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2025年7月31日 17:00

「テントで飢えるか配給所で撃たれるか」 ガザから語る飢餓「全員の命ゆっくり奪われる」

2025年7月31日 17:00

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「状況は毎分ごとに悪化している」

こう語るのは日本の支援団体「パレスチナ子どものキャンペーン」の現地スタッフで、パレスチナ人男性のハリールさん。イスラエル軍による攻撃が始まった2023年10月以降、わずかに手に入る食料を市民に配りながら、団体を通してガザの惨状を訴え続けてきた。

「状況は日々悪化している」

初めてANNの取材に応じた去年2月、ハリールさんはこう語っていた。「日々」悪化していた状況は、今や「毎分ごと」にエスカレートしている。ガザでは何が起きているのか。今週、約1時間のオンラインインタビューでハリールさんが繰り返し訴えたのは、彼自身のことではなく、ガザに暮らす200万人の現実だった。
(テレビ朝日報道局外報部 中崎佑香)

「食料不足というより、食べ物がない」  死者は6万人超に

29日、ガザ保健当局が発表した一連の衝突による死者の数は6万人を超えた。そのうち飢餓で死亡した人は、少なくとも154人(30日時点)に上る。その大半が子どもだ。

「人々はみんな、本当に飢えている。食料不足というより、食べ物が何もない」

ハリールさんは、ガザはこれまでで最もひどい状況にあり、子どもにミルクをあげることすらできない日々が続いているという。また、水を手に入れるためには、時に40℃を超える暑さの中、4〜5km歩く必要があると語る。

日本の支援団体「パレスチナ子どものキャンペーン」の現地スタッフ ハリールさん
日本の支援団体「パレスチナ子どものキャンペーン」の現地スタッフ ハリールさん
「通りを歩いてみると、みんなが病気で、みんながひどくやせ細り、みんながひどく疲れた目をしている。1人や2人ではなく、200 万人全員の命がゆっくりと奪われている」

ハリールさん自身も、戦闘が始まってから約40kg体重が落ちたという。歌ったり、踊ったり、スポーツをしたりすることが好きで明るい性格だったが、今は何もできず、笑顔も消えてしまった。

戦闘開始前のハリールさん
戦闘開始前のハリールさん(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)

選択肢は“飢え死ぬか撃たれるか“

従来、配給は国連機関など約400カ所で行われていた。イスラエルが3月に検問所を封鎖し、ガザへの物資搬入を止めると、アメリカとイスラエルが主導する「ガザ人道財団(GHF)」は5月末からガザ南部など4カ所で食料の配給を開始した。

イスラエル側は、イスラム組織「ハマス」による物資の略奪を防ぐためと主張しているが、配給所周辺では、イスラエル軍が住民に発砲するケースが相次いでいて、これまでに1000人以上が死亡している。

「住民はテントの中に座って何も食べられずに飢え死ぬか、配給所で食料を調達するか選択しなければならない。ただ、配給所に行く場合も死ぬ可能性が高い」
ガザ人道財団による「女性限定の日」の案内(ガザ人道財団のSNSより)
ガザ人道財団による「女性限定の日」の案内(ガザ人道財団のSNSより)

「ガザ人道財団(GHF)」の配給所にいる兵士は全員銃を持っており、人々を射殺し始めるという。力でかなわず配給を得られない女性らのため、24日には、「女性限定の日」が設けられたが、物資を求め集まった女性も撃たれて犠牲になった。

子どもか大人かに関わらず、撃たれ、蹴られ、暴言を浴びせられ「動物のように扱われる」状況に、ハリールさんは、従来の国連機関などによる支援に戻すよう訴えた。

イスラエル軍が物資投下アピールも「物資に当たって死ぬ」

飢餓が深刻化し国際社会の批判が高まる中、イスラエル軍は27日、人道物資の空中投下を実施したと発表した。ただ、ハリールさんは空中投下は「役立たない」と話す。

その理由の一つとして、ガザの住民が密集していることをあげた。イスラエル軍による度重なる攻撃で繰り返し退避を強いられ、ガザ全土に住んでいた住民200万人は、今ではガザの面積の16%の地域に集中している。過密な居住地に物資を落とせば、物資に当たって死ぬ人が出る。一方、居住地域から離れた場所に物資を落とせば、取りに行った際に、イスラエル軍に撃たれる可能性が高いというのだ。

