アメリカのトランプ大統領はウクライナ和平をめぐり、来週にもロシアへ特使を派遣する見通しです。ウクライナの領土問題が焦点となる中、戦闘の最前線から20キロの街の実情が見えてきました。
米露協議の焦点は領土問題
まずは、和平案をめぐる動きです。プーチン大統領の出方に注目が集まっています。
当初、アメリカは28項目の和平案を作成。領土について「ドネツク州、ルハンシク州とクリミア半島は事実上ロシア領として承認」とされていました。
「フィナンシャル・タイムズ」(24日)によると、それが修正案では19項目に絞られ、欧州とウクライナの主張を反映し、領土の割譲などの懸案は先送りとされたということです。
そして、アメリカのウィトコフ特使が来週にもモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談する見通しです。
ただ27日に、プーチン大統領は停戦の条件について言及。「ウクライナ軍が占領地域から撤退したとき戦闘が終結する」とし、「もし撤退しない場合は我々は武力によって目的を達成する」と述べ、領土問題で譲歩しない考えを示しました。
そもそも当初の和平案には、ロシアが関与しているとの報道があります。
「ロイター通信」(26日)は、当初案について、ロシアがアメリカに送った非公式文書を基に策定されたものだと報じています。
また、「ブルームバーグ」(26日)は、和平案の策定に関与したとされるアメリカのウィトコフ特使とロシアのウシャコフ大統領補佐官が先月14日に行った電話会談の録音データを入手したとしていて、ウィトコフ氏は会談で「和平合意をまとめるために何が必要かは分かっている。ドネツクなどの土地の交換かもしれない」と述べたといいます。
ドネツクはウクライナ東部にあり、激しい戦闘が続く地域。ロシア側の要求を理解しての発言だったとみられます。
ロシアは、このドネツクを含むドンバス地方に固執してきた歴史があります。
ロシアに接するドネツク州、ルハンシク州にはロシア系住民が多く、2014年に大規模デモ「マイダン革命」が起きると、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が崩壊。ドンバス地方では親ロシア派の武装勢力が一方的に独立を宣言。ウクライナ軍と軍事衝突しました。
翌2015年、この地方での停戦や和平の道筋を定めた「ミンスク合意」が結ばれ、ドンバス地方に限定的な自治権など「特別な地位」が認められました。
ただ、その後も停戦違反が相次ぎ、ドンバス地方での紛争は続いていました。
そして2022年2月、親ロシア派の2つの「人民共和国」をロシアが国家承認。その2日後、ロシアはウクライナに軍事侵攻しました。
アメリカの戦争研究所によると、現在、ロシアはルハンシク州のほぼ全域を支配していますが、ドネツク州では約8割で、全域は掌握できていません。
最前線に最も近い街は今…
そんな中、ロシア軍が迫る“最前線の街”はどうなっているのでしょうか。
その“最前線の街”というのが、東部ドンバス地方のクラマトルシクです。ロシアが攻勢をかける最前線から、わずか20キロの場所に位置しています。
このクラマトルシクは、ドネツク州北部の主要都市。ウクライナの重工業の中心地の一つで、2014年以降、ウクライナがドネツク州政府や議会の機能の一部を移管した都市です。
住民のうち、ウクライナ人が約70%、ロシア人が約27%を占めています。
そのクラマトルシクを中心に行われている住民の救援活動を取材したところ、避難していない住民がまだたくさんいることが分かりました。しかし、なぜ避難しないのでしょうか。
取材で度々ドンバス地方を訪れているフォトジャーナリストの小峯弘四郎さんは、「ドンバス地方の特殊な地域性も一因か」と指摘します。
小峯さんによると、そもそもウクライナでは西と東で緩やかな“断絶”のようなものがあるといいます。
ソ連時代はウクライナ東部が工業で繁栄。しかし、民主化後は西部が経済で発展を遂げ、逆転現象が起きました。その結果、職業、消費文化、ファッション、趣味、生活の便利さなどで、東西格差が出て、ドンバス地方には、“ロシアでもウクライナでもない”という感覚を持つ人がいるといいます。
一方、クラマトルシクに残る人の中には、こんな考えの方もいます。
避難活動のボランティアでドネツク州出身のオルガさん(43)は、生まれた街は破壊され、母親や家族はウクライナ中央部に避難したといいます。
そんなオルガさんに、話を聞きました。
「(Q.和平合意後、ロシアが再侵攻する可能性は?)ウクライナ政府がロシア政府を信じることはないでしょう。約束をすべて守るとは思えません。一般の我々も、その確信は持っていません」






