韓国・ソウル市内のマンション価格が高騰し、平均価格は1億4000万円を記録している。しかしソウル市内の会社員の平均年収は約680万円と、とても一般市民が手を出せる価格帯ではない。
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そのため韓国政府は、外国人による投機目的の不動産取得の制限に取り組んでいる。対象区域内で外国人が不動産を購入する場合、購入許可後4カ月以内の入居と、最低2年間の居住を義務づけるというものだ。
同じくマンションが高騰する日本でも、外国人による不動産取得の実態をつかむために、不動産の登記時に所有者の国籍の記入を義務づける方向で調整に入っている。不動産高騰に対して、どう対処すればいいのか。『ABEMA Prime』では、日韓それぞれのマンション事情から、今後の対策を考えた。
■ソウル市内でマンション高騰、近郊でも敷金100万円超は当たり前

ニッセイ基礎研究所上席研究員で、亜細亜大学特任准教授の金明中氏は、高騰の背景には「需要に比べて供給が足りない状況が続いている」ことがあると説明する。「ソウルと首都圏は、韓国全体の11.7%の面積にすぎないが、人口は50%を超えている。就業者も若者も半数以上がソウル在住で、『いつかはソウルで成功して、良いマンションを買いたい』という夢を持っているため、価格が上がっているのではないか」。
また、韓国には「不動産不敗神話」というものがあるといい、「『不動産を買っておけば、いつかは上がるから失敗しない』という考え方が根強い。経済的に余裕があれば、他の金融商品よりも、不動産に投資しようとする動きが強いのも要因だ」と解説した。
ソウルの病院で通訳として働き、市内で引っ越しをしたばかりだという田中さん(30代)は「賃貸でも費用が大変だ」と語る。「日本の敷金にあたる“保証金”が高い。お金のない学生相手でも30〜50万円が基本で、一般的には100万〜500万円を一度に出してから、プラスで家賃を毎日払う。退去時には全額返ってくるが、入居時の負担は大きい」。
ソウルと近郊での差については、「東京に対する神奈川にあたる地域に京畿道がある。私が住んでいるカンナムから、京畿道の一番近いところまでは、地下鉄で15分程度だが、そうした地域はソウル同様に家賃が高い。30〜50分離れても、1〜2万円ぐらいの差だ」と話す。
引越しに際しては「職場のあるカンナム付近で、約15〜30分のところを探していたが、予算的にも厳しく、物件探しは難しかった」という。「同世代の同僚を見ても、通勤1時間超の人は結構いる。そういう人なら家賃もだいぶ安いだろう」。
保証金の相場は「だいたい同じ。探せば安いところもあるが、築年数がたっていたりする。新築で20〜30代が好むような物件では、100万円と聞いても高いとは思わない。100万円ぐらいがベースだろう」とした。
職場で引越しを報告した時には、上司から「家賃が高い地域だから、親御さんが手伝ってくれたんだよね」と言われて驚いたという。「韓国には軍隊もあり、日本より社会人スタートの年齢が遅いため、30代前半でも親が支援することが結構あるらしい」。
韓国でのマンション高騰は新築に限らない。先に紹介した「平均1億4000万円」は、マンション全体の価格だ。「同世代の普通の会社員では、ソウルで家を買うのは無理だ。人気のある地域では3億円を超える」ため、「新婚夫婦はソウル以外で、買える範囲の家を買い、年齢が高くなるにつれて、家を買い換えていく」といった手法をとるという。
金氏によると、「韓国は教育を中心にした社会で、良い大学や塾が集まる場所はソウルだという意識が強い。『子どもがソウルの塾まで通うのはかわいそうだ』と、塾が多いソウル市内に住もうとする動きがあるのは、日本との違いだろう」という。
教育については「韓国では1960〜70年代に、中学・高校入学が試験からくじ引き制になったため、地方の名門校がなくなり、ソウルに集中するようになった。国立大学はつぶれ、企業も地域から離れた。これは大きな政策の間違いだった」と解説する。
加えて、「雇用が安定していない」ことも問題視する。「日本は大卒就職率が98%だが、韓国は7割しか就職できない。雇用が安定していないため、住宅を購入できず、結婚もできない。結婚ができないことが、出生率低下にもつながっている」。
■問題視されるべきは国籍ではなく投機?

昨今の高騰抑制策をどう見るか。金氏は「不動産投機を減らす目的があるが、取引量は減少しても、価格はまだ上昇している」として、その背景に「資金調達の多様化」を挙げる。韓国では6月に住宅融資枠を制限したが、「銀行だけでなく、家族や親戚からもお金を借りる。株価高騰で株式市場から調達する人もいる。現金を10億ウォン以上持つ人も、韓国内に50万人以上いるとされ、規制に関係なく住宅を購入できる環境になっている」という。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は、「日本でも韓国でも『外国人を規制すれば解決するのでは』と言われるが、外国人の投機をやめさせたいなら、日本人もやめさせないといけない。それは簡単で、居住しない物件の固定資産税を5倍などにすればいいだけの話だ。住宅ローンも『居住の有無』で明確に区別できている。それもやらずに外国人の取引規制をするのは、経済政策として効果のない単なるパフォーマンスだ」とした。
元経産官僚で自民党東京第8選挙区支部長の門ひろこ氏は、「取引における実質的支配者がわからない。よくわからない人が土地や住宅の所有権を持っていて、全然違う使い方をしているのに、国は何もできていない。日本はG7で唯一、『不動産ベース・レジストリ』(登記情報を一元化したデータベース)をやろうとしているが、これらで不透明な取引を抑制する」との方向性を示す。
また、「外国人のみ固定資産税を上げるのは、憲法や国際条約に引っかかるため難しい。ただ、実質的な支配者を明らかにした上で、居住の有無を明らかにするのは、いま高市政権が進めている政策だ。おそらく韓国も、日本の法律と近く、『不透明な取引による投機への対策が打てていないため、外国人をねらい撃ちにしている』のではないか」とする。
夏野氏は「日本では、情報を不動産会社が持ちすぎて、業界が効率化されていない。1カ月に1件扱えば、それで食っていけるような不動産業者が都心に山ほどある」と指摘する。「これにより、必要以上に価格が上下するなど、操作された価格になっている。税制を変えるとともに、不動産業界を改革しないといけない」。 (『ABEMA Prime』より)
