アメリカが提案しているロシアとウクライナの和平案をめぐり、トランプ大統領は「合意に極めて近づいている」と明らかにしました。
「協議は順調だ。ロシアから始まり、いまも話し合っている。いま、戦況は、一方向にしか進んでいない。数カ月で、ロシアが奪う領土のために、5万、6万の兵を無駄にしたいか?それとも、いま行動するか?」
フィナンシャル・タイムズによりますと、アメリカとウクライナの高官同士によって策定されたのは、19項目の和平案。詳細はわかっていませんが、軍事面でかなり大きな変更があったそうです。
「ウクライナは、軍の規模を増強しないことに合意した」
今回の和平交渉の関係者の一人、ドリスコル陸軍長官は、ウクライナ側にかなり強く譲歩を迫ったそうです。
「ロシアは、空爆の規模を拡大し、頻度を高めており、無期限に戦闘を継続する能力を有している。将来、さらに弱い立場に追い込まれるよりは、いまこそ和平合意をすべきだ」
東部に目を向けてみると、この数カ月で、ロシアの支配地域に劇的な変化があったわけではありません。しかし、ロシア軍が押し込んできている地域には、要衝も含まれていて、ウクライナにとって不利な戦況が続いています。
それゆえに、アメリカが突き付けたのは「負けているから、和平案を受け入れるべきだ」というものでした。
「アメリカは、依然として、NATOに大量の兵器を供給・売却していますが、永遠に続けられません」
和平案の中で、領土割譲やNATO加盟に関する項目は、今後、首脳同士で協議することになります。ただ、この2点に関して、ウクライナは、譲歩したことはありません。それでも今回は。
「和平案は、より現実的なものに仕上がりました。ウクライナは、決して、和平の妨げになりません。国民は、尊厳ある平和を望み、それを得る権利があります」
なぜ、流れは変わってきたのでしょうか。
ウクライナでは、先日、エネルギー相と司法相の2人の閣僚が解任されました。総額1億ドルに及ぶ横領が原因です。しかも、その金は、ロシアの攻撃から原発を守るためのインフラ整備に使われるものでした。
ゼレンスキー大統領の盟友が、汚職で失脚となると、4年に及ぼうとしている戦争への忌避感は強くなります。
「政権幹部が、戦争で金儲けをしていることが発覚しているなかで、命をかけて国を守ろうとする若者が、いなくなるのは当たり前のこと。現政権がこの体たらくでは、アメリカが『こういう和平案で合意しろ』と言ってきたら、断れない」
クレムリンは、現在、和平案に対して、明確な反応をしてはいません。アメリカからの公式な提案を待っている状態です。
「(Q.和平案は受け取りましたか)公式にはまだですが、文書は持ってはいます。和平案の一部は、前向きに捉えられますが、多くの部分は議論が必要です」
26日夜、プーチン大統領とルカシェンコ大統領の会談の様子が入ってきましたが、カメラの前で和平の件に言及はしていませんでした。
ウクライナ国民からは、こんな声が上がります。
「(Q.和平への期待は)和平が実現しても、私たちの命と言う代償が伴います」
「戦争が終わるのか…夫は兵士で、行方不明です。戦争が終わりそうにありません。状況があまりにも恐ろしい。早く勝利宣言を聞きたいけど、そんな日が来るのでしょうか。一日一日、生き延びるだけで精一杯。そうできなかった人たちもいます」
◆トランプ大統領が示す和平案。今度こそ、まとまるのでしょうか。
防衛省防衛研究所の兵頭慎治さんに聞きます。
(Q.停滞する感もあった和平案でしたが、アメリカがまた新たなものを出してきましたが、どう見ますか)
「これまでのトランプ大統領は、何度か和平案を提起しました。ときにはロシア寄り、ときにはウクライナの肩を持つような形。最近は、ロシアへの経済制裁強化に乗り出したりして、厳しい姿勢に転じたのかなと思いきや、今回、ふたを開けてみると、当初の28項目というのは、ロシア寄りの案をまた出してきました。ロシアとウクライナの間で、トランプ大統領自身が、スタンスを行ったり来たりしているという。これに加えて、アメリカ・ロシア・ウクライナを含めた同時協議を行わないことと、外交国防当局の関与させた下調整もないということなので、これまでの空回りしてきた構図は、今回も変わってないように見えます。ただ、大きな変化というのは、ゼレンスキー政権の巨額な汚職問題。これが発覚したので、いま、政権基盤が大きく揺らぎつつあるということです。これが、どの程度、今後の和平交渉に否定的な影響が出るかどうか、注目されます」
ウクライナで起きている汚職事件。
