ニューヨークで行われている国連総会で、トランプ大統領が国連への不信感をあらわにした。演説では自らの功績を主張しつつ、「国連はいつも『お気持ち』を書簡にして送るだけ」などと批判。石破茂総理も「80年経った今、はたして現在の国連は当初期待された役割を果たしているのか」と問いかけた。
【映像】トランプ氏が乗ろうとした国連のエスカレーターがピタッ!
国連は1945年、第2次世界大戦の戦勝国を中心に設立されたが、東西冷戦時代にも、常任理事国のアメリカとソビエト連邦が対立し、機能不全と批判されていた。今の国連には何ができて、何ができないのか。『ABEMA Prime』では、元国連大使や研究者に聞いた。
■世界で紛争、国連が止めるべき?

国際連合(United Nations)は第2次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省を踏まえて、1945年10月に51カ国で設立された。世界平和の維持と国際協力の推進、人権と自由の尊重などを目的とする。193カ国による総会のもとに、常任理事国5カ国(米・英・仏・ロ・中)からなる強い権限を持つ安全保障理事会や、事務局、経済社会理事会、信託統治理事会、国際司法裁判所などで組織される。
トランプ大統領は、9月23日の国連総会で行われた一般討論演説で、国連は“機能不全”だと指摘した。「私はこの7カ月で7つの戦争を終わらせた。悲しいことに、国連はいずれのケースでも助けようとはしなかった」「国連がやっているのは強い言葉で、手紙を書くことだけ。それ以上はしない。空虚な言葉では戦争は解決しない」として、国連が紛争解決などで機能していないと批判している。
ジャーナリストで麗澤大学特別教授の古森義久氏は、国連の存在意義を疑問視する考えを持っている。「アメリカ全体が、国連に対して尊敬していない。民主党系の人も、国連は大した機能を果たしていないと軽視しているが、トランプ氏はとくに国連が嫌いだ。国連側とトランプ氏は、互いに悪口雑言を言っており、敵対関係にある」。
そして「実際の紛争を国連が解決できないことは、アメリカ人はベトナム戦争や、ウクライナ、中東でわかっている。国連には『平和と安全』『各国の友好促進』『経済や文化、人道の問題解決』の3つの柱がある。難民救済などの人道面では役割を果たしているため、『平和と安全』で何もできていないからと、切って捨てることもない」とする。
国連という組織については、「日本との戦争に勝った国が作った。日本は国際社会で復活するために、国連加盟に向けて頑張った」としつつ、「日本には国連に対する“美しい誤解”があり、実際よりも力を持っていると思っている」とも指摘する。
どのような“誤解”なのか。「“国際連合“は誤訳で、本来United Nationsは“連合国”だ。“国際連合”と聞くと、主権国家の上に、それを押さえつける連合体があるような印象を与える。主役はあくまで主権国家で、国連は貸席でしかない。『平和と安全』に対して、国連は何もできないとわかった上で付き合えば良い」。
元国連日本政府代表部の特命全権大使で、現在は国際基督教大学・特別招聘教授の吉川元偉氏は「世界は主権国家によって構成されているが、国連は主権国家と違い、領土も人口も資金もない。徴税権も軍隊もなく、国連憲章だけがある」と説明する。「難民を助けるなどのために、加盟国が資金を援助したり、軍隊を動員したりする場を国連は提供する。それを利用するかは構成国の意思だ。それがない時に国連は機能不全に陥る。国連が“打ち出の小づち”のように、いろいろなものを出せると思ったら大間違いだ」。
■国連の存在意義は何か

吉川氏によると、1956年の日本の国連加盟時には、「世界が“平和愛好国”として受け入れてくれたと、新しい希望に燃えた」という。「当時の気持ちを思いだして、『豊かな国が豊かでない国を助ける』『戦争がないようにする』ことを目的にする。国連は第3次世界大戦を防ぎ、難民問題や開発で成果を出している。日本は平和愛好国として、途上国や貧しい国を助けるために外交している」。
一方で「国連の評価は国によって違う。アフリカやアジア、ラテンアメリカでは、医療や教育で『いいことをしている』と言うが、日本では恩恵を感じていないと言われるかもしれない」と語る。
また、「比較的豊かな国々が、貧しい国々を底上げするおかげで、観光や貿易が栄える。これらが、大きい意味で日本のイメージ作りになる。金銭には換算しづらいが、日本の好感度を支える一部として、国際機関を通した活動もある」との見方も示す。
古森氏は、日本における「国連万能主義」に警鐘を鳴らす。「『国連軍が駐留すれば日本独自の防衛は要らない』『外交は国連に従えばいい』といった誤解をたださなければいけない。国連は日本にとって芳しくない行動も取ってきた。人権理事会が任命した特別報告者が『皇室の男系優先は女性差別だ』『日本の女子学生の13%が援助交際している』と報告したこともある」。
加えて、人権理事会の課題について、「50カ国近く参加しているが、人権弾圧を自らやっているとされる中国やキューバ、ベトナムなども入っている。それは自国に対する国連の批判をかわすためだ」と指摘する。
具体例として「日本が拉致問題をめぐり、北朝鮮を非難する決議を出した。その時、過半数は通過したが、約20カ国が反対・棄権した」と紹介し、「特別報告者が『日本には報道の自由がない』と断定した。錦の御旗のもとで、あがめてしまう人もいるが、客観的に見た方が良い」と求めた。 (『ABEMA Prime』より)