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2025年11月26日 18:00

ロシアとウクライナの反応は? 和平案めぐり各国が駆け引き 米国案と欧州案

ロシアとウクライナの反応は? 和平案めぐり各国が駆け引き 米国案と欧州案
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 アメリカのトランプ政権が、ウクライナ和平に向けて“ロシア寄り”ともいわれる和平案を示す中、アメリカメディアはウクライナ政府がアメリカの和平案に大筋で合意したと報じました。ロシアは、どう対応するのでしょうか?

一部“ロシア寄り”?米国案の内容

 まずは、アメリカが提示した和平案の内容についてです。その一部が“ロシア寄り”ではないかとの指摘もあります。

 アメリカのニュースサイト「アクシオス(20日)」の報道によりますと、トランプ政権の和平案では領土問題について、ルハンシク州、ドネツク州、クリミア半島は事実上のロシア領として承認され、ザポリージャ州、ヘルソン州は前線に沿って凍結されるとしており、これが“ロシア寄り”とも指摘されています。

 ロシアとウクライナは、合意後は武力による変更を行わないことを約束するとしています。

 また安全保障面でも一部、ロシアに有利とみられる内容が含まれています。

 ウクライナ軍は現在80万〜85万人いるとされていますが、それを60万人以内に制限。またNATO(北大西洋条約機構)が拡大しないことを期待するとしており、ウクライナにはNATO軍も駐留しないとしています。

 そして、ウクライナが憲法に「NATO非加盟」を明記するとしています。

 ただ一方で、ウクライナに有利とみられる内容も、安全保障に盛り込まれています。

 ロシアには「ヨーロッパ及びウクライナに侵攻しない」と法的に明文化することが盛り込まれています。そして、ウクライナには信頼できる安全保障を受け、アメリカおよびNATOがそれを保証することや、再びロシアがウクライナに侵攻した場合には制裁を再発動させ、領土の承認などロシアにとってのすべての利益を取り消すとしています。

今後についても
今後についても

 そして、和平案にはウクライナとロシアの今後についても規定していて、ウクライナは100日以内に選挙を実施することが盛り込まれています。この選挙は、戦時下で延期されている大統領選挙のことと思われます。

 ウクライナ国内にあるザポリージャ原発はIAEA(国際原子力機関)の監督下で稼働し、電力はロシアとウクライナで均等に分配することとしています。

 また両国で異なる文化への理解を促進するとしていて、イギリスの「フィナンシャル・タイムズ(19日)」は、ウクライナ側がロシア語を公用語にする案なども挙げているといいます。

 経済分野では、ロシアを世界経済に再統合し、アメリカと経済協力協定を締結してG8(主要8カ国)へ復帰。また、凍結されているロシア資産およそ15兆6000億円は、ウクライナの復興・投資事業に投入され、それによって生じた利益の50%をアメリカが受け取るなどとしています。

 さらに、アメリカとロシアが新核兵器削減条約の延長などに合意し、この紛争に関与したすべての当事者が「完全な恩赦を受ける」とし、国際社会に非難された虐殺や連れ去りなども罪に問えないとしています。

 そして、一連の合意の履行は、トランプ大統領が議長を務める平和協議会によって監視・保証され、違反には制裁が課されるといいます。

反応は?
反応は?

 この和平案について、ロシアとウクライナは、それぞれどう反応したのでしょうか?

 「ロイター通信(21日)」によりますと、ロシアのプーチン大統領は「ウクライナとの紛争の平和的解決の基盤になり得る」としています。

 ただその一方で、ウクライナのゼレンスキー大統領は21日に、「尊厳を失うか、パートナーを失うリスクを負うか」として、領土を割譲するこの和平案をのめば国としての尊厳を失うが、拒否すればアメリカというパートナーを失うかもしれないという、極めて困難な選択を迫られるかもしれないと国民に呼びかけました。

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米国案と欧州案の違いは?

