台湾有事をめぐる高市早苗総理の発言から1カ月、中国の反発がエンタメにも影響している。歌手の浜崎あゆみさんの公演は前日突然中止され、「ゆず」も予定していた香港、上海、台北をめぐるアジアツアーを全公演中止した。また、上海で開催されたイベントでは、大槻マキさんの歌唱中に突然、照明と音声が消され、強制的に中断された。
現地SNSでは、日本関連のエンタメイベントが中止になることについて、賛否が割れている。『ABEMA Prime』では、中国人YouTuberやジャーナリストが、いま中国人はどう思っているのかを解説した。
■相次ぐ公演中止への反応は

相次ぐ公演中止に対して、中国人からは「公演キャンセルに胸が張り裂けそう。なぜ観客やアーティストが政治問題の責任を負わないといけない?」「少なくとも1週間前には知らせるべき」といった反応が出る一方で、「中国全国民が日本に怒ってる時に、こんなイベントは絶対に行うべきではない」「こんな時に日本の歌手を呼ぶなんて、主催者の背景を調べるべき」との批判も見られる。
在日中国人YouTuberの朱氏は、イベントの中止が相次いでいることは残念だと考えている。「絶対に政府がプレッシャーをかけているが、彼らはエビデンスを残さない。『俺がやっているのではない』と言う。大槻さんのライブ会場で撮られた映像には、『ばかじゃないの』といった観客の声も入っていた。航空券を買い、ホテルも予約するため、当然ながら観衆は怒る」。
ジャーナリストの周来友氏は、「今の外交状況において、政治と文化を切り分けることは理想論にすぎない」との立場を取る。「現場の忖度(そんたく)だけではできない。今回は『強気に行く』と上が方針を決めている」。
中国側の対応には「明らかにやりすぎで、オウンゴールのような感じだ。中止でなく『延期』と言えばいい。不可抗力を理由にしているが、誰からも信用も理解も得られない。なぜ『歌詞の翻訳に時間がかかる』『照明が故障した』などと言い訳しなかったのか。逆に日本側に攻撃材料を与えてしまった」と疑問を抱く。
自民党経済産業部会長の小林史明衆院議員は、「中国は間違ったところに手を突っ込んだ。国民も楽しみにしているカルチャーを止めて、国内から批判の声が上がるのは、中国政府として一番避けたかったポイントだろう。対応をミスしていると冷静に感じる」と語る。
文筆家で情報キュレーターの佐々木俊尚氏は「このような事態は尖閣国有化や総理の靖国参拝で、何度となく繰り返している。その度に中国は、国内の反日感情をあおって、対立に向かわせてきた。とはいえ、全てが成功しているとは限らず、収拾が付かなくなった反日デモを抑えることもある。その一環と考えると、驚く話ではない」とする。
今回については「『水産物の輸入停止』と『エンタメイベントの中止』の2つしかやらず、一番重要な『レアアースの輸出停止』はやらなかった。そこまで強く出られないという思惑があるのだろう。ただ、文化と政治が密接に関わっていると知ったインパクトは、中国側も日本側も大きい」と話す。
■日本のエンタメは好き、でも日本は嫌い 中国の本音

朱氏によると、「中国ではネットの意見が分断している。『我々はただ歌を聴きたい民間人だ』といった発言も、逆に『エンタメを楽しんでいる場合じゃない』という内容もある。実際の声も『ねじ込んでも給料は上がらない』『払った旅費は戻らない』などと、政府に賛同している人は多くなさそうだ」という。
佐々木氏は「中国国内で『政治が口を出すな』と言う人が増えるのは、日本のソフトパワーの高まりを意味するのではないか。音楽やアニメ、マンガ、食事などは、世界中に影響力を与えている。軍事力と経済力の“ハードパワー”に対して、文化的なソフトパワーが強大であり、中国に影響を与えるのはいいことだ」と考える。
この意見に小林氏は、「外交は内政の先にあり、国民の世論によって、外交姿勢も変わってくる。中国もそこを気にしているなら、日本のエンタメを失ったことへの批判が強ければ、今後コンテンツの取り扱いが変わってくる可能性がある」と反応した。
周氏は「中国国民の日本に対する反発は根強く、政府にどんな不満があっても、大半の国民は一致団結する。怒りを表しているのは10%程度でも、実際には30〜40%いるだろう」と推測する。「『日本文化は好きだけど、日本は嫌い』という人はいっぱいいる。いままでの教育のせいだろう」。
■今回の関係悪化、落とし所は?
今後、中国側の態度はどうなるのだろうか。朱氏は「文化も経済も、いったんグローバル化のドアを開くと、閉めるのはほぼ不可能だ。あと2〜3カ月、せいぜい半年すれば、また普通に交流が始まり、ビジネスが再開する。そうなれば、中国政府にとっても逆戻りは不可能だろう」と予想する。
小林氏は「政治より経済が先に回復するだろうが、文化を大切にすることへの関心が高いため、そこから先に回復する可能性がある」と見通す。「日本にとって当たり前の価値観が通用しない国だということを、前提にしないといけない。コロナ禍ではマスクを輸出してくれないケースも起きた。リスクを考えると、依存しすぎるのは良くない」。
このような場面は、幾度となく繰り返して来たが、佐々木氏は「明快な政治的解決は一度もなく、なんとなく終わっている。高市総理が発言を撤回すれば、『台湾有事は存立危機事態にならない』と明言することになるため、絶対にできない。中国も『台湾は国内問題』の主張を引けないため、いままで通り、あいまいなうちに終わるだろう」と推測する。
周氏は「中国政府に『最後まで日本とやり合おう』という気持ちはないだろう。あくまでアメリカと対峙(たいじ)するために、日本をカードとして使う。今回の“自粛”も12月いっぱいまでで、来年の正月や春節には『もういいよ』となる」との見解を示した。 (『ABEMA Prime』より)
