イギリス王室とゆかりの深い乗馬競技「ポロ」。南米アルゼンチンで初めて遺伝子操作された馬が誕生し、波紋を広げている。
ポロ選手「他チームにはとても不利」
一見、どこにでもいるような子馬たち。しかし、ロイター通信によると、遺伝子操作によって生まれた世界初の馬だという。
この馬を生み出した目的は、馬に乗りながらボールをゴールに入れるスポーツ「ポロ」だ。イギリス王室にも愛される格式あるスポーツで、選手一人につき最大8頭の馬を乗り換えながら行うという。
馬の能力が勝敗を大きく左右するため、質の良い馬は高値で取引されているという。
今回、遺伝子操作により優秀な馬を生み出したのは、ポロの競技人口世界一を誇るアルゼンチンのバイオ企業だ。
元々、持久力が持ち味だった馬の遺伝子を操作し、瞬発力もある馬を生み出した。短距離も長距離も得意とするオールラウンダーの馬だという。
ガブリエル・ビチェラ氏
「この技術でブリーダーがエリート競技馬を手に入れるために、現実的でより有効な革新的解決策を提供できるのです」
だが、この馬が物議を醸している。アルゼンチンのポロ協会は、遺伝子操作された馬の試合への出場を禁止したのだ。
「遺伝子操作の馬でプレーすることは、それができない他のチームにとってはとても不利だと思います」
また、馬の生産者協会も「4年から5年間観察する」と慎重な姿勢を見せている。ただ、開発会社にはすでに購入希望の依頼が入っているという。
乗馬競技が直面 科学の進歩
アルゼンチンでは遺伝子操作によって誕生した馬は、なぜポロ競技に参加が認められていないのか。
ポロの競技に出場する馬について、国際馬術連盟は2012年に同じ遺伝子の馬を複製するクローン技術で生まれた馬が、競技に参加することを容認すると発表した。
ロイター通信によると、アルゼンチンでクローン馬を手掛けるKheiron Biotech社は、今年約400頭のクローン馬を生み出す予定だという。
クローン馬が増加するなか、去年末に遺伝子操作によって5頭の馬が誕生した。するとアルゼンチン・ポロ協会は2月、遺伝子操作された馬は「遺伝子ドーピング」とみなし、ポロ競技に参加できないという声明を発表した。
禁止の背景について、多くのブリーダーの反対がある。約50人のブリーダーが連名でブリーダー協会に対して、これまでクローン技術で生まれた馬までは容認してきたが、「遺伝子操作で生まれた馬は限度を超えている」として、競技への参加を容認しないよう求めたという。
また、ブリーダー協会の会長は「遺伝子操作された馬について、アルゼンチンからポロ競技用の馬を輸入している国が懸念を抱いている」ことを明らかにしたと、ロイター通信の取材に答えている。
では、同じ馬による競技「競馬」では、どのような規定になっているのか。海外の競馬事情にも詳しいサラブレッド・インフォメーション・システムの奥野庸介代表に聞いた。
「競馬に出場する競走馬『サラブレッド』は、世界的に自然交配が原則で、人工受精、クローン、遺伝子操作はいずれも認められていない」という。「競馬は血統の多様性を重視し、競技の公正性を維持に努めてきた。無名な血統から優秀なサラブレッドが誕生することも、競馬の醍醐(だいご)味だ」と話している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年9月2日放送分より)