日本時間の先月30日夜、アメリカ・フロリダ州で、ウクライナ代表団とアメリカの高官による和平協議が行われた。出席したアメリカのルビオ国務長官は「進展があった」としつつも、「残された課題は山積み」との認識を示した。
今週中にも米ロで和平会談か
まずは、ウクライナ和平を巡る日程を見ていく。
先月20日にアメリカが28項目の和平案を、ロシアとウクライナに示したとの報道があった。先月24日には、アメリカがウクライナと協議して19項目に削減した修正案の存在が報じられた。
そして日本時間の先月30日夜、アメリカとウクライナが和平協議を行い、今週中にもアメリカとロシアで和平会談が行われるものとみられる。
最大の争点「領土問題」の行方
では、なぜこのタイミングで協議が行われたのか見ていく。
フロリダ州マイアミで行われたアメリカとウクライナの和平協議には、アメリカ側はルビオ国務長官、ウィトコフ中東担当特使、トランプ大統領の娘婿のクシュナー氏らが出席し、ウクライナ側はウメロフ国家安全保障・国防会議書記らが出席した。
今回、協議が行われた背景に、アメリカのウィトコフ特使が、ロシアを訪問する前にウクライナ側と和平案の内容を最終調整したい考えがあるとみられている。
ゼレンスキー大統領はこの協議には出席していないが、協議後にSNSで「すべての問題が率直かつウクライナの主権と国益の確保に向けて話し合われた」と協議を前向きに評価した。
和平案を巡る協議では、重要な論点は先送りされてきたという。
ニュースサイト「アクシオス」によると、トランプ政権が示したとされる28項目の和平案には「ドンバス地方とクリミア半島を事実上のロシア領と承認」「NATO非加盟とウクライナの憲法に明記」「ウクライナ軍の規模を60万人以下に制限」など、“ロシア寄り”とされる内容を含んでいた。
ただ、前回のアメリカとウクライナとの高官協議でこの28項目が19項目に削減されたという。
具体的な修正内容はまだ公表されていないが、ウクライナ和平を考える国際専門家グループの会合に出席していた、慶応大学の廣瀬陽子教授に聞いたところ、注目すべきは「領土」「安全の保証」「軍備」の3つの中核的問題がトップ会談に丸投げされている点だといい、ウクライナがどうしても受け入れられない「レッドライン」は首脳会談に先送りしていて、歩み寄りも進展もないと指摘している。
その先送りされた論点の中で最も対立が鮮明なのが「領土問題」だ。
「アクシオス」によると、アメリカが示した案では、ドンバス地方とクリミア半島の領土の「割譲」が前提となっていたのに対して、「ロイター通信」などによると、ウクライナやヨーロッパは「割譲」を前提とせず、現在の前線を交渉の起点にする案を示している。
一方でロシアのプーチン大統領は先月27日、ロシアが戦場で主導権を握っているとの見解を改めて示したうえで、「戦闘が終わるのはドンバス地方からウクライナ軍が撤退した時だ」と領土問題で譲歩しない考えを強調している。
ウクライナ政府“ナンバー2”を解任
そんな中、ゼレンスキー大統領は自身の最側近とも言われるナンバー2を解任した。和平協議にどのような影響があるのだろうか?
先月28日、ゼレンスキー政権の事実上のナンバー2とされるウクライナのイエルマーク大統領府長官が解任された。
「ニューヨーク・タイムズ」によると、イエルマーク氏は弁護士や映画プロデューサーなどの経歴を持ち、ゼレンスキー氏のコメディアン時代からの“盟友”とされ、2020年からは大統領府長官を務める、ゼレンスキー大統領の“最側近”とされる人物だ。
解任の理由は巨額の汚職事件への関与疑惑だという。
国営原子力企業「エネルゴアトム」が発注した企業から、ゼレンスキー氏の元ビジネスパートナーのミンディッチ氏がキックバックを受け取っていて、その一部がイエルマーク氏など政権関係者に流れた疑いが持たれている。
総額でおよそ156億円にも上るこの資金は、ロシアの攻撃から原発を守るためのインフラ整備に使用されるはずのものだったという。
事件を受け、ゼレンスキー大統領はフリンチュクエネルギー相と前のエネルギー相であるハルシチェンコ司法相を解任したが、野党側はそれだけでは不十分だとして、内閣総辞職を要求している。
また、最側近の解任が和平協議にも影響しているという。
イエルマーク氏はウクライナ側の交渉団の代表を務めていて、イギリス「フィナンシャル・タイムズ」によると、先月23日に行われた前回のアメリカとの協議は、緊迫した空気で始まったが、イエルマーク氏がルビオ氏と2時間近く話し、場の空気を和らげ、修正議論にこぎ着けたといい、名実ともに中心的な役割を担ってきたという。
解任を受けて、和平協議はウメロフ国家安全保障・国防会議書記らが引き続き担当することになった。
高市総理 和平案の修正要求
高市政権はウクライナを支援する姿勢を強調していて、アメリカに和平案の修正を求めている。
先月22日、高市総理は、G20サミットにあわせて南アフリカで開かれたウクライナ和平に関する首脳会合にアジアの首脳としては唯一出席し、「ウクライナの将来はウクライナの意思を最大限尊重し、支えていくべきだ」と発言した。
会合に出席した高市総理やヨーロッパの首脳らは共同声明で「国境が武力で変更されるべきでない」とし、アメリカの和平案には「追加の作業が必要」だと修正を求めている。
(「大下容子ワイド!スクランブル」2025年12月1日放送分より)








