訪日外国人が増え、日本国内でも外国人客が払おうとする“チップ”をどうするか対応に迫られている。日本では扱いに困惑する店も多いが、テレビ朝日の前アメリカ総局長である中丸徹氏は「アメリカ人はお金以外での感謝の伝え方を知らない。チップの意味を知れば、トランプ大統領の暴挙ともいえる一連の関税措置の意味もざっくりわかる」と語る。
中丸氏は「日本人にとってなじみがないが、海外旅行では経験するだろう。とくにチップが高いのはアメリカで、そこにはある文化がある。トランプ氏を理解するにも、ここを押さえておきたい」と語る。
アメリカでチップが必要とされる場所は「レストランやラーメン店、ホテルのベッドメイキングなど。ウーバーも配達してくれる人がいる。人に何かをしてもらったときにはアメリカではチップを渡すのが一般的で、アプリの中にチップを支払う機能が入っている」と説明する。
また、タクシーなどに加えて、「高いのは美容院・理髪店だ。髪を切ると100ドルくらいで、チップ20%で120ドル。チップだけで日本円で3000円くらいになる」。しかも髪を切る人とシャンプーする人にそれぞれ渡す必要がある。「その人のサービスに対する返礼のため、人ごとにかかる」。
駐車場では「誘導係へのチップは、駐車場代とは異なり、この時だけ現金で払う。普段はキャッシュレスでも、現金がないと『チップがないのか』となるため、チップのためだけに現金を持っている時もあり面倒くささがある」という。
チップの相場は「だいたい総額の20%」だ。「2012年に初めてアメリカへ行ったときは、15%が相場だと言われたが、2020年に再訪したら20%だった。すべての物が1.2倍になっている。物価が10%上がり、そこにチップが乗る。日本人は円安で1.5倍をかけると、日本円換算で2倍になる。高く感じる要因の1つにチップがある」。
チップを払わず追いかけられる人もいるそうだ。「サービスが悪く、それを示そうと『ゼロだ』と書いておいていったが、追いかけられた。チップがウエーターの収入の6〜7割を占めている。サービスが悪いと言っても、チップがもらえないと暮らせない。店とウエーターと自分が分かれてしまっている」。
チップはそもそも、どのように始まったのか。成り立ちについては「ヨーロッパで始まり、アメリカに輸入された。中世ころから習慣があり、貧富の差があるため心付けとして始まった」と紹介しつつ、「ヨーロッパでは10%程度が相場だが、アメリカは20%と大きくなってしまっている」と話す。
そして、アメリカで高額化した背景には「アメリカやトランプ大統領を読み解く核心」が秘められているという。アメリカは「移民の国」「一期一会の国」だ。「ヨーロッパやアフリカ、アジアといろいろな国から移民が自由を求めてやってくると、文化が別々で共通認識がない。日本では『ありがとう。今度メシでも』と言われてそれも感謝の一つだと思うが、具体的なスケジュール調整がないと『行かないやつだ』となる。アメリカではそれぞれの文化が違いすぎて、本気と建前が通用しない。みんな共通の価値観である“お金”で対価を払わないと、感謝が伝わらないところがある」。
「一期一会の国」については「国土の広さもあり、一度関係性ができた人と、また会うとは限らない。ここで親切にして、信頼関係ができても、二度と会わないかもしれない。『ここでのサービスは、今返してほしい』と刹那的なところがある」と説明する。
「英語という共通言語よりも、お金で結びついている。『サービスしたら、その分返してほしい』『何ドルの価値があるのか、お金で示して欲しい』。日本人には抵抗があるが、アメリカ人はむき出しで評価されたい。言葉にすると極端だが、お金を払うこと以外で、感謝を示す方法が見当たらないと理解していい」
では、この価値観が、どのようにトランプ氏に関係するのか。「トランプ氏はディールが大好きで、今も『関税をよこせ』となっているが、アメリカ人の損得勘定を理解すると、なぜディールを求めてくるのかわかる」。
中丸氏によると、「敵対国にも友好国にも厳しいのは、アメリカ人の金銭感覚がある。トランプ関税は基本一律10%に、相互関税として15%以上を上乗せする。日米同盟についてトランプ氏は『日本の交渉者は天才的だ』と言った。アメリカは有事になれば日本を守るが、日本はアメリカを守らない」
「日本からすれば『在日米軍がいて、基地を提供している』『そもそもアメリカがアジアで存在感を示すために日米同盟があるのでは』として、全然不平等ではないという考え方があるが、トランプ氏は考えるスパンが短い。『自分の任期の4年でどうなるか』サービスしている分、国を守っている分は関税や投資で返して欲しい」と短いスパンで考える発想で、一期一会的だという。
トランプ氏は「アメリカは外国から搾取され続けてきたが、相互関税によって解放される」と発言している。「アメリカのための同盟でも、トランプ氏は金銭的な信頼関係を感じられない。1対1の相互関税により、金銭で取り戻す。それによってバランスがとれる、これがチップに通じるトランプ氏の損得勘定だといえる」(中丸氏)。
中丸氏は「トランプ氏の任期中にも、相互関税によるインフレが進み、消費者に負担がかかるなど、アメリカにとって良くないことが起きるのではないか」と予想している。「しかし、トランプ氏はそのスパンで考えていない。まずは“アメリカの強さ”を関税で返してほしいという発想になっていて、そこが今後のポイントになってくる。10〜20年でアメリカを衰退させるのではという指摘もある」と解説した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)