国際

2025年9月22日 18:30

「戦いはもう十分だ」フランス国連大使を単独取材 パレスチナ“国家承認ドミノ”で圧力 国連での会合「重要な節目に」

「戦いはもう十分だ」フランス国連大使を単独取材 パレスチナ“国家承認ドミノ”で圧力 国連での会合「重要な節目に」
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各国の首脳らが一同に集結する国連総会に合わせて、パレスチナをめぐる問題を議論する首脳級会合が9月22日(日本時間23日未明)に開かれる。フランスがパレスチナを国家として承認する方針を示して以降、G7のイギリスとカナダなど、およそ10カ国がドミノのように承認を表明する流れとなった。

世界中が注目するこの会合は、フランスとサウジアラビアが議長を務める。

「実行可能で具体的かつ現実的な和平案を提示することで、過激派の主導権を奪うことを成し遂げたい」

そう話すのはフランスのジェローム・ボナフォン国連大使だ。

会合開催に至った経緯や意義、中東和平を実現するために不可欠となるアメリカとの関係などについて、ジェローム・ボナフォン国連大使がANNの単独取材に応えた。
(テレビ朝日ニューヨーク支局 鈴木彩加)

「平和の方程式が存在、世界が支援する用意がある」 会合の意義

―4月にフランスのマクロン大統領がパレスチナを国家承認する方針を示したことが議論の発端でしたが、日々各国と直に接するお立場として、この数か月の空気感の変化、承認に向けたムーブメントをどのように感じていますか?

これは平和についての話です。平和と安全の中で共に生きなければならない2つの民族、2つの国家の話であり、両者は何十年もの間、混乱状態に陥っています。ここ数カ月にわたる最高レベルでの外交協議で達成されたことは、平和に向けた新たなロードマップに各国の関心を集めることでした。

そして22日の会合で大切なことは、「戦いはもう十分だ」と伝えることです。「実現可能な平和の方程式が存在し、世界がそれを支援する用意がある」と伝えるのです。曖昧ではなく、明確な内容です。
会合で確認される「ニューヨーク宣言」は、国境の安全確保、ガザ再建の保証、民主的なパレスチナ自治政府が国家政府へと発展する政治的プロセスの保障など、極めて重要で具体的な約束が多数含まれています。パレスチナはこの内容に合意していて、すでに142カ国が賛成票を投じています。

ニューヨーク宣言=パレスチナ国家樹立によってイスラエルと双方が国家として共存し、「2国家解決」を目指す宣言。9月12日の国連総会の会合で、この宣言を支持する決議案が日本を含む142カ国の賛成多数で採択された。アメリカやイスラエルなどは反対。

また、会合は、各国の首脳らが集って自国の立場などを演説する国連総会のハイレベルウィークに開催されるため、大きな意味を持ちます。イスラエルとパレスチナの平和にとって非常に重要な節目となるでしょう。

―パレスチナの国家承認を決めるまでには、反対するアメリカからの圧力や反発についても考慮する必要があったかと思いますが、どのように判断を下したのでしょうか? 決断を後押しした一番の要因は?

マクロン大統領がサウジアラビアのムハンマド皇太子と共同でイニシアチブを取る決断をした背景には、パレスチナの人々にとって平和の見通しと希望なくして先へ進めないという考え、そしてその点において承認の勢いを再び盛り上げる時が来ているという認識がありました。
しかし、これは単なる承認の動きではありません。ダイナミックなムーブメントの一部です。

ご存じの通り、ガザの現状はまさに悲劇です。まず2023年10月7日にハマスによる攻撃がありました。前例のない規模のテロ攻撃であり、世界は恐怖に呆然とし、衝撃を受け、イスラエル国民は深く傷つけられました。そして今もなお、人質がハマスに拘束されたままです。これは容認できません。その後、イスラエルの反撃があり、それが今日の言葉では言い表せないほど深刻なガザの人道的悲劇につながっています。
停戦が実現されなければならず、人質解放は即時実現され、人道支援は妨げられることなく届けられなければならない。しかし何より必要なのは、パレスチナ人とイスラエル人、双方にとっての、平和への道筋です。何年も何年も、この状況を打破できないままにするわけにはいきません。

会合で実行可能で具体的かつ現実的な和平案を提示することで、過激派の主導権を奪うことを成し遂げたいと思っているのです。

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パレスチナ国家承認は一種のムーブメント 膠着した状況に変化を

―参加国数や議論の形式など、会合の詳細は明らかにされていません。どのような議論の場として、どのような成果を生むことを望んでいますか?

ニューヨーク宣言は圧倒的多数で採択され、支持されました。
会合の目的のひとつは、出席する国家元首・政府首脳らによって、この会合の結論を明示的かつ積極的に取り入れ、イスラエルとパレスチナの平和のための新たなロードマップに対する各国のコミットメントを確認することにあります。
これは、発言権を与えられた首脳らが、これらの文書と和平プロセスについて自らの見解を表明することを意味します。

宣言には142カ国が賛成していますが、会合の予定時間である3時間ですべての国に発言してもらうことは明らかに不可能です。そこで、プロセスにおいて特別な責任を負う国々、あるいは特別な発表をするために発言を求めた国々が、可能な限り発言できるよう調整を進めています。

大使
インタビューに応じるフランスのジェローム・ボナフォン国連大使

―これまでにすでに140カ国以上がパレスチナを国家として承認しています。今回、新たに国家承認することが、実質的に、外交的にどんな変化をもたらすのでしょうか?