 アメリカの和平案にウクライナやヨーロッパ諸国は修正を求めてきました。欧州案と米国案の違いについて見ていきます。

2案の違い
2案の違い

 「ロイター通信(23日)」によりますと、イギリス、フランス、ドイツが起草した修正案では「領土問題」について、アメリカ案が領土の割譲を前提としているのに対して、ヨーロッパ案は現在の前線を起点に交渉を行うとしており、無条件で渡すのではなく、まず停戦しその後に交渉を始めるとしています。

 「ウクライナ軍の規模」については、米国案では60万人に制限するとしていますが、欧州案では「平時にはおよそ80万人に制限」と、現在の規模を維持する考えを示しています。

 また「NATOの拡大」について米国案が「拡大しないと期待する」としているのに対して、欧州案ではこの項目自体を削除しています。

 「ウクライナのNATO加盟」については、米国案が「憲法に非加盟を明記」するとしているのに対して、欧州案では「加盟国間の合意に基づく」としており、ウクライナがNATOに加盟する可能性が残されたものになっています。

和平後にも違い
和平後にも違い

 また、欧州案では和平後のロシアについて、凍結されたロシア資産はウクライナに与えた損害を賠償するまで凍結されたままにするとしているほか、世界経済への再統合については「徐々に」という文言が追加されています。

 そして「戦争犯罪への恩赦」については、その文言が削除されています。

アメリカとウクライナが協議
アメリカとウクライナが協議

 2つの和平案がぶつかる中で、アメリカとウクライナが協議を行いました。

 「フィナンシャル・タイムズ(24日)」によりますと、23日にスイスのジュネーブで開かれたアメリカとウクライナの高官協議で、28項目あったアメリカの和平案が19項目に絞り込まれたといいます。

 また「ロイター通信(25日)」によりますと、ゼレンスキー大統領は和平に向けた有志連合の首脳会議で、和平案について「合意を進める用意がある」と発言したといい、近くトランプ大統領と協議する可能性が指摘されています。

 25日、そのトランプ大統領は「和平案は双方の追加意見を取り入れて調整され、残る意見の相違はわずかとなった」とし、和平案を最終決定するため「ウィトコフ担当特使にモスクワでプーチン大統領と会談するよう指示した」とSNSに投稿しています。

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米国案作成に関わった3人

マイアミで協議した?
マイアミで協議した?

 アメリカが示した和平案は、アメリカとロシアの高官が協議してつくったものだと報じられています。

 「ロイター通信(22日)」によりますと、アメリカの和平案を策定したのは、アメリカのウィトコフ中東担当特使と、トランプ大統領の娘イバンカさんの夫で第1次トランプ政権で大統領上級顧問を務めたクシュナー氏、それに加えてロシアの大統領特別代表であるドミトリエフ氏の3人だと複数の関係者が明かしたといいます。

 この3人は先月末、アメリカのマイアミで協議したといいますが、アメリカ政府の高官によりますと、トランプ政権が制裁対象となっているドミトリエフ氏について特別に入国を許可したといい、政権内部やアメリカ議会からは省庁間のプロセスを回避してロシアに有利な和平案がまとめられたとの懸念の声も上がっているといいます。

ウィトコフ特使の父方の祖父母は、ロシア出身
ウィトコフ特使の父方の祖父母は、ロシア出身

 そもそもなぜ、この3人なのでしょうか。

 まずはアメリカ側の2人についてです。和平合意の実現に尽力したウィトコフ中東担当特使とクシュナー氏は、パレスチナ自治区ガザの和平計画策定でもコンビを組んで停戦交渉にあたった人物です。

 元「時事通信社」モスクワ支局長で拓殖大学・客員教授の名越健郎さんによりますと、ウィトコフ特使は父方の祖父母がロシア出身でロシア革命前後にアメリカに移住したといい、4月に祖父母ゆかりの地であるサンクトペテルブルクで、プーチン大統領と直接会談も行っているそうです。

「影の外相」と称されるふるまいに批判も
「影の外相」と称されるふるまいに批判も

 一方、ロシア側のドミトリエフ氏は、スタンフォード大学やハーバード大学に留学したほか、アメリカの金融大手ゴールドマン・サックスに勤務するなどアメリカと関係が深い人物。妻はプーチン大統領の次女と同級生であり、もともと政権中枢にも近い人物として知られていました。

 ただ、名越さんによりますと「影の外相」と称されるふるまいには批判もあり、ラブロフ外相率いるロシア外務省とは軋轢(あつれき)も生まれていたといいます。

周囲には来年1月に退任する意向だと伝えているという
周囲には来年1月に退任する意向だと伝えているという

 そして、この協議にアメリカのウクライナ担当特使は参加していませんでした。

 「ロイター通信(19日・22日)」によりますと、アメリカのウクライナ担当特使のケロッグ氏は、この和平案の議論から外されていたといいます。そもそもケロッグ氏は、ウクライナ和平をめぐって「一方的な領土交換」を主張するウィトコフ特使と時折衝突しており、周囲には来年1月に退任する意向だと伝えているといいます。

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