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2025年8月21日 02:59

一掃は困難?“権力者”も関与か…カンボジア特殊詐欺の実態 “かけ子”日本人逮捕

2025年8月21日 02:59

一掃は困難?“権力者”も関与か…カンボジア特殊詐欺の実態 “かけ子”日本人逮捕
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カンボジアで特殊詐欺に加担したとして、20日、日本人29人が日本に移送され、逮捕されました。

全員、警察官を名乗ってウソの電話をかけ、現金を騙し取ろうとした実行役の“かけ子”です。

カンボジア北西部、タイとの国境に広がる街・ポイペト。
カジノの街として知られる一方、いまや特殊詐欺の温床と化しています。

日本人男性(21)の保護

摘発のきっかけとなったのは、拠点で詐欺を強いられていた21歳の日本人男性を保護でした。

園区

男性が働かされていたのが、園区(パーク)と呼ばれています。高い塀と有刺鉄線に囲まれ、警備員が目を光らせる3つの門を超えなければ、敷地には入れません。

29人の日本人

男性の証言をもとに、カンボジア警察が捜索に入り、29人の日本人が発見されています。

特殊詐欺拠点「園区」

園区(パ―ク)は、国内に少なくとも53カ所あるとみられています。

拠点でかけ子

実際にカンボジアの拠点で“かけ子”として、働いていた日本人男性(30代)に話を聞きました。

カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
「電話をまずかけるんですね。自動音声の電話をとらせて、次は、警察役がやります。かけ子はかけ子で1チーム。『下手な鉄砲も、数撃ちゃ当たる』的な戦法」

厳しいノルマを課せられ、達成できなければ、暴力が待っていました。

カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
「チャイニーズマフィアの中に『先生』と呼ばれる人がいるですよ。その先生から、通訳を通じて指示されます」
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カンボジア国内で圧倒的な影響力を誇る中国系マフィア。日本人は、あくまで使われる側にすぎません。

一帯一路

背景にあるのが、中国の巨大経済圏構想『一帯一路』。巨額の投資によってカジノが乱立し、その隙間に組織犯罪が入り込みました。

カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
カンボジア詐欺拠点の元“かけ子”
「カンボジアは、賄賂が横行していて、しっかりとカネを積んでいる組織は摘発されない。ポイペトで摘発されたところは、賄賂こそ渡していたものの、そんなに大きくなかったとか、裏切った人間がいるとか、そういう話はチラホラ聞きます」
カンボジア

カンボジアでは、10万人〜15万人が詐欺に関与しているとみられ、集めた金は、年間最大2兆7000億円と推計されています。このシステムを支えているのは、詐欺グループと権力中枢との結びつきです。

コック・アン氏

その象徴が、ポイペトの“ゴッドファーザー”こと、コック・アン氏。事実上の最高権力者・フン・セン前首相の側近にして、華僑系財閥を率いる大物実業家です。しかし、その裏では、詐欺グループとの密接な関係がささやかれてきました。

拠点

ポイペト市内にあるアン氏が経営するカジノリゾート。ここにも拠点があるとみられています。

連れ去られた男性

実際に、アン氏の所有するビルで働かされたという32歳のタイ人男性に話を聞くことができました。「仕事を紹介する」とバンコクの広場で声をかけられ、車で連れて行かれたといいます。

サラ―ウット・パーラーさん
サラ―ウット・パーラーさん
「トゥクトゥクで、25階建てのビルに連れて行かれた」
仕事

仕事は、自分名義で作らされた詐欺用の口座に、スマホの顔認証でログインすること。

サラ―ウット・パーラーさん
サラ―ウット・パーラーさん
「(Q.建物の所有者は誰)聞いたことがない。コック・アンという名前は知らない」
特殊詐欺に関与

5月、イギリスの調査会社の報告書が突きつけたのは、特殊詐欺に関与している政財界の要人は、アン氏ひとりではなく、少なくとも28人に上るという実態でした。

隣国タイは、自国民を狙った特殊詐欺の取り締まりを本格化させています。

タイ警察

先月、タイ警察は、アン氏の関係先、少なくとも26カ所を一斉捜索。日本円で約50億円の資産を押収し、本人と3人の子どもに逮捕状を出しています。

タイの支援団体 ジンマンカ氏(13日)
タイの支援団体 ジンマンカ氏(13日)
「アン氏は、人身売買も特殊詐欺も知っていて、組織を支援している。拠点では、ありとあらゆる犯罪が起きています。彼が関与していないなんて、絶対にありえません」
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◆バンコク支局の金井誠一郎記者に聞きます。

金井誠一郎記者

(Q.カンボジアでの詐欺の実態はどうなっているのでしょうか)

金井誠一郎記者
「まず、カンボジア国内の特殊詐欺の構造ですが、大きく二つの形があるといわれています。一つは少人数の特殊詐欺グループ。もう一つが、大規模な“特殊詐欺村”のようなもので、これが国内に、多数、存在するといわれています。複数の関係者に取材すると、“特殊詐欺村”の構図は、トップに中国系マフィア、その下に“各国のチーム”を束ねる、それぞれの犯罪組織の関係者がいるといわれています。例えば、インドネシア人、ベトナム人、中国人、タイ人、日本人などが挙げられます。さらに、それぞれの国をターゲットにするために、その国の“かけ子”が集められます。かけ子は、自らの意思で加担する者もいれば、闇バイトでだまされて集められた者もいます。かけ子の存在で、カンボジア国内から、さまざまな国のお金を集めることができるというわけです。カンボジア政府や警察も、こうした現状の対策を重要視していて、1カ月で3000人を拘束しました。確実に力を入れているといえます。しかし、その一方で、政府や警察にも“犯罪組織と癒着している者”が複数いるといわれていて、組織の一掃は簡単ではありません。実際、我々にも、数日前にSNSで『基本給3000ドルで電話対応』などといった、カンボジアでの特殊詐欺行為を誘導するような内容の連絡がありました。いまも、犯罪組織のリクルート、そして特殊詐欺行為というのが続いているといえます」
金井誠一郎記者

(Q.“ゴッドファーザー”とも呼ばれるコック・アン氏など、カンボジア政財界の大物たちの関与が疑われるなかで、捜査自体、上手くいくのでしょうか)

金井誠一郎記者
「コック・アン氏は、カンボジアで、長年、権力を持っているフン・セン前首相と相当近い存在で、国民誰もが知る実力者です。海外調査機関の指摘では、コック氏のほかにも10数人の政治家が、犯罪組織の背後に見え隠れしているとの情報もあります。彼らは、犯罪組織と癒着し、ある種の“うまみ”をもっていて、かつ、捜査に“一定の影響力”があるいわれています。こうしたカンボジアの状況下で、詐欺の根絶やしは、非常に難しい状況です。今回、カンボジアとの外交関係が悪化しているタイが、自国民にも被害があるとして、コック・アン氏の逮捕状をとるなど、力を入れています。ただ、特殊詐欺の摘発というのは、厳しくなると、組織は、東南アジアの他国に拠点を移す傾向があり、このことも一掃の難しさの要因となっていると思います」
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