トランプ政権の誤った情報発信によって、アメリカ国内では混乱が起きている。そうした政権の誤りをチェックしていくのがメディアだが、トランプ政権は報道への圧力を加速させ、正しい情報が国民に届かなくなるという危機感が広がっている。
「その使用は自閉症のリスクを非常に高める可能性があるということだ」(トランプ大統領)
9月22日、アメリカのトランプ政権が発表した一部の解熱鎮痛剤の使用に関する注意喚起。近年、アメリカで自閉症と診断される事例が急増している原因として、妊娠中の女性がアセトアミノフェンを主な成分とする市販の解熱鎮痛剤を服用しているからだと主張した。
政権の方針を受けてFDA(=アメリカ食品医薬品局)は医師に対し、妊娠中のアセトアミノフェンの服用が自閉症と関連があると通知を始めた。これにWHOは「科学的根拠が乏しい」と指摘。医療系の学会なども反論の声明を出している。
トランプ政権による発表に同席していたのが、ケネディ厚生長官だ。ジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、“華麗なるケネディ一族”の1人である。
上智大学の前嶋和弘教授は以下のように説明する。
「ケネディ氏は環境弁護士としてマサチューセッツ、ニューヨークを中心に活動。さまざまな企業と戦ってニューヨークのハドソン川をきれいにした張本人という定評もある。しかし近年は健康の話など、実際のデータ以上に『これが危ない』というところに食いついていく」(前嶋和弘教授、以下同)
去年の大統領選挙の際、無所属で出馬したケネディ氏は、撤退後にトランプ氏支持を表明。MAHA(=「アメリカを再び健康に」)のスローガンを掲げ、農薬やワクチン、化学物質や加工食品などがアメリカ国民の健康を阻害していると主張してきた。
しかし、その根拠が不明であるとして、議会でもたびたび問題点が指摘されている。
「ケネディ氏には、ワクチン懐疑派などトランプ支持層の一部がついていて、去年の選挙の最高の立役者。だからこの意見をトランプは否定するはずはない。科学的にどうかはトランプ氏自身もわからないと思うが、選挙の立役者であって支持層がいるのであればその政策をするというのはポピュリストの政権であるトランプ政権では当たり前の話なので、トランプ大統領としてはケネディ氏の方にできる限りフリーハンドを与えている」
「困るのは、医学をどこまで科学的にとらえているかわからない人が厚生長官になっているため、政府が発表するものにお墨付きがどこまであるのか、また政府のお墨付きがあっても正しいかどうかがわからないことだ」
情報規制が加速…その背景は?

そうした政府の情報の誤りをチェックするのがメディア。しかし、そんな中で加速しているのが、政権による情報規制の動きである。
「トランプ政権はメディアに自分がどう報じられるのかを気にしている。FCC(=米連邦通信委員会)が噛みついてコメディーショー『ジミー・キンメル・ライブ!』を規制したことなど。トランプ政権に対してNOという声をトランプ政権は封殺してくるだろう」(前嶋和弘教授、以下同)
保守派の活動家・カーク氏の射殺事件を巡り、人気番組の司会者がトランプ氏の支持者を批判したことで、番組の休止騒動に発展。トランプ大統領は敵対的だと判断したテレビ局に対して放送免許をはく奪する可能性に言及した。番組は再開したものの、一部エリアでは放送が見送られているという。
このほかにも、トランプ大統領は自らへの誹謗中傷を行ったとして、ニューヨーク・タイムズ社を提訴。アメリカ国防総省は、メディア各社に“報道する情報の承認制“という新たなルールを示すなど、情報をコントロールする姿勢を見せている。
「日本的にいうと“大本営発表”で、トランプ政権が言っていることをそのまま受け取っていいのかという疑念が国民に出ていると思う。ただアメリカ国民は分断の中なのでリベラル側にとっては『この情報怪しい』と、保守側ではワクチンの懐疑派もいるため『その通りだ』と思う人もいるのかもしれない」
(『ABEMAヒルズ』より)