台湾めぐり米中電話会談
中国・四川省成都市で25日、サッカーのAFCチャンピオンズリーグエリート第5戦が行われ、日本のサンフレッチェ広島と成都のチームが対戦。続々と集まる中国サポーターですが、日本のサポーターの姿はありません。実は、この試合、安全上の理由から、日本側は、専用のバスによる入場を義務付けられていたからです。
日中双方の緊張が高まるなか、24日、習近平国家主席とアメリカのトランプ大統領による電話会談が行われました。
「習近平国家主席は、台湾問題における中国の原則的な立場を明確に述べて、台湾の中国への復帰は、戦後国際秩序の重要な構成要素であると強調した」
そのうえで、日本を念頭に次のような言葉も出ました。
「中国と米国は、ともにファシズムと軍国主義と戦ってきた。そして、いまこそ、第二次世界大戦の勝利の成果をともに守るべきである」
中国側の発表は、米中が同じ価値観を持っていることをアピールし、日米関係にくさびを打ち込む狙いもあるとみられます。
一方、会談後、トランプ大統領は自身のSNSに、こう記しました。
「いま中国の習主席と有意義な電話会談を終えたところだ。ウクライナとロシア情勢、フェンタニル、大豆などの農産物、多くの課題について意見を交わした。中国との関係は、非常に強固だ!」
トランプ大統領は、台湾問題について触れていません。
今回の電話会談について、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは、習主席の呼びかけで行われた“異例”のものだったと伝えています。しかし、中国側は、こう述べました。
「(Q.電話会談は、中国側の求めによるものか、それともアメリカ側の求めか)私の知る限り、アメリカ側からの呼びかけです」
今回、習主席が台湾問題を議論したかったのに対し、トランプ大統領がウクライナ問題の話で交わしたとも報じられています。
そもそも、トランプ大統領は、習主席との関係改善に前のめりで、台湾問題について言及してきませんでした。
両首脳の関係そのものは良好のようで、24日夜の電話会談のあと、トランプ大統領は、来年4月に北京を訪問することで合意したと発表。さらに、習主席も、来年中にアメリカを公式訪問すると明らかにしました。
その数時間後、今度は、トランプ大統領が動きました。
アメリカ側からの呼びかけで行われたという日米の電話会談。
「先ほど、トランプ大統領からの申し出で、電話会談を行いました。トランプ大統領からは、昨晩の米中首脳会談を含む、最近の米中関係の状況について、説明がありました。トランプ大統領からは、私とは極めて親しい友人であり、いつでも電話をしてきてほしいとの話がありました」
会談は、約25分という短時間でしたが、政府関係者によりますと、米中電話会談の終了直後に調整が始まったといいます。
台湾問題についてやりとりがあったか問われると、こう述べました。
「会談内容は、外交上のやりとりなので、詳細は差し控えさせてください」
垂秀夫前駐中国大使に聞く
2年前まで駐中国大使を務め、最前線で中国と向き合ってきた、垂秀夫さんに話を聞きます。
(Q.日中関係が台湾の問題できしむなかで、米中のトップ同士が電話会談をしたことに驚きました。習主席の狙いはどこにありますか)
「今、日本と中国の間で台湾問題、高市総理の発言をめぐって問題が起きている時に、習主席自らが動くのは非常に珍しいことだと思います。今、中国側の発表しか根拠にできるものがありませんが、それを見て分析・推測すると、主に2つのことが議論になったのだと思います。1つは韓国・釜山でのAPEC。これが非常に良かったので、トランプ大統領だけが前のめりではなくて、習主席もディールがしたい。双方痛み分け的にディールする必要があると思っている。そこを確認し合って、来年4月の訪中要請になったと。もう1つは台湾問題。この2つが話題になったことは確かに言えると思います」
24日に行われた習主席とトランプ大統領の電話会談。中国側の発表によると、習主席は「台湾の中国への復帰は戦後の国際秩序の重要な構成要素だ」と強調、トランプ大統領は「アメリカは台湾問題が中国にとって重要だと理解している」と応じたということです。一方、アメリカ側は、トランプ大統領が「中国との関係は非常に強固だ」とSNSに投稿したものの、台湾には言及していません。
(Q.中国側の発表ですが、台湾問題をめぐる習主席の発言、それからトランプ大統領の『理解している』という言葉をどう受け止めますか)
「まず1つ言えるのは、習主席がこの問題に極めて関心を持っていること。習主席自らが、ここまで詳しく台湾問題を取り上げているという意味においても、非常に重さがある。そういう意味もあって、外交部の関係者があそこまで日本たたきをすることも理解できます。習主席自らの問題になっていて、誰も抑えられないと言えると思います。もう1つは、ここで言っている内容は問題のすり替えがあります。台湾の中国復帰云々はカイロ宣言・ポツダム宣言のことを言っているのだと思いますが、これは明らかに中国が一方的な解釈を行っているのであって、トランプ大統領がしっかり認識しているのであれば『悪いけど、アメリカは認識が違いますよ』と本当は言わないといけないんですが、多分トランプ大統領はそこまで理解されていないのでしょう。何も発言しなかったか、あるいは中国が言うように『そんなに中国にとって台湾が大事だということは私も理解はしています』みたいな言い方で終わってしまっているんですね。何がすれ違っているかというと、高市発言があの場でやったことがいいかどうかは少し置きます。少し置きますが、いわゆる戦艦が出て、武力行使まであった時点においては、あの文脈を見たら明らかですが、アメリカの台湾防衛があって、そのうえで存立危機事態、例えば日本にある米軍基地の使用の許可をするという話になるはずです。だから、アメリカの防衛が入っているわけです。ところが、習主席が言っているのは、もう完全に問題のすり替えをやっているわけですね。台湾の復帰云々の話は『米中も一緒になって戦って、一緒に作った戦後の秩序ですね』と。しかも、あの時の中国は中華民国です。明らかに問題のすり替えがあるわけです。こういうことは、かつてもあります。1997年に江沢民主席がアメリカを訪問した時、パールハーバーに行って、真珠湾攻撃で撃墜された戦艦に行って『かつて米中は同盟国だ』というような発言をしています。こういうふうにして、アメリカを自分のところに寄せようとしている」
