アメリカ最大都市であるニューヨークの市長選の投開票が4日に行われ、民主社会主義者を自称するマムダニ氏が、イスラム教徒として初当選を果たした。34歳のマムダニ氏は選挙戦で、平均50万円以上と高騰する家賃の値上げ凍結、バスの無料化、時給4500円の実現などを掲げ、財源を富裕層からの増税で賄うと主張。平等や富の分配を重視し、反トランプを前面に打ち出した。「ABEMA Prime」では、ニューヨーク在住のジャーナリスト・冷泉彰彦氏に、マムダニ氏の人物像、選挙戦略、さらに支持者たちが抱える不安や課題について聞いた。
■34歳のイスラム教徒 話題のNY新市長・マムダニ氏

民主党所属のマムダニ氏は無所属のクオモ氏、共和党のスリワ氏と争い、得票率50.4%(103万6051票)を獲得して当選。34歳という若さ、さらに初のイスラム教徒ということもあり、世界中でも大きな話題になった。冷泉氏は、マムダニ新市長誕生の瞬間は「割と平静だった」とし、「すごく熱狂的でもなく、世論調査でも彼が勝つことはかなり見えていた」と、話題性に対して、そこまで大きな盛り上がりではなかったと伝えた。
マムダニ氏の選挙戦略はいかなるものだったか。注目されたのはSNS戦略だ。「彼の妻が映像作家で、上手にショート動画を作ってガンガン流していた。これが本当に若者に受けた。逆に言えば、高齢者の人たちはTikTokなどあまり見ていないので、自分たちが知らない間に、何が起きたんだろうという感じもあった」と解説した。人柄の良さも動画を通して広く伝わったといい、これにも「本人が演じていたところもあるだろうし、妻の映像の撮り方がすごく上手。あたかも(有権者が)自分に対して、すぐ隣りにいて、語りかけてくるような作り方だった」と評価した。
マムダニ氏はアフリカ・ウガンダ生まれ、インド系移民のイスラム教徒。多様性の象徴のような存在が、ニューヨーク市長に選ばれたことにも意味がある。「ニューヨークはパレスチナ問題などで分断もあったが、やはりトランプ氏がしていることへのアンチがものすごく渦巻いている。トランプ氏のやり方の正反対を選べば、自分たちのアイデンティティが取り戻せるというものが大きかったのではないか」。
ニューヨークでは物価が高騰し、庶民では住めないほどの家賃になっている。マムダニ氏が、ニューヨークを庶民に取り戻すとも主張してきた。この言葉はどう響いたのか。「ニューヨークは複雑な街で、コンピューターや金融関係など、高収入の労働者も多い。サービス業や外食産業などのエッセンシャルワーカーは、もうニューヨークに住めず、遠距離から通勤している。ただし、知的な労働をしている人たちも、将来に不安を抱えている。それはAIが自分たちの職を奪うのではということ。その不安が大きなうねりになった。アメリカのデジタル推進によって、その先にある未来で自分たちはどうなるのかと、若者の不安や怒りが爆発している」。
■庶民を救う政策、現実味は?

庶民を救うという公約をいくつも挙げているマムダニ氏。その実現度は、いかなるものか。まず庶民の生活に直結しているバスの無料化だが「アメリカには通勤手当がなく、自分で(交通費を)払う。これを毎日払う、払わないでは大違いだ」と語る。また生後6週間から5歳までの子ども全員を対象にした無償保育は「託児所に補助金などがなく、本当に実費プラス保険料など、ものすごい金額になっている。日本でいえば年収700〜800万円ぐらいの人で、普通に通勤して子どもを託児所に預けたら生活が成り立たない。本当に切実な課題だ。ベビーシッターならさらに高く、1カ月で1000ドルや1500ドルということもあり、働いている分だけどんどんお金が出ていくようなものだ」と実態を紹介した。
公約実現のために、財源は富裕層の増税を見込んでいるが、実際には可能なのか。「市税で所得税を増税することはなかなかできないので、固定資産税をものすごく上げていくような形になる。ただし本当にできてしまうと、逆に不動産相場が下がっていくことにもなる。ニューヨーク全体のその不動産の価値が下がっていくと、街全体の価値がものすごく失われるので大きな問題になる」と懸念を示す。
その上で実現に向けてどう動くか。「託児所の無償化、バスの無料化などは、ある程度お金を用意してやるのではないか。バスの組合なども支持している。問題は家賃。富裕層に対するものすごい課税を、ニューヨーク独自でやるのはものすごく大変。公約の半分も実現できないとは思うが、実現できない場合は必ずトランプ氏や連邦政府から圧力があり、それを相手にチャンバラが始まるので、その間は『お前、できないじゃないか』と言われないので、支持は落ちない。その間にバスの無料化と託児所の無償化をすれば、2年ぐらいはもつのではないか」。 (『ABEMA Prime』より)