これは一種のムーブメントなのです。状況が長期に渡って変わらない場合、行動を起こさなくてはいけません。

一つは、国際社会がパレスチナとイスラエルの和平を支援する姿勢を改めて示すこと。そして、もう一つはこれまで承認していなかった国々が「今こそすべき時だ」と表明することで、新たな動きが生まれています。これには、ハマスへの非難、ハマスがパレスチナの未来に関わらないこと、テロリズムに居場所を与えないという意志が含まれています。
数カ月にわたる議論を経て起こしたこうした運動によって、膠着していた状況を変えようとしているのです。

イギリスのスターマー首相 イギリスは21日パレスチナの国家承認を発表した
イギリスのスターマー首相 イギリスは21日パレスチナの国家承認を発表した

―一方で、国家承認を「政治的な宣言」と指摘する声もあります。たしかに、承認するだけではイスラエルの行動は止められません。形式的な承認で終わらせるのではなく、その先に具体的に何が必要だと思いますか?

政治と外交は政治的ジェスチャーで成り立っています。フランス、イギリス、その他数カ国がパレスチナを承認するという政治的ジェスチャーは、極めて強力なメッセージです。
専門家であれ、そうではない人であれ、フランスやイギリスがパレスチナを承認したと聞けば、それがとても具体的な意味を持つと直感的に理解できる点が、その重要性を証明しています。

これは新たな原動力によって状況を変えられる、政治的決断です。外交において、平和に向けた原動力はこうした決断と運動から生み出されるのです。
ただ、いずれイスラエルとパレスチナの間で交渉される最終的な合意内容を予断するものではなく、合意の決定は彼ら自身に委ねられます。
我々は、新たな枠組み構築に向けた両者の対話に対する国際社会の支持を示す。これは極めて重要な意味を持ちます。

―会合後、その次の具体的な一手は何だと考えていますか?

第一に、我々はガザにおける停戦の必要性を確信させるべく、断固たる決意をもって行動を継続します。ハマスによる人質の完全解放が必須であり、人道支援への完全なアクセスが保障されねばなりません。
第二に、ガザにおける「その後」に備え、ガザ住民を救い、ガザを迅速に再建する能力を動員する態勢を整えねばなりません。
そして第三に、こうした措置を活用し、イスラエルとパレスチナ間の和平協議の仕組みを再始動させなければなりません。

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反対するアメリカ それでも続ける対話

―18日の安全保障理事会でも、アメリカだけがパレスチナをめぐる決議に反対し、各国との溝が浮き彫りになりました。中東の平和の実現のためには、アメリカとどのような関係や距離感で協議を進めていくお考えですか?

まず、我々は対話を信じています。マクロン大統領はニューヨークに来て、あらゆる関係者と接触する予定です。

これまでにイスラエルのネタニヤフ首相と数十回にわたり対話を重ねており、我が国の外務大臣も常にアメリカのルビオ国務長官、イスラエルの外務大臣らと頻繁に協議を行っています。これは、対話が唯一の解決策であると確信しているからです。そして彼らが議論する際には、問題の本質に深く踏み込みます。意見が一致するか否かに関わらず、対話を続けるのです。これが外交の本質です。合意点と相違点を議論し、段階的に解決策を見出すのです。

9月18日の安保理でアメリカが拒否権を行使したのは遺憾です。しかし一方で、14カ国は人質解放や停戦、人道支援の確保の必要性など、ガザ情勢について同じメッセージを表明できました。

―国家承認をすることによって、紛争解決に向けた今後のアメリカとの議論を複雑化させるという懸念はありませんか?

繰り返しますが、必要なことは、対話、対話、対話です。外交におけるキーワードは「対話」です。(ニューヨーク宣言やパレスチナ会合の開催など)サウジアラビアとの取り組みは、大規模な国際的支持を集めるものです。これは考慮すべき要素です。これは中身のない文書ではなく、実質的な内容に満ちた文書です。

パレスチナの将来におけるあらゆる責任からハマスを排除するという改革、そして、イスラエルとの今後についての道筋について、パレスチナ自治政府のコミットメントが含まれています。

日本との関係は特別 「日本が国家承認を検討されることを望む」

―G7でフランス、イギリス、カナダが承認を決めた一方で、日本は承認を見送る方針です。どう受け止めていますか?また、日本にどのような対応を期待しますか?

フランスのジェローム・ボナフォン国連大使

日本は主権国家であり、独自の判断を下します。日本はフランスの親密な友人であり、我々の関係は特別なものです。開発援助、人道支援、こうした問題に関する政治的議論において重要なパートナーであり、我々は日本を非常に尊重しています。

しかし今後数日間で、そして会合の中で、約10カ国がパレスチナを承認する見込みです。これは重要な数であり、その大半は日本にとってパートナー、同盟国、友人です。

我々は、日本の外交や内政運営の在り方に最大限の敬意を払っていて、その判断は日本に委ねられています。我々は、日本が承認を検討されることを望んでいます。

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  • 鈴木彩加

    2012年、テレビ朝日に入社、「スーパーJチャンネル」に配属。2015年に社会部へ異動し、警視庁捜査一課や厚労省などを担当。2019年、研修で北京留学中にコロナが発生し、帰国後は都庁担当としてコロナ下の政策や東京オリンピックを取材。2022年からニューヨーク支局に赴任し、北中南米の現場を駆け回っている。