エネルギー業界の大規模な汚職事件に関わっているとして、現役閣僚の2人が辞任しました。ロシアの攻撃からエネルギーインフラを防御する建設工事で、業者からキックバックを受けていた疑いが持たれています。関与が疑われている人の中には、ゼレンスキー大統領の元ビジネスパートナーもいて、家宅捜索の直前に出国しています。
(Q. この問題が、和平案にどのような影響を与えるのでしょうか)
「まず、ウクライナ国内の悪影響。これまでは、ゼレンスキー大統領は、国民から大きな支持を受けたうえで、国内結束して、ロシアの侵略に向き合ってきました。この事件を経て、反発の声が高まっているということですから、政権の基盤が揺らいでいく可能性が出てきたと思います。そして、欧米諸国からのウクライナへの支援。こういう汚職が続くと、慎重姿勢が出てくる可能性もあると。さらに、今回、アメリカから和平案を突きつけられていて、最後通告のような形でいわれているわけです。そうすると、今後のアメリカとの関係。ここも相当気を使いながら、ゼレンスキー大統領は、交渉を進めていかざるを得ないかと思います」
この1週間で、和平案については大きく動いています。まずは、戦況です。
ルハンシク州は、ほぼ全域をロシア軍に制圧されていますが、ドネツク州は2割ほど、ウクライナが強固な要塞を築き、領土を守っています。 ある意味、長期間、戦況は停滞しています。
そんななか、20日、アメリカがウクライナに28項目からなる和平案を提示。主な内容としては、ウクライナ軍の規模縮小、NATO軍は駐留せず、領土問題に関しては、クリミア半島、ルハンシク州、ドネツク州を事実上のロシア領とする、ザポリージャ州、ヘルソン州に関しては前線に沿って凍結をするという内容となっています。
23日、ウクライナとアメリカが協議を行い、和平案が修正されました。内容は明らかになっていませんが、海外メディアによりますと、19項目に絞り込まれ、領土割譲など、ウクライナが受け入れ難い項目は、先送りされたという。和平案の最終決定に向けて、来週にもアメリカのウィトコフ特使が、プーチン大統領と会談する見通しです。
(Q.ゼレンスキー政権の基盤が弱まり、プーチン大統領が強く出てきそうな局面において、交渉を見ていくうえでポイントはどこでしょうか)
「プーチン大統領が戦争目標として、繰り返し、掲げている紛争の根本原因の除去。それが、以下の3つです。
●ウクライナの中立化(NATO非加盟)
●非ナチ化(大統領選挙実施)
●非武装化(軍備縮小)
一言でいうと、ウクライナを属国化させていくということです。具体的に説明しますと、まず、最初の中立化というのは、ウクライナがNATOに加盟しないことですが、これはトランプ政権がNATOに入れない方針を示していますので、方向性が見えていると。そして、非ナチ化というのは、現在のゼレンスキー政権が、反ロシア的な政策をとっているので、政権交代をしてもらいたいと。これは、当初の28項目のなかにも、停戦が合意された場合、100日以内にウクライナが大統領選挙をすることになっています。いま、ゼレンスキー大統領は、戒厳令下なので、任期が切れていますが、大統領を続行しています。いま、汚職問題も出ているので、大統領選挙を早期に実施することになれば、政権が交代する可能性が出てきました。最後の非武装化。これは、ウクライナの軍事力の縮小なのですが、ここに、プーチン大統領としてはめどが立っていないと考えているので、今回の和平案のなかでも、軍事力縮小に関して、ウクライナが受け入れるかどうか。受け入れることになると、ウクライナの属国化というのが、かなり前進することになると思います。プーチン大統領は、必ずしも領土制圧自体を目的としているわけではなくて、ウクライナが属国化するのであれば、領土の制圧は、必ずしも、優先するわけではないということですので、この交渉がうまくいくかどうかは、非武装化の交渉がどうなるのかが大きな注目点ではないかと思います」
(Q.“領土”の線を先送りしたままで、和平はできるのでしょうか)
「本格的な和平合意ということからすると、領土を確定しなければいけないのですが、トランプ大統領は、早期の停戦にこだわっているとのことなので、この領土の問題は、とりあえず玉虫色にした形で、プーチン大統領としては、一時的な停戦。それは、先ほど言いました非武装化が実現するのであればということになりますけれども、その余地はあり得ると。いずれにしても本格的和平、終戦になるかどうかというのは、まだまだ見通せないのではないかと思います」
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