18日、アメリカのトランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領とワシントンで再び会談を行った。今回は終始、おだやかな表情を保っていたことが注目されている。2月の会談では異例の口論になったが、今回はゼレンスキー氏も感謝の言葉を連発した。
【映像】プーチン氏をレッドカーペットでもてなし(実際の映像)
ウクライナの後見人的な役割のヨーロッパ首脳たちもワシントンに集結し、ドイツのメルツ首相は「次のステップは複雑だが、(トランプ)大統領が先週の金曜日に道を開いてくれた」、イタリアのメローニ首相は「この3年半、ロシアが対話に応じる兆候すら見られなかったのに、(トランプ)大統領のおかげで何かが変わり始めている」とコメント。欧州の首脳たちも、トランプ氏の機嫌を損なわないよう、気遣う発言を行っている。
しかしメルツ氏と、フランスのマクロン大統領は「ウクライナでの停戦が次のステップであるべきだ」と述べたが、トランプ氏は恒久的な解決策が見つかるまで、停戦は不要だと主張した。
では“恒久的な解決策”とは何なのか。この会談が始まる前日、トランプ大統領は自身のSNSで、「彼(ゼレンスキー氏)が望めば、ほとんどすぐに戦争を終わらせることができるし、戦い続けることもできる」「ウクライナがNATOに加盟することはない」と投稿。さらにロシアが一方的に併合したクリミア半島についても「取り戻すことはできない」と投稿した。
ノーベル平和賞が欲しいとされるトランプ氏は、会談の3日前にアラスカ州アンカレッジで、ロシアのプーチン大統領と会談していた。実はアラスカは、ベーリング海を隔てたロシアとの距離が約90キロと近い。
アラスカは19世紀にアメリカに売却されるまで、ロシア領だった。天然資源が豊富で、これまでアメリカ・ロシア間で北極圏の共同開発について、話し合ってきた歴史もある。
ロシアが描く有利な停戦合意締結には、トランプ氏の力が不可欠と考えるプーチン氏にとっても、友好関係をアピールする絶好の場所だった。この会談の前には、トランプ氏が「ロシアが50日以内に停戦に応じない場合、非常に厳しい関税を課す。およそ100%の関税、『2次関税』と呼ばれるものだ」と発言した場面もあった。これはロシア製品を輸入する国に対しても、アメリカが関税を課すというものだった。
米ロ会談において、アメリカ側はレッドカーペットで迎え入れ、戦闘機は歓迎の編隊飛行。さらに大統領専用車「ビースト」にプーチン氏を同乗させた。プーチン氏は、和平に応じる条件として、ウクライナに東部ドンバス地方の割譲などを要求している。
会談は合意に至らなかったが、トランプ氏は「大きな進展」、プーチン氏は「トランプ氏のリーダーシップは、両国関係が回復に向かうことの良い保証となる」とした。一方でウクライナや欧州は、ロシア側の要求する領土の割譲は認めないとしている。
その根拠は、歴史にある。「陸続きの大陸続きでは不条理な歴史の教訓がある」(国際政治学者 舛添要一氏)
1938年のミュンヘン会談では、ドイツのヒトラーが、チェコ領土にあるドイツ人移住区ズデーテン地方を救う目的で割譲を要求した。その際、イギリスやフランス、イタリアは、ヒトラーのさらなる暴走を防ぐため、チェコ抜きの会談で割譲を認めた。
しかし結果は、ヒトラーがミュンヘン会談の決定を無視し、チェコ全土に侵攻した結果、チェコは解体された。そして、プーチン氏が尊敬する独裁者スターリンは、ヒトラーと組んでポーランドに侵攻。第二次世界大戦へと発展した。
舛添氏は、「今回の動きは、ミュンヘン会談と同じ。今回はウクライナ抜きで解決策を決めようとしている。この歴史を知っている欧州は割譲など絶対に飲めない」と分析する。
ロシア自身も、繰り返し侵略された歴史を持つ。古くは13世紀にモンゴル帝国が侵略し、「タタールのくびき」と呼ばれる、240年にわたる支配があった。19世紀にはナポレオンがモスクワを占領。そして第2次世界大戦では、ヒトラーが旧ソ連に侵攻した。
舛添氏は「プーチンもこの歴史を忘れていない」と考える。欧米に安全保障を求めるゼレンスキー氏と、連合で安全保障を担うという欧州、そしてNATO入りは絶対阻止というプーチン氏。停戦合意にはトランプ氏とプーチン氏、ゼレンスキー氏の三大統領がそろった会談が必要とされるなか、ゼレンスキー氏はプーチン氏と会談する意向を示している。
しかし舛添氏は、「アメリカ・ロシア・ウクライナの三者会談はそう簡単ではない。ロシアを信頼すると痛い目に遭う」と指摘する。