(Q.日本をかつて共通の敵にしていたと刷り込む)
「そういうやり方をやっているわけですが、明らかに違う問題なので。これはよく見極めないと、ごまかされたらダメだと思いますね」
(Q.時系列で気になるのが、米中の電話首脳会談があって、翌朝になってトランプ大統領から高市総理に持ち掛けて電話会談が行われたということで、1つ遅れています。この流れはどういうことですか)
「私は元外交官という立場から申し上げれば、正直申し上げて、この順番は極めて残念だったと。この日中の間で、台湾問題において、影の主人公としてアメリカは本来あるわけですね。もちろん国会で忙しかったでしょう。G20に行かれる必要もあったでしょう。でも、日中の間でここまで問題になっている段階において、トランプ大統領に電話を掛けて意思疎通を図っておくということを、まず日本がすべきだったと、私はそう思います」
(Q.そうした色んな経過の中で中国がエスカレートしています。中国側が矛を収めることは考えにくいですか)
「中国側が発言の撤回を明確に求めているので、中国側自身がそれ以外のことで、何かをないがしろにするようなことは、今の時点では考えられないですね」
(Q.しかし、日本政府も発言を撤回しないという立場は一貫しています。そこは譲れないということになりますか)
「そこは最終的には総理自らが決めることだと思います。この発言をされたのも総理ですし、そういう意味においては総理が責任を持っていらっしゃいますが、私個人としては絶対に撤回してはいけないと。これは国の在り方が問われているわけです。中国から圧力があれば常に日本は屈してきたという、正直申し上げて、ここ近年来の歴史がある中において、高市さん、あなたまでもかと。そういうことになっては、もう日本の対中戦略は今後10年、20年組み立てることはできなくなると私は思っています。個人としてはですね。ただ、私は一個人、国民ですから、総理ではありませんので。私は撤回すべきではないと思います」
(Q.その発言の是非はともかく、言ってしまった、こういう事態になった以上、日本が簡単に折れる側に回っては絶対にだめだということですか)
「仰る通りです。これは国のあり方が問われているということになります」
(Q.日中関係について、垂さん自身が『戦略的互恵関係』という言葉を用いて、安倍政権の時に中国との関係をまさに戦略的にお互いにメリットがあるように築いていこうと提唱されました。今ここまで日中関係がひび割れを起こすというこの現実を見て、その認識をこれまでも持ち続けるべきなのか、あるいはまた違った視座が必要なのか。どう考えますか)
「私は前回ここに呼んでいただいた時も申し上げましたが『戦略的互恵関係』は当時は魔法の言葉だったんです。その後も、岸田政権ぐらい、石破政権ぐらいまではそれなりの魔法の威力はまだありました。高市政権の最初の時はちょっとあったんです。でも、戦略が入ってない戦略的互恵関係という言葉は、私が関わって構想を作ったということで、思い入れはあっても、正直申し上げて、いつまでもその言葉に頼っても新たな状況が生まれるわけでもないので、そこはもう一度、日本は中国に対して戦略を再構築すべき時代に来ているんだと思います」
(Q.その戦略の再構築ですが、日中間のことだけ考えればいいということではなくて、中国という非常にその難しい相手と色んな国が関わって苦労している国も多いわけですよね。視野を広げて、多層的に色んな関係を他国と築いていくことはあり得ますか)
「大越さんが言われた通りだと思います。我々にとって今後、もしこのままいった場合、つらい状況になるのは、まず米中が、もしかすれば私はそれなりの可能性が高いと思っていますが、ディールする可能性があります。そのディールの内容いかんによって、グランドパッケージでディールするのか、スモールパッケージでディールするかにもよりますけれども、米中がそれなりに近い関係に今もなりつつあるなかにおいて、それでも日本はこういう状況になって。我々はよく我々の生き方を考えないといけないという意味においてはつらいんです。ただ、それは短期的なディールなんです。我々が今求められているのは、中長期の戦略的な再構築です。その過程においては、例えばヨーロッパ、インド、オーストラリア、あるいはASEAN、このような国と、重層的な関係を構築していく必要があると思うんです。例えば今、蔡英文さんが、民間とはいえドイツに行ってシンポジウムに出て、すごい関係の状況になっています。日本の方はどうしても日中関係だけ見てますが、それはそれで大変な状況になっています。それからオーストラリア、あるいは韓国も中国から経済的威圧を受けて非常に厳しい状況がありましたが、みんな乗り越えてきました。日本はなぜ乗り越えられないのか。これはやはり我々が、我々としての国の戦略の再構築が問われているのだと思います」



















