イスラエルによるガザ市への地上侵攻が激化しています。ネタニヤフ政権は、表向きは人質の救出としていますが、そこには別の思惑も…。最終目的は何なのでしょうか。
せん滅だけでなくガザ併合も視野
まずは、地上侵攻を開始したネタニヤフ首相の思惑について見ていきます。
ガザ市には住民が約70万人とどまっていると推定されるなか、15日にイスラエル軍は地上侵攻を開始しました。
地上侵攻の目的についてトルコメディア「POLITICS TODAY(11日付)」は、「地上部隊がトンネル破壊やハマス戦闘員を一掃する集中砲火を行い、人質を救出する計画」だと報じています。
また、イスラエルメディア「Israel Hayom(16日付)」によりますと、イスラエルの目的は、ガザにおける最後のハマス司令官と呼ばれるイズ・エルディン・アル・ハッダード氏(55)の殺害だということです。
アル・ハッダード司令官は、2023年10月7日のハマスによる最初の奇襲攻撃を行った首謀者の1人。現在は、ハマスの軍事部門の長であり、数千人のテロリストと共にガザ市の地下に立てこもっているということです。これまで6回の暗殺未遂を生き延び、「ゴースト」の異名を持ち、約1億円の懸賞金がかけられている人物です。
ただ、これらは表向きの目的で、ネタニヤフ首相はハマスの殲滅(せんめつ)だけでなく併合も視野に入れているとの情報もあります。
BBCによりますと先月7日、ネタニヤフ首相はガザ市占領計画について治安閣議で協議したということです。極右政党の複数の閣僚からは、侵攻継続を強調する声があがり、ガザ市完全占領計画が承認されたといいます。
中東情勢に詳しい現代イスラム研究センター理事長の宮田律さんによりますと、「今回の地上侵攻はこの計画に基づいたもので、ガザ地区の完全占領・併合を進めようとしている。ヨルダン川西岸地区についても併合の計画がある」ということです。
しかし、1993年のオスロ合意では、ガザ地区とヨルダン川西岸地区でパレスチナの暫定自治が認められているため、併合すれば合意から逸脱する内容となります。
なぜ、ネタニヤフ首相がこのような強硬路線をすすめるかというと、国内情勢が大きく関係しているようです。
ネタニヤフ政権は現在、定数120の国会で与党がぎりぎりで過半数を超える61議席。連立を維持するために、ネタニヤフ首相は右派の要求をのまざるを得ない状況になっているとみられています。
さらに、その先の構想の可能性もあるということです。
AFP通信によると、それが大イスラエル構想というもので、この構想は紀元前のソロモン王時代のイスラエル王国の領土を指し、イギリスのメディア「middle east eye」の地図を参考にみると、ガザ地区とヨルダン川西岸だけでなく、現在のレバノン、シリア、イラク、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなどが含まれています。
先月12日、地元テレビ局のインタビューでネタニヤフ首相は大イスラエル構想に賛同するか問われ「もちろん、私の考えを問われれば賛同する」と答えました。
トランプ大統領の発言に変化?
そんななか、イスラエルを支援しているアメリカの中でも意見が割れてきています。
アメリカでイスラエルを支援しているのがキリスト教福音派で、その大多数が共和党を支持しています。アメリカの独立系調査機関「PRRI」によりますと、去年の大統領選で白人の福音派の8割以上がトランプ大統領に投票したといい、トランプ政権の重要な支持基盤となっています。
そして、トランプ大統領自身が提唱するMAGA運動の信奉者もイスラエル支持を表明していましたが、変化もみられます。イスラエル情勢めぐって、MAGA派から批判の声も出ているようです。
CNNの最新世論調査では、イスラエルの行動は完全に正当化されると答えた共和党支持者の割合は、2023年の68%から今年は52%に低下。さらに50歳以上の共和党支持者のイスラエルへの不支持率の割合は2022年以降ほぼ変わっていませんが、若年層における同盟国イスラエルへの不支持率は35%から50%に上昇しています。つまり、若年層になるにつれイスラエルに否定的な人が増えているといえます。
アメリカの中東への支援継続は「アメリカ第一主義」に反するのではという声が、MAGA派からもあがっています。
6月には、アメリカが直接イランを攻撃することが検討されていた際、アメリカFOXテレビの元司会者タッカー・カールソン氏が「アメリカ第一主義への裏切りだ」と非難。こうした声は共和党議員からもあがっていて、国内経済に目を向けるべきだとしました。
また、極右活動家のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員はXで、イスラエルのロケット防衛システムへの約742億円の資金提供を取り消すべきだと呼びかけました。
こうした発言や動きを受け、トランプ大統領の言葉にも変化が起きています。
7月28日には、ガザ地区の飢餓についてトランプ大統領は「ガザの子どもたちは本当に飢えているようにみえる」と発言。
さらに、今月1日にアメリカ保守系メディアが掲載したインタビューでも、若い共和党員の間でイスラエルの支援に懐疑的な見方が強まっているのに気付いているかと問われ、トランプ大統領は「気付いている」と回答するなど変化が出てきています。
パレスチナの国家承認 日本「見送る方向で調整」
続いて、パレスチナの国家承認についてみていきます。日本の姿勢は、どうなのでしょうか。
BBC(先月12日付)によりますと、フランスやイギリスなど国連加盟193カ国のうち、147カ国がパレスチナを国家として承認しました。
国連のグテーレス事務総長は「可能な限り多くの国がパレスチナを国家承認することが望ましい」としましたが、17日、日本政府は「日本政府は国家として承認することを当面、見送る方向で調整する」とし、政府内からは「承認した先の展望がない、承認することでイスラエルが暴発するリスクがある」という声があがっているようです。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年9月18日放送分より)