高市総理の「台湾有事」発言に対し、中国の反発は激しい状況が続くが、『読む日曜スクープ』は2回に分け、元駐中国大使 宮本雄二氏の分析と提言を掲載する。≪前編≫の今回、読み解くのは、中国による日本批判と国内世論の動向。宮本氏によれば、中国国内で日本への理解が最も進んできたのが“今”だという。どういうことなのか。
1)外交を舞台に反日世論戦 それでも“対話”が途絶えてはならない理由
中国による対日批判が強まる中、11月18日には日中局長級協議が行われた。中国のSNSでは、日本の外務省の金井正彰アジア大洋州局長が中国の劉勁松アジア局長に頭を下げているかのように見える動画の切り抜きが拡散されている。番組では劉勁松局長の服装に注目。中国メディアによると、この服は「五四青年装」とされる。1919年5月4日中国・北京で起きた学生らによる反日デモをきっかけに広がった反帝国主義運動「五四運動」の際に、青年たちが着ていた服だという。
中国側がこのような服装で局長級協議に臨んだことについて、宮本雄二氏(元駐中国大使/宮本アジア研究所代表)は、「少なくとも自分が現役の時代にはなかった」と語る。
この局長級協議は定例のもので、日本側は「薛剣駐大阪総領事のSNS投稿に抗議」「在留日本人の安全確保申し入れ」を行い、中国側は「高市総理の台湾をめぐる発言に抗議した」とされる。宮本雄二氏(元駐中国大使/宮本アジア研究所代表)は、局長レベルの対話が途絶えなかった点を評価する。
久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)も、局長級協議の実施は評価する声が強いと指摘する。
2)中国から一斉反発 日本の対応“優先事項”と政治の役割
中国政府の様々な機関が一斉に日本に対する批判を展開している。
しかし、その中には、誇張された、事実に基づかないものもある。中国外務省は「近年、日本社会で中国国民を対象とした犯罪事件が増加し、右翼勢力やネット上での極端な脅迫的言動も目立っている」と主張したが、日本政府は反論。日本国内で起きた中国国籍者に対する凶悪事件の認知件数の推移を公表した。殺人、強盗、放火のいずれも今年1月から10月の認知件数は一昨年、昨年に比べ減少している。
宮本雄二氏(元駐中国大使/宮本アジア研究所代表)は、「極めて正しい対応」と日本側を評価した。
感情に感情をもって対応すれば、止まりようがなくなり、状況はますます悪化して誰の利益にもならない。事実に関しては事実をもって、感情的にならずに冷静沈着に対応をすることが極めて大切だ。中国は中国側の理由でさらに反発を強める可能性もあるが、そこは覚悟して、日本政府は冷静な態度を堅持してほしい。
久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)も、同様に政治の冷静な対応を重要視する。
3)「中国での日本の理解 最も進んでいるのが“今”」 なぜ?
気になるのは、中国国民の反応だ。中国外務省の毛寧報道局長は、「日本の指導者が台湾などの重大な原則問題について誤った発言を行ったため中国国民の怒りを引き起こした」と発言。宮本雄二氏(元駐中国大使/宮本アジア研究所代表)は、日中の民間交流に影響が及んでいることを危惧する。
中国の対日措置で一番深刻なのは、民間交流の停止だ。中国はここまで踏み込んできた。日中関係は尖閣のいわゆる国有化も含め色々あったが、その後、日本への中国人観光客はむしろ増え続け、私の想像を超える大きなインパクトを中国社会に与えた。中国社会は今、私の知る中で、最も対日理解が進んでいる。日本人と接触したり、接触した人の話を聞いたりした3割の人たちが日本社会をかなり理解してくれている。それまではそういう人は少なかった。対日理解を押し上げたのは、インバウンド、そして、それを支える民間交流。そこがストップしてしまうと、日中の相互理解に大きな打撃を与える。中長期的に見て日中関係に極めて大きなマイナスの影響を及ぼす。民間交流については、続けるべきであり、強化すべきだと声を大にして言いたい。
番組アンカーの杉田弘毅氏(ジャーナリスト/元共同通信論説委員長)は、国際世論の場で中国の対日措置がどう見られるかにも注視する。
(「BS朝日 日曜スクープ」2025年11月23日放送より)
<出演者プロフィール>
宮本雄二(元駐中国特命全権大使。宮本アジア研究所代表。公益財団法人日中友好会館会長。著書に「2035年の中国」(新潮新書)など。外務省中国課長、駐ミャンマー大使など要職を歴任)
久江雅彦(共同通信社特別編集委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』(岩波新書))
杉田弘毅(ジャーナリスト。21年度「日本記者クラブ賞」。明治大学特任教授。共同通信でワシントン支局長、論説委員長などを歴任。著書に「ポスト・グローバル時代の地政学」(新潮選書)など)





