韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権と旧統一教会の癒着疑惑で動きがありました。教団トップの韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が17日午前、特別検察官チームの事務所に出頭しました。
食い違う主張 カギを握る人物
まずは、韓鶴子総裁をめぐる疑惑を見ていきます。ブランド品の贈賄疑惑のほか、韓国の保守政界を巻き込む疑惑も報じられています。
韓国「KBSニュース」によると、2022年1月5日、大統領選の投開票までおよそ2カ月となるなか、韓国の国会に近いソウル・汝矣島の高級中華レストランで多額の金銭受け渡しが行われた疑いがあり、韓国の特別検察官チームが捜査を行っています。
17日付の「ハンギョレ新聞」などによりますと、金銭を渡したとされているのが旧統一教会の元ナンバー2のユン・ヨンホ前世界本部長だといいます。ユン前世界本部長は「当選したら教団の政策を国の政策として推進してほしい」として、およそ1000万円を最大野党「国民の力」の重鎮で、当時尹大統領候補陣営の選対本部長を務めていたクォン議員に渡したという疑惑が指摘されています。
そして、これを指示したのが旧統一教会トップ韓総裁ではないかという見方があります。
ただ、この指示をめぐっては、主張の食い違いもみられています。
「東亜日報」によりますと、請託禁止法違反容疑などで逮捕・起訴されたユン前世界本部長は、供述では「韓総裁の指示で渡した」としているということですが、これに対して旧統一教会側は「元幹部による個人的な動機と行動であり、教団とは無関係」と反論しています。
ここでカギを握るのが“金銭を受け取った側”とされているクォン議員です。
「ヘラルド経済」によりますと、クォン議員は金銭を受け取ったことは認めていないということです。
「連合ニュース」によりますと、17日未明、特別検察官チームがクォン議員を逮捕したということです。
逮捕の決め手の1つとなったのでしょうか、「ニュース1」によりますと、特別検察官チームは金銭授受の場に教団の関連組織の元幹部が同席し、ユン前世界本部長がこの元幹部に確認の意味も込めて「約1000万円を渡した」というメールを送ったことなどを把握しているといいます。
仮にこの金銭授受が事実だとして、何のためにこのようなことをしたのでしょうか。
「ハンギョレ新聞」によると、金銭を受け取ったとされるクォン議員はその後、教団の行事への尹大統領候補の出席を主張し、実際この翌月2022年2月、旧統一教会関連団体が主催した「韓半島平和サミット」という行事に尹大統領候補が参加しています。
クォン議員は「統一教会には300万の票がある」と話しており、その後の大統領選で「国民の力」から出馬した尹氏が約25万票差で当選しています。
韓総裁の捜査 どのように進められる?
続いて、旧統一教会の韓鶴子総裁の疑惑をめぐって捜査を行っている「特別検察官チーム」とは、どういった組織なのかを見ていきます。
特別検察官とは、政治家や政府高官らへの捜査が必要だと国会が認めた事件に対して設置される政権から独立して捜査を行う組織。
「ニュース1」によりますと、今回、旧統一教会関連も含めて、尹前大統領夫妻をめぐる疑惑を捜査している特別検察官のチームを指揮するのは、李在明(イ・ジェミョン)大統領が指名したミン・ジュンギ氏。革新系裁判官として知られる人物です。
「韓国経済新聞」によりますと、ミン氏率いる検事40人からなる特別検察官チームが疑惑の捜査を行っています。
では今後、韓鶴子総裁の捜査はどのように進められるのでしょうか。
韓国の司法に詳しい芝パーク総合法律事務所の高佑学弁護士によりますと、韓総裁は現在、任意で出頭して事情聴取を受けているが、証拠隠滅などのおそれから「逮捕」または「拘束」によって最長で20日間、身柄が拘束される可能性があり、そのうえで起訴するか、不起訴となるか判断されることになるといいます。
高弁護士によりますと、すでに捜査が進み、元幹部の供述や証拠が集まっており、身柄拘束される可能性が高いということです。
日本では解散請求が行われましたが、韓国ではどうなるのでしょうか。
その点について高弁護士は「韓国では宗教法人という規定がない。やるとしても民法上の設立許可を取り消せるかどうか」だと話していました。
教団のトップに捜査が及ぶ事態を受けて、国内外から韓国の本部に幹部信者が集まっているといいます。
トランプ大統領 教団に加勢するような動きも
韓総裁の出頭を受けて、 旧統一教会にはどのような影響が及ぶのでしょうか。
本部のある加平(カピョン)に1000人を超える教団幹部らを緊急で招集し、今月10日から22日まで、合わせて13日間、韓総裁の安全を祈願する集会を開いているということです。
今後の捜査で教団運営には、どのような影響が出るのでしょうか。
旧統一教会問題に詳しいジャーナリストの鈴木エイトさんによると「教団内部から分裂を懸念する声も出ている」といいます。というのも「韓鶴子氏以外にカリスマ性を持った人がおらず、血縁関係がない人がトップに立つと内部闘争が起きかねない」ということです。
こういった分裂の可能性については、旧統一教会の内部事情に詳しい釜山長神大学のタク・チイル教授も指摘しており、教団の創始者である文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が2012年に亡くなって以降、教団は3つに分かれているそうです。
本体の旧統一教会は、文氏の妻の韓総裁が引き継いでいますが、三男が「グローバル・ピース・ファウンデーション」という団体を創り、七男は「サンクチュアリ協会」という団体をアメリカで運営しています。
タク教授は、本体から三男の団体に信者が流れる可能性を指摘しています。
こうしたなか、トランプ大統領から教団に加勢するような動きも出ています。
先月25日、アメリカのトランプ大統領は米韓首脳会談を前に「ここ数日間、韓国の新政権が教会を対象とした悪質な強制捜査をしたと聞いた。容認することはできない」と発言しました。この強制捜査が具体的に何を指すのかには言及しませんでしたが、旧統一教会への家宅捜索後の発言として注目されました。
もともとトランプ大統領は2023年に旧統一教会の友好団体「天宙平和連合」の記念イベントにビデオメッセージを送るなど、旧統一教会との関係が指摘されており、鈴木エイトさんによると旧統一教会側が「圧力をかけてほしい」とトランプ大統領に働きかけている可能性もあるということです。
北朝鮮…娘が「有力な後継者」の地位確立か
韓国が旧統一教会の捜査で揺れるなか、北朝鮮では後継者人事をめぐる新たな動きが出ています。
今月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が訪中した際、同行して“外遊デビュー”を果たしたといわれる娘のジュエ氏について、「連合ニュース」は韓国の与野党議員の話として、韓国の情報機関「国家情報院」が「有力な後継者としての地位を確立した面がある」と国会に報告したと伝えています。
また、金総書記にはジュエ氏以外にも留学中の子どもなどがいるとの説があるが、国家情報院はこれらの説について「有力ではない」と、その可能性は低いと報告したということです。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年9月17日放送分より)