ロシアによる選挙介入が指摘されていた東ヨーロッパのモルドバ議会選挙で、親欧米派の与党が勝利した。ただ、野党を含む親ロシア勢力は「選挙結果を認めない」と反発し、抗議デモを行うなど国内では混乱が広がっている。
選挙でのニセ情報拡散から破壊工作まで?
まず、モルドバで行われた議会選挙の概要を整理する。親欧米路線が継続されるかに世界の注目が集まった選挙だった。
先月28日に実施されたモルドバ議会選挙で、親欧米派の与党「行動と連帯」が得票・議席ともに単独過半数を獲得し、親ロシアの野党連合「愛国者ブロック」を上回った。
この結果を受けて、新欧米派のサンドゥ大統領は「ヨーロッパへの道こそ我々が進むべき道だ」とSNSで勝利宣言を行った。
ただ今回の選挙を巡っては、ロシアによる大規模な選挙介入があったという指摘が相次いでいた。
例えば、BBCによると、SNS上のネットワークでニセ情報の拡散を依頼する動きがあったといい、ロシアとつながるモルドバの非政府組織は、親欧米派のサンドゥ政権について「選挙結果の改ざんを計画している」「児童人身売買に関わっている」などの偽情報をSNSに書き込めば、報酬として日本円にして月約2万5000円を支払うと約束していたという。実際に、SNS上には現政権を中傷する書き込みが拡散されていた。
また、こうした選挙妨害に資金を提供しているとされているのが、ロシアに亡命中の親ロシア派の大富豪ショール氏だとされている。ロイター通信によると、ショール氏は8月「反政府デモに参加すれば月額約44万円を提供」するなどと提案したという。
朝日新聞によると、モルドバの平均給与は月約10万円で、その4倍以上という破格の金額を提示するなどしてモルドバ国内に「反政府」の機運を醸成する狙いがあったという。
またモルドバ情報保安局によると、GRU(ロシア軍参謀本部情報総局)の職員がモルドバ国内で破壊工作に関与し、選挙期間中に政情を不安定化させる活動を行っていたことも確認されたという。こうしたことから、投開票前からロシアによる選挙介入が疑われていた。
では、今回の選挙結果をロシア側はどう見ているのか。ロシア側は選挙の正当性を疑問視している。
ロシアのペスコフ大統領府報道官は「ロシア国内には投票所は2カ所のみ」だったとし「(ロシアに住む)数十万人ものモルドバ人はロシアで投票する機会を奪われた」として選挙結果を疑問視している。
親ロシア派で野党を率いるドドン前大統領もSNSで「選挙結果は認めない」として支持者に抗議活動を呼び掛け、実際にデモが行われるなど、親ロシア勢力による反発が強まっている。
モルドバ攻略 ロシアの狙い
プーチン政権がモルドバにこだわる理由は、ウクライナ侵攻後の対ヨーロッパ戦略に関わっているとされる。
モルドバは旧ソ連を構成した15の共和国の一つで、1991年のソ連崩壊に伴って独立したが、その後も「親欧米派」と「親ロシア派」の間で政権交代が繰り返されてきた。
2020年に親欧米派のサンドゥ大統領が就任し、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻直後にEUに加盟申請を行った。またモルドバはNATOの演習にも参加するなどしていて、ロシアとの緊張関係が続いている。
ロシアの狙いは何か。ブルームバーグによると、ロシアは今回の選挙に介入することで、モルドバのEU加盟を妨害する計画を立てていたという。
また、アメリカの「戦争研究所」の分析では、モルドバを軍事的に中立化させることで、西側諸国がアクセスできない「緩衝国家」にしたいといい、モルドバでの空域使用を制限することで他国の航空機などがモルドバ上空を飛べなくなるため、NATOのロシアへの抑止力が制限を受けるという。
親ロシア地域が新たな火種に
モルドバには“親ロシア派の牙城”とされる地域が2つあり、その動向が注目されている。 ウクライナとの国境沿いに「沿ドニエストル共和国」、そして南部に「ガガウズ自治区」があり、ロシアが強い影響力を持つとされる。 そんななか、ロシアのプーチン大統領は「ガガウズ自治区」の代表に接近していて、新たな火種になるとの見方も出ている。
まず「沿ドニエストル共和国」だが、ここはロシア語系住民の多いドニエストル川沿いの地域で、1990年に「沿ドニエストル・モルドバ共和国」として一方的に独立を宣言したが、国際社会は承認していない。
旧ソ連地域の社会情勢に詳しい、北海道大学・服部倫卓教授が去年訪問した際に撮影した写真には、行政府にはロシア国旗が掲げられており、庁舎の前にはレーニン像があるほか、この地域にはロシア軍も駐留しているという。
続いて、プーチン大統領が接近する動きを見せている南部に位置する「ガガウズ自治区」。
こちらも服部氏が去年訪問した際の写真だが、この地域の行政府の前にもレーニン像があるのが分かる。
ここは、ロシア正教を信仰する住民が多く、歴史的に親ロシア的な傾向が強い地域で、一時はモルドバからの独立を試みたが、1994年にモルドバ議会がこの地域を「自治区」と認めたことで、モルドバ国内にとどまることになった。
2023年の首長選では、当時無名だった親ロシア派候補のグツル氏が当選したが、これはロシア側が支援した結果とされていて、首長に当選した後にはプーチン大統領とも面会するなど、ロシアとの関係を深めている。
一方で親欧米派のサンドゥ大統領とは対立しており、グツル氏は3月に身柄が拘束され、ロシアによる政治介入を支援した疑いで、8月には懲役7年の判決が言い渡されている。
そんななか、アメリカがウクライナ支援の強化を検討していることが明らかになった。ヨーロッパ側の要請を受けたものだとされる。
アメリカのバンス副大統領は、FOXニュースのインタビューの中で、アメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」をウクライナに供与する可能性について聞かれて、「ヨーロッパ側からいくつかの要請を受けて検討している」と明かし、最終的にはトランプ大統領が判断を下すと説明している。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年10月1日放送分より)