中国では3日、日本との戦争に勝利してから80年を記念する大規模な軍事パレードが行われ、最新兵器が続々登場しました。同時に習近平国家主席が世界に見せつけたのはプーチン大統領、金正恩総書記との3ショット。この2人を厚遇する狙いはどこにあるのでしょうか。
未明から厳戒警備の北京市内
まだ日も昇っていない午前4時。集まっているのはパレードの取材に招待された世界中のメディアです。
「一人ひとり顔認証でセキュリティーチェックが行われていきます。私も顔も確認できました。鞄や機材のチェックが入念に行われています」
一般車両が締め出された道路を通り、天安門広場へ。
「天安門が見えました。その直前、2回目のセキュリティーチェックが行われています」
超がつくほどの厳重警戒の中、式典開始の時を待ちます。
“主賓扱い”のプーチン氏 金正恩氏
午前8時ごろから、参列する各国首脳たちが続々到着。ホストが1人ずつ握手で出迎えます。習主席、握手は片手で淡々としたものでしたが、金正恩総書記とは両手でがっちりと。続くプーチン大統領にもいんぎんに手を差し出し、会場へエスコート。その後、2人の姿は常に習主席の隣にあります。式典の“主賓格”である証です。
「とてもうれしいです。久しく会えていませんでしたから」
「お会いするのは6年ぶりです」
「そうです。うれしいですね」
世界で孤立などしていないように見せられるロシア。中ロと対等に肩を並べ、自分たちも“大国”になったとアピールできる北朝鮮。そしてそれらを従え、先導する中国。3者それぞれの思惑が上手くいったことを示すかのような光景です。
最新鋭ミサイルや無人潜水艇 誇示
そして、式典がスタート。パレードには最新型兵器がいくつも登場しました。潜水艦のような見た目をした超大型の無人潜水艇。長さは20メートル近くあり、核が搭載可能とされています。つまり“核魚雷”のような兵器と捉えてよさそうです。
ICBM、大陸間弾道ミサイルも新たに2種類を公開。“空母キラー”との異名を持つ極超音速対艦ミサイルもパレード初めて登場しました。登場した兵器にはこんなものも。
「電磁波の優れた兵器、電子対抗部隊が来ます。全方位を偵察しコントロール。ネットや電力を遮断する。多種・多分野で勝つ優れた兵器である」
ドローンなどに対抗する電子妨害兵器は、現代の戦争の形態を意識していることの現れです。そして今回、もっとも特筆すべき点は、公開された兵器の数にあります。10年前は40種類程度だったものが、今回は100種類を超えています。その意図を専門家はこう読み解きます。
「21世紀の現代戦を戦える能力を人民解放軍が保有していることを示す。それが今回のパレードの目的。示す相手は何よりもアメリカであるが、より重要なのが、習近平体制が異例の3期目に入っていて、国内でもこれに対して反発がある。そんな中で習近平体制の正統性を強調したいというのが、10年前と比べて大きな比重を占めている」
「習主席の隣に暴君と独裁者」
その習主席の演説。
「今日人類は再び、平和か戦争か、対話か対抗かの選択を迫られています。我々は平和的発展の道を歩み、各国人民と共に手を携え、人類運命共同体を築き上げていきます。人類の平和と発展という崇高な大業は必ず勝利します」
強調した“平和”の2文字。しかし、3日の光景をCNNはこう評しています。
「隣には1945年以来、ヨーロッパで最も血にまみれた紛争を繰り広げる暴君。反対側には、その戦地に兵士と兵器を送り込むアジアの独裁者が立っていた。これは数万人の命を奪った戦争を仕掛け、継続させる2人の行動を習氏が打ち消しているかのように見える」
金正恩氏「ロシア人民を助ける」
1時間半にわたる式典が幕を閉じると“主賓格”の2人に動きが。プーチン大統領と共に車に乗り込む金総書記。妹の与正氏も追従します。迎賓館へ向かった2人。去年、平壌を訪問して以来となる首脳会談です。その後、ロシアに派兵したことは北朝鮮も堂々と公開しています。
「貴国の兵士たちが勇敢に戦っていました。貴国の軍隊とご家族が受けた犠牲、決して忘れません」
「あなたとロシア人民のためにできること、やるべきことがあれば“兄弟の義務”我々が担うべき義務とみなし、全てを尽くして助ける用意があります」
ロシアメディアによると、金総書記はロシア再訪の招待を受けたといいます。
「待っていますよ。どうぞお元気で。モスクワに来てください」
26カ国の首脳級出席 G7は不参加
今回の軍事パレードに出席した国家元首・首脳級は26人。ベトナムやミャンマー、インドネシアなどの東南アジア諸国、ウズベキスタンやキルギスなどの中央アジア諸国、またアフリカ諸国などが参加しました。一帯一路など、中国の支援でインフラを作っている国が多い。つまり、経済的に中国との関係を深めたい国と言えます。一方で、10年前にはフランス・イタリアの閣僚やアメリカの在中大使などが出席していましたが、今回はG7の参加はありませんでした。
中国情勢に詳しい、神田外語大学の興梠一郎教授に聞きました。
(Q.今回の軍事パレードが世界に与える影響は)
「中ロ朝の3首脳が天安門に立つことで、西側との対立構図を見せつけた形になった。まるで“東西冷戦”のようになっている。特にウクライナを支援するEUとの関係はさらに冷え込むのではないか」
(Q.中国・ロシア・北朝鮮の3首脳の親密さが際立っていた。特に驚いたのが、北朝鮮の金正恩総書記を大国ロシアのプーチン大統領と同列に扱っていたこと。中国が北朝鮮をここまで引き立てた理由は)
「ウクライナへの攻撃をめぐり、“中国の頭越し”にロシアと北朝鮮の関係が緊密化したことがある。中国にとって北朝鮮は、トランプ大統領に対抗するうえでとっておきたい大事なカード。北朝鮮との関係を深めるために厚遇で迎えたのではないか。ロシアも北朝鮮もアメリカにとって“扱いにくい国”だが、その両国に対して習主席が“自分なら話をつけられる”というアピールをするため」
(Q.“大事なカード”ということですが、トランプ大統領から何を引き出そうとしていますか)
「習政権にとって最大の課題は【トランプ関税】で、両国との関係性をトランプ関税の交渉カードにしたいと考えているのではないか。中国経済が悪化していて、対米輸出も激減する中、なりふり構わずという感じではないか」
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