トランプ政権が進める途上国などへの対外援助見直しで、世界最大規模とされるロヒンギャの難民キャンプでは、教育を受ける機会が危機に瀕(ひん)しているという。現地の声を取材した。
アメリカの資金削減で教育に影響が
バングラデシュ東部にある世界でも最大規模の難民キャンプ・ロヒンギャ難民キャンプ。
丘陵地を切り開いた土地に、防水シートや竹で作られた住居が所狭しと密集している。この中での暮らしは8年が経過した。
バングラデシュの隣国・ミャンマーの北部で暮らしてきたイスラム教徒の少数民族であるロヒンギャ。2017年8月、ミャンマー国軍による無差別の武力弾圧を受け、およそ70万人もの人たちが住む場所を追われた。
そして、ロヒンギャはバングラデシュへと逃れ、現在は東部にある難民キャンプに100万人以上が暮らしている。
「家から逃れた時は、山道をずっと歩きました。私の場合、自宅からバングラデシュ国境まで7日間歩き続けました」
ロヒンギャ難民キャンプの支援団体の一つでリーダーをしているカリムさん。難民となった当時は14歳だった。
現在、食料などは国連から支給される月に12ドル=日本円でおよそ1800円分のクーポンで交換して手に入れている。この金額はコメや豆、それに加え塩や油と交換したら使い切ってしまい、他の食材を得ようと思えば量を減らすことになる。
さらに今年2月にアメリカのトランプ政権は、対外的な人道支援に関わる予算と人員を削減する方針を打ち出した。
「今年の頭に、USAID(米国際開発局)の世界的な援助削減の影響で、一人あたりの月の食料配給額を12ドルから半減の6ドルを継続していたら、完全に生活が成り立たなくなっていたでしょう」
アメリカの支援削減の影響で食料支援額が一時半減した。しかしその後、元に戻され、十分とは言えないものの食糧に関しては現状を維持できている。一方で、資金削減で教育には大きな影響が出ているという。
「教育を受けられないと…脆弱な立場に」
今は自身も支援団体を運営するカリムさん。難民の教育支援をするきっかけとなった場所があるという。
その大学がAUW=アジア女子大学。2008年にバングラデシュ東部、ロヒンギャ難民キャンプの近くに各国の支援で作られた、難民女性のための世界で初めての大学だ。
ロヒンギャ出身としてこの大学の最初の卒業生となったカリムさん。彼女がリーダーをしている支援団体は、女性たちが高等教育を目指すことを支援している。
ロヒンギャが現在の状況から抜け出すために最も大切なことは、高等教育だとカリムさんは話す。
カリムさんの卒業以降、およそ300人のロヒンギャの女性が、質の高い教育を受けている。
16歳のクシーさん(仮名)は現在AUWで学んでいる。
大学に入った今、大きな夢に挑戦している。
高等教育の先に夢を見出せたクシーさん。しかしこれは難民キャンプでは当たり前のことではない。
「ロヒンギャの少女たちにとって、キャンプでの生活は本当に厳しいものです。教育を受けるためには、いくつもの障壁を乗り越えなければなりません」
キャンプ内にも教育施設はあるが、ミャンマー語の学習など初等教育までしか受けられない。
「ミャンマー語の教科書です。私たちの学校には全部で364人の生徒がいます」
ネサさんはこの学習センターで、日本でいう幼稚園から小学5年生までを教えている。
キャンプ内のおよそ100万人のうち半分が子どもだが、キャンプ生活から8年経過し、彼らは日本でいう中高生の年齢になっている。しかし…。
初等教育を終えても、大学を目指すための教育環境が整っていないというのだ。
さらに、この状況にトランプ政権のUSAIDの支援削減が追い打ちをかけている。支援資金の削減で多くの学習センターが閉鎖し、初等教育を受ける機会すらも危機に瀕しているというのだ。
「子どもたちが教育を受けられないということは、私たちの社会の大多数が脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれることを意味します」
「私の夢は、将来的に少なくとも、女の子の60%が学校に通えるようになることです。私たちのコミュニティーの大多数が祖国に戻り、ミャンマーにおける少数民族の一員として、普通に生活できるようになることを望んでいます」
「基礎教育にとどまる」難民キャンプの現状
ロヒンギャ難民が初等教育を受ける機会が減ることに、専門家は懸念を示している。
国連難民高等弁務官事務所によると、バングラデシュで避難生活を強いられているロヒンギャ難民は114万3000人以上で、そのうちの半数以上が18歳未満の子どもである。
ロヒンギャ難民に詳しい立教大学の日下部尚徳准教授は、AUWのような高等教育が重要だと話す。
AUWは、貧しい地域の女性や紛争から逃れてきた女性や難民が高等教育を受けられるよう、欧米や日本の財団、政府機関などの支援を受けて運営されている。
アメリカの大学などと同等の教育環境を目指し、英語や数学の学習、パソコンやスマートフォンなど実際のIT機器に触れて学ぶことができる。
卒業生の中には、難民キャンプや紛争影響地域に戻り、環境改善や教育支援に努める人もいるという。
日下部准教授は「難民キャンプ内では将来の期間を見据えた教育を行っているが、現在は基礎教育にとどまっている」「今後、質の高い高等教育環境を整備することは、難民が将来に希望を持ち、自立を可能にするために不可欠である」と指摘している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年9月19日放送分より)