パレスチナ・ガザ市 がれきの横で暮らす人々
パレスチナ・ガザ市 がれきの横で暮らす人々(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)
パレスチナ・ガザ市 がれきの横で暮らす人々(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)

もう一つの理由は、投下される物資の量にある。ガザ地区では、1日に少なくともトラック500台分の支援物資が必要とされる一方、投下される物資は2〜3台分にすぎない。

イスラエル軍はまた、一部地域での戦闘を停止し、これまで制限していた物資の搬入を緩和するなどの措置も講じたとするが、入ってきたトラックの数は1日あたり100〜200台ほどにとどまり、状況の改善には至っていない。

「物資の空中投下で解決したと思うのは間違いだ。我々の命は今も奪われている」

ハリールさんは、この状況を変える唯一の方法はイスラエルが封鎖している検問所を開けることだと強調した。

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子どもたちの“願い“は「腕を返して」

ハリールさんとのビデオ越しのインタビュー中にも、攻撃の音が聞こえる。

送ってもらった映像には、テントとも呼べないプラスチックのシートを吊(つ)るしただけの空間に身を寄せる人々が映っている。そのすぐ横にあるがれきの山が、「生き延びることは運でしかない」というガザの人々の言葉を物語っていた。

「戦闘が終わっても、日常は戻ってこない」
ガザの子どもたち(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)
ガザの子どもたち(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)

子どもたちの心理支援も行うハリールさんは、子どもたちの心の変化も目の当たりにしていた。

「子どもたちに願いを聞いた時、普通の子なら『おもちゃがほしい』『泳ぎたい』『勉強したい』などと言うだろう。ガザの子どもに聞いたら『死んでしまったお父さん・お母さんを返してほしい』『(損傷した)腕を返してほしい』『食べ物がほしい』『シャワーを浴びたい』と言ってきた」

自身も3人の子どもを持つハリールさん。いつも考えるのは自身のことではなく、周りの人々のことだ。

「自分の気持ちはもう分からない。ここにいる人々を支援することばかり考えている」

ハリールさんはインタビューの後も、配給支援に向かった。

配給支援の様子
配給支援の様子(「パレスチナ子どものキャンペーン」提供)

“同情“より”行動“を「1カ月後ではなく、今」

ガザで何が起きているのか。ハリールさんはインタビューを通して、あらゆる言葉で、思いを込めて、語ってくれた。その言葉を聞くと、その目を見ると「起きていることを正しく理解したい」と思った。

やせ細った子どもを抱く母親(写真:AP/アフロ)
やせ細った子どもを抱く母親(写真:AP/アフロ)

日々、私の元に届く映像には、食料を求め泣き叫ぶ子どもや、ベッドに横たわるやせ細ってしまった子どもの姿が映っている。

アメリカのトランプ大統領は28日、テレビに映ったガザの映像に触れ、そこにあるのは「本当の飢餓だ」と述べ、「飢餓はない」と強弁するイスラエルのネタニヤフ首相の主張に疑問を呈した。誰もが食料を確保できるという「食料センター」を設置する意向も示している。

戦闘が始まってまもなく1年10カ月。悪化の一途をたどってきた状況を変えることは簡単ではない。ただ、現実から目を背けることなく、理解し、向き合い続けなければならない。そう教えてくれたハリールさんの言葉を、ガザの人々の声を、私は届け続けたいと思う。

「外の世界の人たちは私たちを可哀想に思っているが、それはどうでもいい。それは何も変えないから。状況を変えなければならない。1カ月後ではなく、今。1週間後に生き残れる保証はどこにもない」
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