり取りで、トランプ大統領は3種類の新たな長距離兵器の供与を検討したと報じられているが、その後「そのようなことは考えていない。ゼレンスキー大統領はモスクワを標的とすべきではない」と長距離兵器の供与を否定した。

ウクライナ

小谷哲男氏(明海大学教授)は、4日の電話会談の時点では長距離の攻撃兵器の供与はトランプ氏の念頭にあったものの、国内事情で断念したと指摘する。

ロシア側に痛みを与えることで、プーチン大統領に圧力をかけて停戦に持っていきたいと考えていたが、MAGAの支持層が、長距離攻撃能力の武器供与に強く反発していることもあり、今はもう完全にこの話は止まってしまった。“エプスタインファイル”の陰謀論をめぐってトランプ大統領とMAGA支持層の間に今、亀裂が走っている。トランプ大統領としては、この長距離攻撃兵器の件でさらに亀裂を深めたくないというのが本音だ。
もともと、長距離兵器の供与は、ウクライナの停戦の絵を書いていたケロッグ特使の考えだ。バイデン政権が、あまりにも攻撃能力の供与に慎重すぎたため、ウクライナは反転攻勢も失敗した。トランプ政権としては長距離の攻撃能力を供与することで、ウクライナをより有利な立場に立たせ、ロシアと交渉ができるようにする、という考えが政権発足以来あり、それがようやく動き始めるのかなと思ったところ、MAGA支持層に反発を受けたという流れだ。
地図

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)も「MAGAの支持層が反対している大きな理由はアメリカが戦争に巻き込まれることを恐れているから。アメリカ側が供与した兵器が直接ロシア領、特にモスクワやサンクトペテルブルク攻撃したとなれば、ロシアは直接アメリカに対する攻撃ないしはテロをやりかねない」として、「今のトランプ支持層を考えると、政権が長距離併記供与を積極的に行うということは今後も考えにくい」と指摘した。

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3)ウクライナはドローン技術の「共有」も新たな交渉カードに

ゼレンスキー大統領はトランプ大統領に対し「アメリカ製兵器を購入する代わりに、テスト済みのドローンの販売やロシアとの戦いで得たドローン技術を共有する」と提示したとされる。さらなる支援を引き出すことはできるのか。

新たなカード

鈴木一人氏(東京大学公共政策大学院教授)は、戦場で磨かれてきた“ドローン戦術”をアメリカは欲していると分析する。

何度か出席した国際会議の席で、ウクライナの代表がドローンの使い方の解説をするのを耳にしたが、彼らが言うには3週間ごとに戦術が変わっていくと。ウクライナが何か仕掛ければロシアもその対抗措置を考えるので、さらにそれを乗り越えるための別の戦術を考える。非常に速いペースでウクライナはドローンを使った新しい戦い方をドンドン生み出していると。これは実際に戦っているからこそできることだ。ドローンが今どのような戦術で、どうやって使われていて、どのような効果を見出すのか。ウクライナの持つ情報を、アメリカは喉から手が出るほど欲しいはずだ。
鈴木さん

小谷哲男氏(明海大学教授)は、トランプ大統領に向き合うには“交渉カード”を持っていると思わせることが重要と指摘した。

2月末にホワイトハウスでトランプ大統領とゼレンスキー大統領が口論になって鉱物資源協定の署名が流れた時、トランプ大統領はゼレンスキー大統領に対して「あなたにはカードがない」と言った。しかし、ゼレンスキー氏はレアアースに加え、ドローンの技術・データなどを“カード”として使えるようになっている。もはやトランプ氏もゼレンスキー氏を“カードを持たない人物”であるとみなすことはできない。
トランプ氏はどれだけ“カード”を持っているかを重視する傾向にある。日本も含め、アメリカと上手く付き合っていくには“カードを持っている”と思わせることが大切だという教訓もここから引き出すことができる。

番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、ドローンという最新技術が戦場で発達したことに警鐘を鳴らした。

ウクライナの戦争では、比較的安く簡単に作ることが可能で、遠隔操作もできるドローンが登場し、世界中を驚かせた。そして、戦争の形を劇的に変えてしまった。3年半にわたる実戦により得られた、ドローンの戦術データは非常に大きな意味を持つ。アメリカは、これを手にすれば今後色々な場面で転用可能だ。ドローンが登場したとき、日本でも「これは人類が豊かになるための道具だ」とされていたが、戦場で使用し発展させてしまったことは残念でもある。

<出演者プロフィール>

鈴木一人(東京大学大学院教授。専門は国際政治経済学。AIをめぐる国際競争に精通。近著「資源と経済の世界地図」(PHP研究所)など多数

小谷哲男(明海大学教授。米国の外交関係・安全保障政策の情勢に精通。「日本国際問題研究所」の主任研究員を兼務。)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題に精通)

(「BS朝日 日曜スクープ」2025年7月20日放送より)

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