悪化する日中関係。事態の沈静化に向けた糸口を探るため、外務省幹部が17日、首都・北京へ向かいました。18日、中国外務省の幹部との会談を予定しています。
22日から開かれるG20サミットで、高市総理が李強首相と直接会談し、落としどころを探るというプランも描いている日本。外務省幹部の訪中は、その地ならしの意味合いもありそうです。
ところが、中国外務省は17日夕方の会見で、こう述べました。
「(Q.週末のG20で李首相は高市総理と会いますか)李強首相は、日本の指導者と会う予定はありません」
詳しい理由の説明はありませんでしたが、17日も高市総理への批判を繰り返しました。
「高市総理は、中国人民の感情を深く傷つけ、中日人的交流の雰囲気を深刻に損ねた」
高市総理の国会での発言に激しく反発する中国。
「台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くようなことのために、どういう手段を使うか。いろんなケースが考えられると思います。だけれども、それが戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これは、どう考えても、存立危機事態になりうるケースであると考えます」
それは、台湾有事の際に、自衛隊が武力介入する可能性もあるということ。法律上は、可能性がある話ですが、歴代の政権が言及を避けてきた内容でもあります。
高市総理は、発言を撤回しない考えで、中国は、対抗措置の発動を始めました。
「最近、日本の指導者は、台湾に関する挑発的発言で、中国・日本、両国民の交流を著しく悪化させ、在日中国人の安全に重大な危険をもたらしている。中国文化観光省は、当面の間、“日本旅行自粛”を厳重に呼びかけた。日本に滞在する中国人は、現地の治安を注視し、安全意識を強化すべきである。緊急時には、速やかに警察へ連絡し、在日中国大使館または領事館に支援を求める」
また、中国教育省は、日本への留学を慎重に検討するよう求める通知を出しています。
中国の旅行会社に話を聞きました。
「団体旅行を多く取り扱っているが、週が明けて、日本行きの旅行に、かなり多くのキャンセルが出ている。客がいなくなるので、今後、日本向けのプランは、ほぼすべて中止になるだろう」
「留学や観光を含む、二国間の人的交流を萎縮させるかのような、今回の発表については、首脳間で確認した『戦略的互恵関係の推進』あるいは『建設的かつ安定的な関係の構築』そういった大きな方向性とも相いれないものと考えております。中国側に対しては、申し入れを行い、適切な対応を強く求めたところです」
いまのところ、事態が沈静化する兆しはありません。
「高市総理は、中国と事を構えたいわけではないが、中国側の温度感が、異常なぐらい上がっている」
その温度感は、市民にも浸透しているようです。
「国家としては、反論しないといけない。中国と日本の実力は、30年前とは全然、違いますから。日本が、内政に介入してきたら、昔の仇をとるいいチャンスです」
「(高市氏の発言は)狂気じみています。制裁すればいい」
「(Q.G20で、李強首相は高市氏と会わないと中国外務省が述べたが)もちろん支持します。日本側は、あの発言の重大さを認識していない」
一方、尖閣諸島周辺の日本の領海には、16日、中国海警局の船4隻が、相次いで侵入しました。領海への侵入は、これまでもあったことですが、今回の特徴は、海警局がSNSを通じて、その活動を発信したことです。
「これは、中国海警局が法に基づいて行った主権を守るパトロールです」
国内外に向けて、日本への圧力を強めていることを示す狙いがありそうです。
影響は民間交流にも出ています。
日中の有識者が、外交・安全保障や経済を議論する『東京−北京フォーラム』は、開催を目前に控え、延期が決まりました。
「(中国からの)レターによると、『高市総理が、台湾問題に関して、挑発的な発言と武力威嚇を行い、中国側が厳重に抗議した後も、誤った立場を撤回しなかった』と。日本側の実行委員会としては、目前の延期決定は、極めて異例で残念。今回は、中国側がホスト役なので、決定を受け止めざるを得ない」
このフォーラムは、2005年に始まって以来、毎年、開催されてきました。2012年に日本が尖閣諸島を国有化し、日中関係が著しく悪化したときでも、維持されてきた枠組みです。
「あの尖閣のときの、2012年をはるかに上回る、強いメッセージがあると受け止めざるを得ない」
17日の東京株式市場では、日経平均株価が、一時、節目の5万円台を割り込みました。
百貨店や航空会社など、日本を訪れる中国人が減少した場合に影響を受ける可能性がある企業が、総崩れとなったためです。中国での売り上げ比率が高い企業も値を下げました。
夕方、官邸では経済団体のトップが高市総理と面会。この場では、日中関係に関する話題は出なかったといいます。
「私ども経済、ビジネスですから、交流の前提は、政治の安定だと思う。意思疎通、対話を重ねる。双方が解決に向けて進んでいく。これに尽きる」
しかし、事態は、さらに深刻化する可能性も出てきました。
北京にある日本大使館は17日夜、中国にいる日本人に対し、安全確保に努めるよう呼びかけました。外出の際には、周囲の状況にくれぐれも留意し、特に、親子連れは、十分に対策を取ることなどを求めています。
◆連日、中国政府は、国民に向けて、さまざまな注意喚起を行っています。
中国外務省は14日、「日本で中国人が襲われる事件が多発している」として、日本への渡航を避けるよう注意喚起しました。
香港当局は15日、日本への渡航を計画する市民に対し、警戒を強めるよう、注意喚起を行いました。
中国教育省は16日、在日中国人の安全リスクが高まっている」として、国民に対し、日本への留学を慎重に検討するよう通知。中国文化旅行省は、国民や旅行会社などに対し、日本への旅行を自粛するよう通知しました。
◆中国側の狙いは、どこにあるのでしょうか。
中国と台湾との関係を専門とする東京大学の松田康博教授に聞きました。
松田教授は「中国は、いざというときには観光客を“経済制裁の手段”にする。つまり、今回の“注意喚起”で、実際に渡航できなくなる人もいるだろうから、日本への経済制裁になる。ただ、今回のやり方は、いかにも強硬に見えるが、実は、ウラで逃げ道を確保しているようなやり方。水産物の輸入を止めたときも、輸入再開まで時間がかかった。行政手段で完全に“渡航禁止”にすると、再開するのが難しくなる。今回、“注意喚起”や“通知”にとどめることで、個人や旅行会社などの判断にゆだねる形をとっている。振り上げた拳を自然にいつでもおろせるやり方だ」と指摘します。
◆習近平主席は、どこまでかかわっているのでしょうか。
松田教授は「台湾問題は、どの指導者でもまったく妥協ができない問題だが、習主席が『徹底的に日本に教訓を与えろ』と言っているとしたら、もっと強い制裁になるのではないか。いまのところは、習主席の顔色をうかがいながら、下の人間が選んだ手段を追認しているのではないか」としています。
◆日中関係の冷え込みは、いつまで続くのでしょうか。
松田教授は「短期間での解決とはならないが、お互い“手を打とう”という状況が出てくる可能性もある。いまは、アメリカとの貿易摩擦もあり、中国の経済状況は厳しい。 さらに日中関係が冷え込めば、投資も落ち込み、中国経済への打撃も少なくない。例えば、中国で来年秋に開催されるAPEC深センサミットでの“手打ち”を目標とすると、来年夏ごろが一つのメドではないか。ただし、高市総理の靖国参拝や、何らかの対抗手段を取るなど、中国を刺激するような行動を日本がしなければということが条件になる」と指摘します。






























