アメリカのトランプ大統領がサウジアラビアの皇太子と会談し、F35戦闘機の売却を承認すると表明した。狙いはどこにあるのか?
サウジアラビア F35購入へ
異例の厚遇となったムハンマド皇太子の訪米。7年8カ月ぶりの訪米を国賓級の待遇でもてなした。
18日、トランプ大統領はホワイトハウスでサウジアラビアの実権を握るムハンマド皇太子と会談。そこで「戦略的防衛協定」に署名し、トランプ大統領は、サウジが求めたF35戦闘機の売却を承認した。
さらにその後の晩餐(ばんさん)会で、トランプ大統領は、サウジをNATO非加盟の主要同盟国に指定すると表明した。
このF35は、ステルス性に優れたアメリカの最新鋭戦闘機で1機あたりおよそ155億円といわれている。
中東で保有しているのはイスラエルだけで、サウジへの売却は大きな政策転換となり、イスラエルが優位な中東の軍事バランスにも影響するとみられている。
アメリカ側の狙いは?
では売却を明言したトランプ大統領の狙いはどこにあるのか?
トランプ政権は1期目から、アブラハム合意と呼ばれるイスラエルとアラブ諸国との国交正常化の枠組みを進めてきた。これには、バーレーン、UAEなどが署名した。
地図で見てみると、イスラエルは、アラブ諸国に囲まれている。中東研究センター主任研究員の近藤重人さんによると、「アラブの盟主であるサウジに拡大すれば、イスラエル周辺の安全保障環境が抜本的に改善する」という。
過去にアメリカを仲介としてイスラエルとサウジの国交正常化に向けた動きが進み、2023年9月にムハンマド皇太子は、アメリカ・FOXニュースのインタビューに「日々(合意に)近づいている」と発言していた。
しかし、翌月、ガザ地区での戦闘が始まり、サウジはイスラエル非難に転じ、交渉は凍結状態になった。
そして今年1月、2期目のトランプ政権が発足。改めてサウジを引き込みたいトランプ大統領には、F35売却を交渉材料とする思惑もあるとみられている。
18日、トランプ大統領との会談で、ムハンマド皇太子は、合意に前向きな考えを示す一方、パレスチナ国家樹立による「2国家共存」が条件とも語った。
サウジと中国の関係に米側懸念も
一方で、アメリカ国内から懸念も示されている。2022年12月、中国の習近平国家主席とサウジのサルマン国王、ムハンマド皇太子が会談し、戦略的包括協定に署名。
当時、サウジはアメリカのバイデン政権と人権や原油の生産政策などを巡って溝があり、中国にはサウジとアメリカの友好関係にくさびを打つ狙いがあったとされ、現在も両国は一定の軍事協力関係にある。
こうした現状がある中でのF35の売却に関し、ニューヨーク・タイムズによると、国防総省傘下の国防情報局が報告書に、サウジにF35を売却すれば、中国がサウジとの協力関係を利用するなどして。F35の技術が中国に流出する危険があると警告しているという。
目標は世界的な AI輸出国
サウジアラビアは脱石油で「AI立国」を目指している。そのサウジの「AI」を巡り米中の覇権争いも…。
脱石油を目指すサウジアラビアが成長戦略の柱に据えているのがAI=人工知能だ。
石油依存脱却と経済多様化を目指すサウジの国家戦略「ビジョン2030」によると、AI分野のインフラに数十億ドルの投資を行い、世界的なAI輸出国を目指すという。
こうした中、ムハンマド皇太子は、5月にAI開発・管理会社「ヒューメイン」を設立。政府系ファンドのもとで運営されることに。
ブルームバーグによると、ヒューメインのアミンCEOは、サウジをアメリカと中国に次ぐAIインフラ供給国にする目標を掲げている。
AI巡り米中覇権争いも
こうした中、サウジに食い込んだのが中国。ロイター通信によると、2022年にサウジ政府と中国の通信機器大手ファーウェイとの間でハイテク施設に関する覚書が締結され、翌年の2023年、サウジにAIデータセンターが開設された。
一方、サウジも中国に投資。フィナンシャル・タイムズによると、サウジの石油大手サウジアラムコのベンチャー部門が、中国の生成AIの新興企業におよそ620億円を出資するなど、協力関係を深めていた。
こうした中、アメリカも対抗措置を講じていた。アメリカ商務省は5月、世界のどの国でも、ファーウェイが開発したAI半導体「アセンド」を使用した場合、アメリカの輸出管理規則に違反するとの指針を発表。中国製AI半導体がサウジに流入することを牽制(けんせい)していたという。
一方、ムハンマド皇太子の訪米で、アメリカとの関係は大きく前進。
ブルームバーグによると、アメリカは、これまで規制していた最先端半導体の販売を、ヒューメイン社に承認する方針を示した。
関係者によると、承認は、アメリカ・サウジ間のAI分野の包括的な協定の一環として行われるという。アメリカ半導体大手のエヌビディアなど、サウジや中東への供給を目指すアメリカ企業にとっても、承認は追い風になるという。
日本のゲームカルチャーに関心
サウジでは、日本のゲームカルチャーなどに関心が高いようだ。
中東協力センターによると、先月13日から31日にかけてのおよそ3週間、東京で、次世代のサウジのゲーム開発者を育成する研修プログラムが開催された。
ゲーム開発の基礎を習得済みの若手開発者が、プロフェッショナルとして自立するためのスキルを日本ゲームの第一人者が指導するというもの。
サウジからの参加者は「ゲーム業界の素晴らしい人々と出会えた」「プロフェッショナルな仕事ぶりに接した」などの声が上がっていた。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年11月20日放送分より)