トランプ氏は8月21日、SNSで「侵略国を攻撃せずして勝つのは難しい」という、意味深な投稿を行った。発言の一貫性のなさが指摘されるなか、8月20日にウクライナは、ロシア軍が夜間にウクライナ北部のスムイ州をドローン攻撃し、子ども3人を含む少なくとも14人が負傷したと発表した。また、キーウの地下鉄構内では、安全を求めて寝泊まりする市民もいるという。
トランプ氏とプーチン氏の会談について、舛添氏は「一番の問題は領土だ。プーチン氏は、『いまロシアが占領しているウクライナ東部にはロシア人が住んでいる』と理解させようとしている。それをトランプ氏も理解していると言ったと思われる」と分析する。
そして、「戦車で攻めていき、“取ったら勝ち”となれば、強い国は片っ端から行く。ヨーロッパの地図を見たら分かるが、陸続きで、隣国まで歩いて行ける。海に囲まれた日本人には、その感覚が分からない。国境地帯にはいろいろな民族がいるが、どちらかの強国が勝つたびに言葉を変えないといけない。そのため領土問題はかなり厳しくやったのだろう」と考察する。
欧州首脳がワシントンへ行ったことについて「ゼレンスキー氏だけでは負けるため、みんなで応援して、侵略者に領土を奪われないようにしようと。これをOKしたら、次はポーランドやバルト三国、ドイツが陸続きでやられるとなってしまう。ここで阻止して、『戦車で人の国をとっちゃダメだ』と分からせる。ゼレンスキー氏が下手な英語でケンカしたが、(EUの)みんなで行って、『ヨーロッパの総意だから、ちょっとトランプ氏は考え直して』と言ったのだろう」
この動きには歴史の教訓があるという。「強国だけで決める。ミュンヘン会談もチェコがいないところで決めた。今回もウクライナがいなくて、プーチン氏とトランプ氏だけで決めたら、『当事者がいなくてどうするの』となる。今回はヨーロッパ首脳がついてきて、会談をやった。(ヨーロッパは)次は自分の国がやられてしまうことになると考えている」。
トランプ氏の「侵略国を攻撃せずして勝つのは難しい」投稿については、「旧ソ連時代から、力の支配しか信じないのがロシアだ。トランプ氏は米軍を使って押し返すことはしないと言っているため、トランプ氏の言うことには一貫性がない。一つの手は長距離ミサイル的なものを使い、モスクワまで攻撃していいと言うかどうかだ。そうなると第三次世界大戦になってしまう。トランプ氏は一般論的に言っているが、『トランプさん、あなたはどうするんだ』と聞かれた時に答えがないのが問題だ」と語る。
三者会談に向けては、領土問題以外の課題もある。「安全保障が壁になっている。絶対にプーチン氏はNATOにウクライナを入れない。それを言えば、絶対に和平には応じない。『NATOに似た形の安全保障を提供する』という所までは、プーチン氏は譲歩したと言われる。では、誰が安全保障をやるか。ヨーロッパが守ってくれるのか。トランプ氏は『お前らが行け。何かあったら空爆くらいは手伝う』と言っているが、それで収まるかどうかだ」。
こうした背景のもと、「今の段階で三者会談は不可能だ。私がプーチン氏なら絶対にやらない。やって良いことがなく、ゼレンスキー氏も言うことを聞かない。くたばるまで力でねじ伏せるしかない。核兵器も資源も持っている。小麦や天然ガスも輸出している。いつまでも戦争ができる」と説明する。
「欧米が援助をやめた途端に、ウクライナはギブアップ。その方向に持っていく。あとはゼレンスキー氏を失脚させる。憲法上は戦争中に大統領選挙ができないが、大統領任期が切れてもゼレンスキー氏はやっている。プーチン氏は『独裁者だ。俺はちゃんと戦争中でも選挙して、正当に認められた』と言う。和平条件として、ゼレンスキー氏が『やめます』と言えば、交渉のテーブルにつくだろう。そして次の選挙で傀儡(かいらい)政権を作る。私がプーチン氏なら、『ゼレンスキー氏が辞任する』と確約されない限り、会談には応じない」と見通した。
ウクライナの世論についても、「だんだん『戦争をやめた方がいい』の比率は増えているが、自分の夫や息子が戦争でやられ、自分の家も壊され、みんな怒っている。何も悪いことしていないのに、攻めてきたのはお前だろと。お前が懲らしめられないで、我々だけ苦しむわけにはいかない。日本を含めて支援しないといけないが、どこまでそれが持つか」と説明した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)